27:ハラハラドキドキ
スマホのアラーム音に私は目を開けた。
……あれ、なんか胸のあたりに……。
……‼
一気に目が覚めた。
私は刀岐の腕の中で抱きしめられて寝ていたはずだった。
だが、今、私が刀岐を抱きしめ、私の胸に顔をうずめるようにして刀岐は眠っていた。
い、いつの間に……。
私は身をよじり、スマホのアラームを止め、刀岐の顔をずらし、上体を起こした。
……というか、刀岐、ちゃんと眠れたってことだよね⁉
私は刀岐の肩を揺すった。
「うーん」と言い、寝返りを打ち、「ハッ」とした様子で振り返った。
「……澪!」
「おはよう。ぐっすり眠れた?」
「うん。爆睡できた。ありがとう、澪」
「……!」
刀岐に抱きつかれ、私はベッドに倒れた。
「刀岐、ストップ! 起きて、準備」
「ああ、そうだったな」
刀岐は嬉しそうにベッドから起き上がった。
◇
一旦私は自分の部屋に戻ってシャワーを浴び、制服に着替え、リビングに向かった。
既にキッチンで刀岐、悠、陽が朝食の準備を始めていた。
「おはようございます!」
私の声に、皆口々に「おはよう」と笑顔を見せた。
エプロンをかけ、私も朝食の準備を手伝った。
陽が目玉焼きとウィンナーを載せたお皿を運び、刀岐がテーブルに並べたマグカップにコーヒーを注ぎ、キッチンには私と悠の二人になった。
私は順番に器にヨーグルトをいれ、悠はそのヨーグルトに刻んだフルーツを載せていた。
「……澪ちゃん、上手くいったみたいだね」
「……!」
「澪ちゃんの叫び声が聞こえたらってハラハラドキドキだったけど、何事もなくてよかった」
悠が私を見て微笑んだ。
「はい。ちゃんとお行儀よく、ぐっすり眠ってくれました」
「そうか。良かった」
悠の顔が笑顔になった。
カタンと音がしてトーストが焼けた。
「陽、刀岐、パン、焼けたよ」
私の声に二人は元気よく「はーい」と返事をした。
◇
朝食を終え、マンション前の公園を何事もなく通過し、学校へ向かった。
悠と陽は私たちを正門まで見送ると、「授業が終わったら迎えに行くから」と言って鎮守府へ戻っていった。
余裕をもって教室に到着することができた。
刀岐がホームルームから席にいることに、生徒の多くが驚いていた。
そして体育館で行われる実践授業に向かうと、鎮守府の職員が刀岐の姿にザワついた。やはり刀岐は鎮守府では有名人だった。
今日も颯斗は昨日と同じ分岐点にいて、刀岐を見て目を輝かせた。
「伊織くん、初めまして! 噂には聞いていただけど、高校生だし、子供だろうと思っていたら……。すご~く、素敵な体をしているわね! 筋肉もいい感じに仕上がっているし。ちゃんと鍛えているのがよく分かる。体力もありそうだし、それに顔もすごくいい~。ほりが深い顔は好物よ。早く卒業して鎮守府に来て欲しいわ~」
刀岐は颯斗の言葉にどう反応していいのか分からないようで、笑顔のまま固まっていた。
何事にも動じない刀岐のそんな姿に、私は思わず爆笑した。
「それで、伊織くんと澪ちゃんの今日の希望は……除霊か浄化ね。OK。じゃあ二つ目の結界へ進んで」
颯斗に言われ、刀岐と私は結界に向かった。
「ねえ、刀岐、本当に除霊や浄化で良かった? 除霊や浄化だと、もう目をつぶってもできるんじゃ……」
「澪、鎮守府の業務の八割は除霊と浄化だ。国民や企業からの問い合わせで除霊や浄化を行うのが基本。だから鎮守府でも悪霊や怨霊の調伏に対応する理の守り手は限られている。案件としても少ない。なぜなら調伏は陰陽師が得意している分野だからだ」
「なるほど」
「悪霊や怨霊の情報があれば、陰陽師たちは積極的に動く。なぜなら彼らは調伏をして式神として使役するという目的があるからだ。でも鎮守府は違う。もし調伏したのが妖だった場合、陰陽師に引き取ってもらっているぐらいだ」
「そう……なんだ」
鎮守府から仕事を請けるだけあって、刀岐は何でも知っていた。
「陰陽師や歌詠みは国に属さない私設組織だ。でも理の守り手は鎮守府に属する。国民の要請で動くのが基本だし、除霊や浄化は大切な任務になる」
刀岐はそう言うと私の顔を見た。
「澪にはしっかり除霊と浄化を覚えて欲しいし、何より俺とデュオを組んで動くのだから、それこそ『あ・うん』の呼吸で動けるように、何度でも澪と訓練したいと思っているよ」
……!
何だろう、刀岐のこの言葉に、私、すごく感動して……そして。
胸がドキドキしていた。
なんで? 急に。私、どうした⁉
「澪、なんだか顔が赤くないか?」
「……! そ、そうかな。緊張してきたのかも」
「らしくないな、澪。俺がついているんだ、大丈夫だ」
刀岐が私の肩に腕を回して自分の方へ引き寄せた。
清涼感のあるミントの香りに包まれた。
いつもだったら「何するのよ! 離しなさいよ!」と言っていただろう。
でも、今の私は何も言わなかったし、腕を振り払おうともしなかった。




