31:なんか心拍数上がってきちゃったじゃん……
……⁉
刀岐は素早く扉を閉めた。
突然薄暗い体育倉庫に連れ込まれ、私は訳が分からなかった。
「俺、ちょっと力を使い過ぎたから休みたい。三十分ぐらいしたら起こして」
刀岐はそう言うと私の口から手を離し、そのまま私を抱き上げた。
「え、休むって、ここで⁉」
「そう。見つかればまたどっかに連れてかれて質問攻めだ」
「で、でも、こんな場所で……」
「大丈夫。バレないようにしておいたから」
刀岐は私をマットにおろした。
「八咫兵衛、鈴の回復をしろ」
そう言うと私から鈴を受け取り、跳び箱の上に置いた。すると霊体化していた八咫兵衛が姿を現し「了解」と言い、跳び箱の上に降りた。
刀岐はマットに腰を下ろすとそのまま横になり私を抱き寄せた。
「な、なんで、私は別に休まなくて大丈夫なんだけど⁉」
「俺が休むのに必要なんだよ、澪が」
刀岐はそう言うと、それが当然というように私のことを腕の中に包み込んだ。
清涼感のあるミントの香りが胸の中に広がった。
「ちょっと、一緒に寝るって一度だけじゃなかったの⁉」
私は刀岐の胸板を拳で叩いた。
が。
刀岐は既に寝息を立て眠りに落ちていた。
まるで気絶するように眠りに落ちてしまった。
……それだけ力を使ったということ……?
使っている。
間違いなく使っている。
とんでもない数の神を、刀岐は一人で降臨させていたのだ。
しかも結界だっていくつも展開していたし、その前に百目鬼の呪いの箱も浄化していた。
疲れ切って当然だった。
私は刀岐の顔を見た。
扉の隙間から差し込む光が、刀岐の顔を照らしていた。
少し長めの前髪が閉じられた瞼にかかっていた。
眉毛は左右対称にきちんと揃えられている。
瞼から伸びる睫毛は長く、鼻筋はすうっと通っていた。
彫の深い顔立ちだった。
……!
刀岐の唇って、女子並みに綺麗かも。
形も整っているし、艶もあるし、弾力もありそう……。
私の目に力を与える時、瞼に触れたのはこの唇なんだよね……。
ヤバい。
なんか心拍数上がってきちゃったじゃん……。
私は目をきゅっとつぶり、別のことを考えようとした。
そう、そうだ。
三十分たったら起こせ、って言われたけど、スマホもないし、絶対無理だよ。
羽音がしたので顔を上げると、八咫兵衛が降りてきた。私は小声で尋ねた。
「鈴は回復した?」
「おう。バッチリよ。今はそのまま休ませてある。それでと。コイツのことも回復させないとな」
八咫兵衛はマットの上に降りて、羽で刀岐の髪に触れた。
「……ねえ、八咫兵衛たち神使は私たちの力を回復できるけど、回復って他に手段はないの? 例えば理の守り手同士で回復とか、できない?」
「できるよ」
「本当に⁉」
「ああ。理の守り手はみんな同じ力を持っているから、本来誰でもお互いに回復できるんだ。でも、その方法が人間にとってはちょい特殊だから、やっている奴は少ない。どうしてもっていう緊急時にはやるんだろうけど。あと基本、神使がいるし、たいていの場合それで事足りるから、やらない、っていうのもあるだろうな」
刀岐の言葉がよみがえる。鎮守府の業務の八割は除霊と浄化。
さっきみたいな無茶な力の使い方をすることなんて、そうないはずだ。
「それで、もし回復するとしたらどうやるの?」
「口と口をあわせて、そこに力を送り込む」
「えっ⁉」
「ゆっくり優しく、息を送り込むように力を送り込むんだよ。そうすれば力は体内の隅々に行き渡る」
「……そ、そうなんだ」
「ああ」
八咫兵衛はそう言うと、刀岐の天柱封じのペンダントを器用にずらし、憑依に使う天柱とは反対、右側の天柱に嘴をあて、回復を始めた。
結局。
さっき、私は刀岐が展開した防御結界にただいただけで、何もできなかった。
刀岐は私を守るためにそばにいさせた、と言っていたが……。
余計な結界に力を使わせただけで、私はやはり足手まといなんじゃ……。
刀岐の言葉がよみがえる。
「澪のことは俺のそばから離したくなかった。俺が絶対に守る。澪は俺の大切な、かけがえのないデュオだから」
無力な私に刀岐がかけてくれた言葉は、今思い出しても胸に染みた。
私に、何かできないのだろうか?
力をまったく使っていない私はこんなに元気で、刀岐は死んだように眠っている。
せめて回復でもできれば私がそばにいる意味があるのだが……。
まさか口と口で行うなんて……。
私は小さくため息をついた。
八咫兵衛みたいに天柱から回復はできないのかな。
刀岐のためにできることがないか、そんなことをひたすら考えていた。
すると。
体育倉庫は薄暗く、静かで、私は刀岐の寝息を感じていて。
気づいたら瞼が重くなり、そのまま眠ってしまった。
第二部の連載が明日、10月26日のお昼11時からスタートします。
甘々、溺愛、イケメン
そして第二部からゆるくR15要素はいりましたが
お楽しみいただけると幸いです。
『千年片想い~ピュアな魔王の純愛記~【Episode2】天界大騒乱』
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