20:悠の言葉は魔法みたい
悠に案内された購買部は、半分はお土産品、つまりシンボルマークをあしらったお饅頭、キーホルダー、Tシャツなどを扱うエリアで、残りの半分では職員が使うような備品が販売されていた。
「うわー、これ、白くなった鈴みたい」
「あ、これはね、鎮守府のマスコットキャラクターで、去年から登場したんだよ。名前はジョー・レイくん。名前のセンスが残念だよね」
「名前は確かに(苦笑)。でもマスコットとしては可愛いですよね。キーホルダーとか、このぬいぐるみとか」
「そうか。ぼくの尻尾の方がふさふさで可愛いはずだぞ」
肩にのった鈴が抗議した。
「澪ちゃん、このサイズだったら学校のカバンにつけられる?」
「あ、小さいサイズのジョー・レイくんも可愛い~」
「よし。じゃあこれはお守りとして僕から澪ちゃんへプレゼントしよう」
「! いいんですか‼」
「澪ちゃんがつけてくれると宣伝にもなるしね」
「ありがとうございます!」
購買を出て、エレベーターに向かった。
エレベーターが到着すると、悠はドアを軽く押さえ「澪ちゃん、どうぞ」と私が先に中へ入れるよう促してくれた。
町での実践授業の時も、オフィスビルでも同じようにエレベーターでエスコートしてくれた。
初めて会った日、家まで送ってくれた時も、私が歩道側に、自身は車道側歩いていた。
それはいつ会っても同じで。悠にとってはそれが当たり前だった。
でもそんな風にしてくれる男子は、私が知る限り悠しかいなかった。
悠のさりげない気遣い、優しさを私はとても好ましく感じていた。
鎮守府の外に出ると、悠は私に尋ねた。
「澪ちゃん、部屋に戻るのでいい? 他に行きたいところはない?」
「……そうですね。普通に学科の宿題をやろうと思います」
「そうだね。澪ちゃん、まだ学生だもんね」
「そうなんですよー」
「では少しだけ遠回りしてもいい?」
「はい」
刀岐のマンションは、ジョギングやサイクリングコースも併設された大きな公園に面していた。そしてその公園には散歩コースがあり、悠はその散歩コースを経由しながらマンションに戻ろうとしていた。
既に桜の季節は終わり、新緑の時期を迎えた公園は沢山の緑で溢れていた。
「あー、なんだか気持ちいいですね」
私の言葉に悠が微笑んだ。
「森林浴の効果だね。すーっとしてでもほのかな甘い香り、感じない?」
悠の言葉に私は深呼吸した。
「感じます。なんだか落ち着きます」
「この辺りの木はクロモジと言って、その香りには鎮静効果があるって言われているんだよ」
「へえー」
「その先にはヒノキもある。ヒノキもクロモジと同じでピネンという香りを出していて、この香りで心拍数が落ち着くって言われているんだよ」
「……悠、詳しいんですね」
「そんなことないよ。ただ、僕たちの仕事って死に近いというか、普通に生活している人だったら接することがない者たちと接触することが多いでしょ。だから気分転換でここを散歩することも多いんだ。ここなら鎮守府にも近いからね」
「……なるほど」
「それに澪ちゃんと一緒にいるから、気持ちを落ち着けないと、なんてね」
「……!」
悠の言葉は魔法みたいだった。
さりげない一言に私の心臓はいつも魔法にかかってしまう……。
「よし。マンションに到着だ。宿題、頑張ろう、澪ちゃん」
悠が笑顔で私を見た。
◇
部屋に戻り、リビングで私は宿題をして、悠はノートパソコンを起動し、仕事をしていた。
そこに刀岐と陽が帰ってきた。
刀岐は休みの日も宿題をする私に驚き、でも私を習い、宿題を始めた。
夕方になると晩御飯の話題となり、私はハンバーグを作ることにした。
するとみんな手伝ってくれることになった。
悠は見事な手さばきで玉ねぎをみじん切りにし、刀岐は本当に、本当にあぶない手付きでニンジンを刻んだ。陽は楽しそうにひき肉をこねた。
皆で分担し、手分けしたことでハンバーグはあっという間に完成し、楽しい晩御飯タイムになった。
夕食の後、刀岐は昨日同様、陽とジムへ行き、私はお風呂に入り、悠はパソコンで仕事をして。
明日は学校だからと早めに休むことになった。
……刀岐は今晩、除霊はせずにちゃんと寝てくれるだろうか……。
気になってなかなか寝付けなかったが、いつの間にか眠りに落ちていた。




