26:澪、本当に、いいの?
私は悠の腕をつかみ、リビングに入り、手短に事情を説明した。
悠は黙って話を聞いていたが、最後は驚き、言葉を失っていた。
「……それで、本当に澪ちゃんは今から伊織くんの部屋に行って、一緒にベッドで寝る……の?」
「……はい。でも本当に、別に変なことをするわけではないですし、刀岐もそれは分かっていると思います。万が一刀岐が変なことをしそうになったら、大声を出します。その時は助けに来てください!」
悠はなんて答えればいいのかと考え込み、手で口を押さえ、黙り込んだ。
しばらく沈黙し、ようやく口を開いた。
「澪ちゃんが優しい子だとは分かるけど、でもそれは……いくらデュオを支えることだしても……」
「デュオとしてはもちろん、一人の人間として、刀岐の苦しみを和らげたいという気持ちもあります」
「澪ちゃん……」
悠は大きく息を吐いた。
「今、僕がここで澪ちゃんを止めたら、きっと澪ちゃんは一生このことを忘れないで、後悔することになるんだろうな」
「……悠」
「伊織くんと澪ちゃんのことを信じているよ」
悠はそう言うと、私の頬に手を伸ばした。
「おやすみ、澪ちゃん。明日の朝、またね」
そう言うとゆっくり手をおろした。
私は「おやすみなさい」とペコリと頭を下げ、リビングを出た。
◇
悠に会ったことで、私は気持ちが揺らぐかと思ったが、そんなことはなかった。
昔からこうと決めたら突き進むのが私の長所であり、短所であり……。
廊下を歩きながら深呼吸した。
まだ薬飲んでいないよね、刀岐……。
刀岐の部屋のドアの前についた。
大きく深呼吸して、ドアをノックした。
刀岐のベッドは部屋の奥にあるので、しばし私は廊下で待つことになった。
この中途半端な待ち時間はきつかった。
勢いままで部屋に入れたら楽なのに……。
ドアが開いた。
「澪、どうした?」
「……!」
刀岐はまた上半身が裸だった。
「と、刀岐、服を、服を着てもらっていい?」
「あ、ああ、ごめん」
Tシャツを着るとすぐに戻ってきた。
「刀岐、まだ薬、飲んでいないよね?」
「……うん。なんで?」
良かった。まだ飲んでなかった。
「明日はちゃんと刀岐に起きてもらって、学校に行きたいと思ったから。刀岐のおかげで、実践授業、すごくいい感じに変わっていたんだよ」
私は努めて明るく、両手で枕を持ち上げて刀岐に見せた。
「……それって……」
刀岐が目を見張った。
「廊下で立ち話もなんでしょ。中に入れてよ」
慌てて刀岐がドアを大きく開け、私は中に入った。
パタンとドアが閉まる音がした。
変に意識しない。
明るく、明るく。
「ということで、特別に、今日は――」
刀岐が私を抱き寄せた。
「ありがとう、澪」
もー、シリアスな雰囲気になりたくない‼
私はやんわりと刀岐から離れ、あっけらかんとした口調で話し出した。
「だって私も刀岐に学校に来てもらえないと困るし。代役のデュオはめっちゃ美形だけど、その人と息の合うデュオになれてもね。私のデュオは刀岐なんだし」
この言葉に刀岐は私の肩をつかんだ。
「代役のデュオ、そんなに美形なのか⁉」
とても真剣に尋ねた。
「うん。だって悠のお兄さんだもん。めっちゃ美形。しかも眼鏡男子で綺麗な長髪。大人の男、って感じ」
私はそう言いながら、刀岐の手を肩から外すと、ベッドの方に歩いて行った。
「さらにビックリだったのは、もう一人のお兄さん。なんと、金髪碧眼のグラマラス美女なの」
私はそのまま刀岐のベッドまで進み、腰を下ろした。
刀岐は「それ、どーゆうことだよ」と言って私の後に続いた。
「気になるでしょ? だったら今日はしっかり寝て、明日、ちゃんと起きて学校に行こう!」
「分かった」
刀岐はそう言うと、そのままベッドに横になった。
ここは間髪を入れずに一気に寝るべし。
私は素早く枕を置いた。
「アラームはセットした?」
「……いや、してない」
「と思ったので、私のスマホでセットしておいたから、これはここに置いてと」
私はベッド横のサイドテーブルにスマホを置いた。
そこに丁度、リモコンがあった。
「じゃあ、電気を消します!」
そう言って「えいっ」とボタンを押した。
ゆっくりと部屋の明かりが消えた。
「さあ、寝るよ、刀岐!」
私はベッドに横になった。
そして両手を広げた。
「はい、刀岐」
「……澪、本当に、いいの?」
「ただ抱きしめて寝るだけだよ。私は刀岐のことは抱き枕と思うから、刀岐も私のことを抱き枕だと思って」
「……分かった」
刀岐が体を動かすのが分かった。
それだけでもう心臓がドキドキし始めていた。
これはそーゆうことじゃないんだから、落ち着け、私。
刀岐の左手が私の脇腹から背中に回された。
そして右手も胸の下の方を通り、背中に回され、刀岐の顔が胸のあたりに触れた。
……‼ これだと刀岐の顔が私の胸にあたる……!
「刀岐、ちょっとこれだと寝にくいから、私が刀岐の胸の中にはいるから、それを抱きしめて」
「……了解」
刀岐が腕を戻すと、私は刀岐の胸の中に顔を寄せた。
清涼感のあるミントの香りがした。
包み込むように、刀岐が優しく私を抱きしめた。
その瞬間、ドキドキからなんだかホッとするような安心感を覚えた。
自然と力が抜けた。
「刀岐、眠れそう?」
「なんだかすごく落ち着く。それに澪が温かくて心が休まる」
「じゃあそのまま深呼吸を続けたらきっと眠れるよ。おやすみ、刀岐」
「うん。おやすみ、澪」
それから本当に私も全身から力が抜け、眠りに落ちた。




