22.突き刺さる言葉
刀岐をベッドに寝かせると、琴音は悠と陽に指示を出し、二人は忙しく動き出した。
ベッドに横になった刀岐はすぐに眠りに落ちた。
琴音はベッドのサイドテーブルの引き出しを開け、ため息をついた。
「……やっぱり。薬を飲んでいたのね」
振り返った琴音は冷たい目で私を見た。
「伊織が薬を飲んでいたこと、知らなかったの、澪?」
「薬⁉」
「そう、睡眠薬。処方箋の日付は……昨晩飲んだのね。薬が効いている間、伊織は寝かせておかないといけない。薬が効いている時の伊織は無防備になるから。
伊織ほどの力があると、霊が寄ってきやすいのよ。でもきちんと意識が覚醒していれば、伊織は霊が寄って来ないように術を自分自身に展開する。だから何も問題はない。
さっきの大百虫、陽や悠が除霊したり調伏した霊、それは無防備な伊織に引き寄せられてしまったの。でもこの部屋――結界にいれば、伊織は守られ、霊も寄ってこない」
「そう……なんですね」
「澪、あなた、伊織のデュオなんでしょう? なぜそんなことも知らないの?」
「そんな……、本人から聞いていません」
「伊織が何か抱えているって気づかなかった?」
「それは……何かあるとは気づきました」
「ちゃんとそれが何であるか聞いたの?」
「……聞いていません……」
「どうして? あなたのデュオなんでしょ?」
「……」
琴音の言う通りだった。
刀岐は、夜眠れないと私に打ち明けていた。
それなのに私は一緒に解決法を考えることなく、突き放した。
だから刀岐は……。
そうか。
昨日鎮守府に行った時、食堂で昼食を摂った後、併設されている病院に刀岐は行ったんだ。
そこで睡眠薬を……。
鈴が慰めるように私の頬を舐めた。
「伊織はね、夜、眠れないのよ。それで薬を飲んでいたけど、そうすると翌日起きられなくなるわ、無理して起きて外に出れば悪霊や怨霊が寄ってくるから、薬を飲むのをやめたの。ずっと昔に。
それで眠れない夜に一人で憑依と除霊をやっていた。そして疲れ切って明け方に気絶するように寝ていたの。だから学校もいけない。
でも刀岐は理の守り手として必要な知識やスキルは既に習得している。鎮守府の依頼をこなせるぐらいに。通常の学科についてもオンラインで学習していた。だから年に数回、別室で試験を受け、進級できていた。それで問題なかったの」
そこで琴音は言葉を切った。
「澪、あなたが刀岐のデュオになる前までは」
「……」
「どうして伊織を学校に行かせようとするの?」
「それは……刀岐が私のデュオで、学校では実践授業があるから……」
「でもそれってあなたのためよね、澪? 伊織は今さら、実践授業なんて必要ない」
「でも、刀岐は私のデュオなんです」
「そうね、澪。なんであなたが伊織のデュオなのかしら? 伊織のデュオならわざわざ未熟な学園の生徒ではなく、鎮守府のしかるべきレベルの理の守り手が就けばいいのに」
「……、そんな、私が決めたわけじゃありません! それはサトリが決めたことで……」
「だったら伊織の足を引っ張らないで頂戴」
鈴が怒って毛を逆立てていた。
私は鈴の頭を撫で、自分自身の気持ちも落ち着かせた。
「……そうですね。私が未熟で申し訳なく思います。でも、刀岐は星稜学園の生徒です。だったら学校に行くのは間違っていないのでは?」
「それが普通の生徒だったらね。当然、学ぶ必要があるから学校に行く必要があるでしょうね。でも伊織は違う。……伊織は特別なのよ」
「……学校にも行かず、この要塞のような場所にたった一人閉じ込められ、一人でご飯を食べて、一人で憑依と除霊をして、一人で気絶したように眠る、それが特別なんですか⁉」
「……」
「私は……未熟なんで学校に行きます。失礼します」
私はそう言うと刀岐の部屋を飛び出した。
◇
「澪、大丈夫か?」
電車の中で、鈴が心配そうに尋ねた。
全然大丈夫じゃなかった。
琴音が言うことは納得できないことが多かったが、それでも突き刺さる言葉は沢山あった。
私が未熟であるということ。
デュオとして私は力不足であること。
刀岐の苦しみを見て見ぬふりをしたこと。
問題児とデュオを組まされたと憤慨していたのに。
蓋を開けたら、足を引っ張っているのは私だったのだ……。




