23:刀岐の本当の気持ち
学校に着いた。
教室へ行き、ジャージに着替え、体育館に行く。
今ならまだ実践授業に間に合う。
でも。
足が門の前で止まってしまった。
「どうかされましたか?」
声に振り返ると、誰もいない……。
やだ、疲れているのかな。
私がこめかみを指で抑えると、制服のスカートの裾が引っ張られた。
「え……」
そこには日傘を手に、水色のワンピースを着た、長い銀色の髪をした少女がいた。
アメジストのような瞳をしていた。
「藤原澪さんですね。お茶でもしましょうか? 私はサトリです」
少女はニッコリ笑った。
◇
「はい。オレンジピールを使ったハーブティーです」
サトリは、ペールブルーの濃淡ストライプに銀色の王冠が描かれた、素敵なデザインのティーカップとソーサーをテーブルに置いた。
オレンジのいい香りに私の暗い気持ちは和らいだ。
「ハチミツを少し加えるとさらに美味しくなりますよ」
サトリの言葉に頷き、まずはストレートで一口飲み、ハチミツを加えた。
「美味しい……」
「それは良かったです」
サトリは微笑んだ。
「あの、どうして私の名前を知っていたのですか?」
私はカップをソーサーに置いてサトリに尋ねた。
「学園の生徒の名前と顔はすべて覚えていますよ。それにどんな性格で、趣味がなんであるか、成績も」
「……そうなんですね」
「そうしないとデュオの組み合わせを考えることはできないので」
「……!」
「藤原 澪さん、あなたのデュオは刀岐 伊織ですね」
「はい……。あの、どうして私と――」
「刀岐伊織は天性の才能の持ち主なのです。生まれながらの理の守り手。彼は理の守り手が必要とする知識、スキル、そのほぼすべてを目で見るだけで自分のものにすることができました」
サトリはそう言うと自分のカップに口をつけた。
「対して藤原澪さん、あなたは努力の人でした。努力を積み上げ、女子学生の中でトップの成績を手に入れました」
カップをソーサーに戻し、サトリは話を続けた。
「刀岐伊織は天才ゆえの苦悩も負いました。百鬼夜行事件、あの時彼の姉が悪霊に憑依されましたが、この悪霊を呼び寄せてしまったのは、彼の理の守り手としての力がすでに発現していたからです」
「……!」
「以来、彼は苦しんできました。学校に行くこともできず、あの塔のような要塞に籠ることとなりました。でも彼の中に、学校に行きたい気持ちがあった。だから式神を学校に送り込んでいました。式神の目を通して学園生活を体感していたのです」
知らなかった。
刀岐は本当は学校に行きたかったんだ……。
「その式神の目を通して、藤原澪さん、あなたのことを刀岐伊織は見つけました。あなたが懸命に努力し、勉強し、頑張る姿を見て、そして彼はあなたをデュオに選んだのです」
「え……」
「もちろん、刀岐伊織がいくら希望しても、私がノーと言えば、あなたが彼のデュオに選ばれることはありませんでした。ですが、私から見ても、あなたと刀岐伊織がデュオになることは好ましい結果を導くと分かりました」
サトリがカップをとり、つられて私もカップをとり、同時にお茶を口にした。
サトリと私は目を見合わせ、思わずお互いに微笑んでしまった。
「あなたと刀岐伊織は、一見デコボココンビに見えます。でも基礎の部分は同じなんですよ。真面目で、真っ直ぐで、一途で。理の守り手として藤原澪さん、あなたがまだ未熟だとしても、それは彼が導いてくれるでしょう。そしてあなたは刀岐伊織に唯一、安らぎを与えられる存在。彼のことを支えてあげてください」
サトリの言葉は私の中にストンと落ちてきた。
昨日、シミュレーション施設で訓練した時、刀岐は適切にアドバイスをして、導いてくれていた。
きっとこれからも刀岐はデュオとして、私を導いてくれる――。
それならば私ができることで刀岐を支えよう。
「あの、サトリさん、ありがとうございます。……私は自分が至らないことばかりで、このまま刀岐のデュオでいいのか、相応しいのかと心配になっていました。でも私じゃなきゃダメなんだってなるように、努力しようと思えました。まだ私は何も頑張っていないのに、逃げ出そうとしていることに気づけました」
サトリは私の言葉に微笑んだ。
「それは良かったです。もしまた道に迷うことがあれば、いつでもここに来てくださいね」
「はい」
そう答えた瞬間、私は教室にいた。
「え……」
思わず声が出ていた。
時計を見る。
門にいた時間と同じだ。
私は急いでジャージに着替え、体育館へ向かった。




