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完結●伊織くんは愛されたい!~問題児と才女の初心(うぶ)な恋~  作者: 一番星キラリ


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21/50

21:寝起き、悪すぎ

次に目覚めたのは、セットしていたスマホの目覚ましが起きる時間を知らせた時だった。


私は伸びをして、丸くなって眠る鈴の鼻をツンとした。

鈴は目を覚まし、軽くあくびをした。


「鈴、昨晩、刀岐(ときの)の部屋から霊の気配を感じた?」


私の問いに鈴は首を振った。


「昨日は霊の気配はゼロ。刀岐は何もせずに寝ていたと思うよ」


「ホント⁉ 良かった!」


私は勢いよく起きると、洗面所へ行き、準備を始めた。


制服を着ると、刀岐(ときの)の部屋をノックした。


……。

反応がない。まだ寝ている……?


でも着替えをして朝食を食べるならそろそろ起きていい時間だ。


私はそっとドアを開けた。


驚いた。


刀岐の部屋は綺麗に片付けられていた。


床の円陣も散乱していた護符もどこにもなかった。

古文書は本棚にきちんと収められていた。


ベッドを見るとこちらに背を向け、横たわる刀岐の姿が見えた。


私はベッドに近づき、その肩をゆすった。


起きる気配はない。


もう一度ゆすると、掛布団がずれ、刀岐の上半身が見えた。


また服を着ていない……。寝る時は服を着ない派なの⁉


「ねえ、刀岐、起きて。そろそろ準備しないと」


小声では起きる気配なかった。

私は肩をゆすり、やや大きな声で呼びかけた。


それを五回ぐらい繰り返すと、ようやく目が開いた。

だが、すぐまた目を閉じてしまう。


寝起き、悪すぎ。


もう容赦せずに声を出し、肩をひっぱたいて叩き起こした。


ようやく上半身を起こしたが、ボーっとしたままだった。


「早く着替えて! 私、朝食の用意もあるし。鈴、頼んだわよ」


私は鈴に刀岐を見張らせ、キッチンへ向かった。


朝食の用意をしていると、陽と悠が奥の部屋から出てきた。


二人ともちゃんと身支度を終えていた。


悠はすぐに私を手伝い、テーブルに朝食を並べてくれた。


そこにようやく刀岐が来た。


まだ瞼は半分閉じかけ、髪は寝ぐせがついたままで、シャツのボタンはずれて留められていた。


「もー、刀岐、しっかりしてよ!」


私は刀岐のシャツのボタンをなおし、髪を濡らし、濡れタオルで寝ぐせを押さえた。


そして朝食を食べるよう促し、私も朝食をかきこんだ。


なんとか予定していた時刻に家を出ることが出来た。


マンションを出て、公園を抜け、駅に向かおうと歩いていると……。


「おっと朝から霊のお出迎えだよ」


陽の言葉にすぐ様、悠が結界を展開した。


「この程度なら一人で対応できるから、悠、二人を連れて学校に向かって」


陽の言葉に悠は頷き、私たちに走ってこの場から去るよう促した。


「朝から霊に遭遇するとか、心臓に悪いですね……」


私の言葉に悠は少し困った顔をした。


「……多分、伊織(いおり)くんは昨晩除霊をしていないと思う」


「……!」


「強い結界が展開されている場所には霊が集まりやすい。結界に触れれば、祓われてしまうと分かっていても、本能的に引き寄せられちゃうみたいなんだ。伊織くんのマンション、そして鎮守府。二箇所も強力な結界があるんだ。仕方ないね」


私は遅れてまだ眠そうな顔で後ろをついてくる刀岐を見た。


自己満足だけで、一人で憑依と除霊をやっているわけではなかったんだ……。


「澪ちゃん、危ない」


「……!」


悠に突き飛ばされた。


「空術、虚無空間」


悠が展開した虚無空間に、黒い靄を纏った霊が飛び込み、姿が消えた。


「ごめん、澪ちゃん、大丈夫⁉」


悠が慌てて私に駆け寄り、両手で抱えて立たせてくれた。


「大丈夫です。それより今のは……」


「悪霊だと思う。目をしっかり見られなかったから断言はできないけど」


霊に目はないが、目があるだろう位置に紅い光が見えればそれは悪霊で、そこが白くぼやっとしていたら怨霊だった。


「この公園のセキュリティレベルを上げてもらうよう申請しておくよ」


悠は膝についた土を払ってくれた。


だが、その手を止め、顔を上げた。


「澪ちゃん、伊織くんと駅へ向かって。駅は鎮守府の最寄り駅でもあるから、セキュリティレベルが高い。駅まで行けば安全だ」


押し殺した声に、私は何が起きたのか尋ねたかったがそれを止め、後ろ振り返った。


「刀岐、走るよ」


私はぼーっとした表情でゆらゆら歩く刀岐の手を掴み、走り出した。


悠の姿はもうそこになかった。

展開した結界の中に入ったのだろう。


私は刀岐の手を引っ張り、前へ進んだ。


私が気を緩めると、刀岐の歩みは遅くなった。


慌てて、私は足に力を込めた。


朝、無理やり起こした刀岐は使い物にならない。

これは朝が弱いというレベルではない気がした。


ようやく駅に続く階段の入口が見えた。


そう思った時、目の前に黒い靄が広がった。


最初、何が起きたのか分からなかった。


火事の煙が蔓延する場所に足を踏み入れてしまったのかと思った。


だが。


上空に紅く輝く光を見つけ、これが悪霊であることに気づいた。


嘘、嘘、嘘、なに、このデカさ⁉


しかもその紅い光はこちらへ迫ってきていた。


属性は……地。


私は刀岐の手を離し、左手を上空へ向けた。


「水術。水の散弾」


水滴を散弾銃のように撃つ術なのだが、対象があまりにも大きく、効果は薄かった。


「水術、零雨」


広範囲で攻撃はできるが、雨では弱い。


「澪、向かってきたよ!」


鈴が叫んだ。


水の散弾で少し後退した悪霊が、再び動き出していた。


どうしよう⁉


パニックに、なっていた。


その時だった。


結界が展開されたと思ったら、私の目の前に緩やかにウェーブした長い髪の、スーツ姿の女性が現れた。


「火術、鬼火!」


その瞬間、巨大で勢いのある青い炎が一帯に広がった。


私が出す鬼火はスカイ玉ぐらいのサイズだった。


でも今、展開されている鬼火はテニスコートぐらいの大きさだった。


「風術、かまいたち」


黒い靄がぐらぐら揺れ、傾いた。


「水術、濁流」


ものすごい水しぶきを立てながら水が悪霊を飲み込み、鬼火は消え、悪霊は音を立てて倒れた。


地面が振動した。


「我、理の守り手也。汝に問う。この場で調伏され、式神として使役させることを望むか、それとも除霊され西へ向かうことを望むか。西へ向かうことを望むなら、今すぐその場でひれ伏すがいい」


この声、琴音だ……!


「理の守り手として、天の鎖で汝を縛り、調伏するものとす」


凛とした声で琴音は告げると、左手をあげた。


「東西南北より伸びたる天の鎖よ、名も無きものを、この地へつなぎ留めよ」


天の鎖が各方位から伸び、悪霊を縛った。


その瞬間に黒い靄が祓われ、その正体が現れた。


それは妖(あやかし)の大百足(おおむかで)だった。


「うわぁ、気持ち悪い……」


鈴が顔をしかめた時。


「星崎さま」


遠野と二宮が駆け寄った。


「後片付けはお願い。私は伊織を部屋に戻したら鎮守府に戻るわ。あと二宮、この公園のセキュリティレベルを上げておいて」


琴音の言葉に二宮は「かしこまりました。星崎さま」と頷いた。


「伊織、あなた何寝ぼけているの? なんで動かないの?」


琴音はそう言って刀岐の顔を覗き込み


「……まさか、伊織……」


そう言ってから私にキツイ視線を向けた。


「どうして伊織をこの状態で部屋から出したの? それに悠と陽は?」


「それは学校へ行くためで……」


「伊織に学校なんて必要ないわ」


……!


「星崎参事官!」


悠と陽がこちらへ駆けてきた。


「あなた達、何を……除霊と調伏をしていたのね? 仕方ないわ。伊織を部屋に戻すから手伝って」


「はい」


こうして琴音を先頭に、悠と陽が刀岐を支え、私はその後に続き、マンションに戻った。



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