25:私、着替えの途中なの‼
リビングに顔出すと、そこにはノートパソコンに向かう悠がいた。
「澪ちゃん、お帰り」
悠はそう言うとパソコンを閉じた。
「今日は僕がコーヒーをいれるよ。着替えておいで」
「はい!……刀岐は?」
「伊織くんはまだ休んでいるよ」
「そうですか。じゃあ着替えてきますね」
悠はニッコリ頷き、鈴はジャンプして、悠のそばに行った。
私は部屋に向かい、着替えを始めた。
「澪!」
突然ドアが開いて、刀岐が部屋に入ってきた。
私はこれから着ようとしていたパーカーで慌てて胸を隠した。
「ちょ、刀岐、なんでノックもしないで入ってくるのよ!」
そう抗議をした。
本当は大声をだしたかった。
が、リビングには悠や陽がいた。
大声を出したら、驚いて二人が部屋に来る可能性があった。
こんな姿、刀岐に見られるだけで十分だった。
「澪、良かった。帰って来なかったらどうしよう……そう心配していた」
刀岐は私の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ともかくそう言って近づくなり、私を抱きしめた。
清涼感のあるミントの香りに包まれた。
「ちょ、ちょっとー⁉ 離しなさいよ! それにここに帰ってくるのは当然でしょ。私の家財道具一式ここにあるんだから」
「うん。それでも……星崎が澪にヒドイこと沢山言ったから」
「……それは。でも実際に私は未熟だし、それに」
「違う」
「刀岐……」
「澪は十分頑張っている。それにちゃんと説明しなかった俺が悪いから」
「分かった、分かったから」
「澪、俺のデュオでいてくれるよな」
刀岐が私の上腕を掴み、顔を覗き込んだ。
信じられないぐらいの真剣な眼差しで私のことを見ていた。
「……当たり前でしょ。そんなこと聞かないでよ」
この言葉に、刀岐はこちらが驚くぐらいの笑顔になり、再び私を抱きしめた。
「ありがとう、澪……」
万感の想いという感じで刀岐は感謝の気持ちを述べ、私を抱きしめる腕に力を込めた。
私は制服のスカートをはいてはいるが、上はブラだけで。
かろうじてパーカーで胸を隠してはいるけど、こんな姿で抱き合っているのは……。
「刀岐、気持ちはよく分かったから。お願い、私、着替えの途中なの‼」
この言葉で、ようやく、ようやく、刀岐は事態を把握したようだった。
がばっと私から離れ、私が両手でパーカーを持ち、胸を隠そうとしていることに気づいた。
そして分かりやすく顔を真っ赤にして「ご、ごめん、澪」そう言って部屋を出ていった。
私はようやく理解した。
刀岐は……絶対に天然なんだ。
今だってそう。
私がこんな姿だったのに、それよりも謝罪したい、ただその気持ちだけでこの部屋に入ってきた。
「俺と寝てくれ」なんてとんでもないことを言ったけど、これも本当に、下心なく純粋に、誰かに抱きしめられ安心して眠りたいだけなんだ……。
私はそれが分かったので、怒りはなく、仕方ないなという気持ちになりながらパーカーに袖を通した。
着替えてリビングに行くと、そこには刀岐もいて、顔は赤いままで、私のことを直視できないようだった。
……恥ずかしいのはこっちなのに。これじゃ私が刀岐の裸を見たみたいじゃない。
「澪ちゃん、コーヒー用意できているよ」
「あ、悠、ありがとう」
私はとりあえず刀岐のことは放っておくことにしてコーヒーを飲んだ。
コーヒーを飲みつつ、私は今日の実践授業でやった憑依や除霊で気になったことを、悠に質問した。
すると刀岐が真剣な表情でアドバイスを始め、悠も自分の考えを伝えてくれて、悪霊と怨霊の属性を判断する方法とか、いろいろ疑問に思っていたことにみんなが答えてくれた。
私は途中でノートを取りに行き、みんなの言ったことをメモした。
そしてその後はみんなで料理をして晩御飯となった。
改めて食事の時の刀岐を見ると、ずっと笑顔で楽しそうだった。
その姿を見ると、なんというか切ない気持ちになった。
刀岐はずっと、誰かと一緒に食事をしたかったんだ……。
食事を終え、暫くすると、日課になっているジムに向かう刀岐に私は「私もジムに行ってみたい」と声をかけた。
刀岐は喜び、悠にもジムへ来ないかと声をかけた。
こうして四人でジムへ向かい、私は初めての筋トレマシーンに戸惑いながらも、一時間半、しっかり汗を流した。
シャワールームで軽く汗を流し、部屋に戻ってから改めて湯船に浸かった。
その段階から私は少しずつ緊張していた。
別に変なことのためじゃないと分かっていても、それでも勇気がいることだった。
流石にノーブラはあり得ないからスポーツブラをつけよう。
そしてシャツワンピのパジャマにスパッツをはき、枕を持つと深呼吸した。
意を決してドアを開けると、丁度バスルームから悠が出てきたところだった。
「あ、澪ちゃん、お休み」
悠はそう言ってリビングに向かいかけ、立ち止まり、ゆっくり振り返った。
「……澪ちゃん、枕持ってどこに行くの?」




