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完結●伊織くんは愛されたい!~問題児と才女の初心(うぶ)な恋~  作者: 一番星キラリ


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19/50

19:シミュレーション施設

翌朝。


私は気まずい思いで着替えをしてリビングに向かったが、刀岐(ときの)はいつも通りだった。


それどころか、地下のスーパーが二十四時間あいていたので、こっそり一人で買い出しに行き、食材を山ほど買って冷蔵庫や棚に詰め込んでいた。


私はパンケーキを作ることにして、準備を始めた。


すると悠がリビングに来て、私の様子を見ると、すぐに手伝ってくれた。


悠は普段料理をするわけじゃないと言っていたが、私が頼むとフルーツの皮をむき、綺麗にカットしてくれた。


こうしてパンケーキ作りは順調に進んだ。


「すごい!」


テーブルに並んだパンケーキに、刀岐は驚嘆の声を挙げた。


「盛り付けもオシャレだな~。やっぱ女子がいると違うね。我が家は男兄弟ばかりだから、こーゆ映えるものとは無縁だからなー」


陽はそう言うと、スマホでパンケーキの写真を撮った。


「え、陽のところ、悠と陽の二人だけじゃないの?」


「うん。兄が二人いる。両方とも鎮守府に勤務中。年子だから二十一歳と二十歳」


「そんなに兄弟がいると賑やかで楽しそうだな」


刀岐の言葉に陽は首を振った。


「毎日が戦争だよ、何をするにしても」


そう言って笑った。


「全員分のコーヒーも揃ったし、食べられるよ」


悠の言葉に全員着席し、「いただきます」と声を揃え、食事を始めた。


◇


朝食の後、悠と陽が、私と刀岐を鎮守府にあるシミュレーション施設に連れて行ってくれた。


そこは、悪霊や怨霊の調伏を訓練するための施設だった。


悪霊や怨霊は憑依させず、その場で調伏させるのが基本で、結界を展開し、五大元素の術による攻撃を、デュオと協力して行う必要があった。


シミュレーションで登場する悪霊や怨霊はAIが生成した偽物なのだが、動きもリアルで迫力もあった。さらに攻撃を受けると、装着しているシミュレーションスーツに反応も出て、一分間は結界の展開も攻撃もできないようになっていた。


私と刀岐は早速シミュレーションを開始した。


「澪、結界は俺にまかせろ。攻撃に集中するんだ」


刀岐の言葉に頷いた。


頷いたものの、どの術で攻撃するか迷っていた。

目の前の悪霊の属性がよく分からなかったのだ。


霊の場合はその属性にあわせ、その姿が燃えるように見えたり、ドロドロしていたり、ボロボロと崩れ落ちるようになっているので判別がしやすかった。


でも悪霊の場合はいろいろな術を当てて判断するしかなかった。


「澪、属性が判定できていないのか?」


「……うん。悪霊は初めてでまだ慣れてなくて」


「そうか。そういう場合の見分け方もあるんだが、それをここで講義すると時間をロスする。判別がつかない場合はとりあえず火術だ」


なるほど!


私は火術を連発した。


悪霊や怨霊は基本、火を嫌った。

それは属性が水であってでもだ。


どうやら火はただそれだけで地獄の業火を、悪霊や怨霊に想起させるようだった。


そういう意味では火術は万能であるが、周囲の建物に燃え移る可能性もあるため、水術と併用する必要があった。


刀岐はそれを理解しており、私が火術を使い始めると、教科書にも載っていない不思議な結界を展開していた。


それは水の守り手を召喚する結界で、白龍、青龍という二体の霊獣が現れ、周囲の不要な炎をすべて消し去ってくれた。


……私にはその霊獣の姿は見えないが、刀岐(ときの)がその二体を召喚したと言っているのだから、いるのだろう。実際、どこからともなく水が降ってきて、炎は消えていたのだから。


「澪、よくやった。追い詰めた。まずは調伏を試みるんだ」


刀岐の言葉に私は頷いた。


悪霊は周囲を炎に囲まれ、上空にはいくつもの静止した火球が待機していた。


動けば、この火球が悪霊の上に落とされる。


私は教科書を見て何度も復唱した言葉を口にした。


「我、理の守り手也。汝に問う。この場で調伏され、式神として使役させることを望むか、それとも除霊され西へ向かうことを望むか。西へ向かうことを望むなら、今すぐその場でひれ伏すがいい」


目の前の悪霊はひれ伏す気配はない。


「理の守り手として、天の鎖で汝を縛り、調伏するものとす」


私は左手を前に出し唱えた。


「東西南北より伸びたる天の鎖よ、名も無きものを、この地へつなぎ留めよ」


それぞれの方位から伸びた天の鎖が悪霊の体を縛った。


その瞬間、悪霊が纏っていた黒い靄が消え、本来の姿が現れた。


これは……。


「河童だな」


刀岐が断言するまでもなく、それは明らかに河童だった。


わりとファンシーなデザインの河童が現れ、私はこれがシミュレーションであることを実感し、そして脱力しながら最後の調伏の言葉を唱えた。


この結果を見ていた陽と悠は……。


「すごーい、澪! シミュレーションで河童が出るのが激レアだから。河童=高スコアだよ」


陽の言葉に悠も頷いた。


「採点結果はスマホのアプリに送られてきているから見てごらん、澪ちゃん」


シミュレーションエリアを出て、貴重品ロッカーからスマホを取り出し確認すると……。


結界レベル:十、攻撃レベル:八、デュオ調和レベル:八、速度レベル:七、調伏レベル:十、総合評価はAだった。


悠が私のスマホを覗き込んだ。


「初めてのシミュレーションで総合評価がAなのはすごいね。速度は回数をこなせば上がるし、デュオとも何度も練習を行うことで息もあっていくはず。このまま頑張ればきっとS評価も夢じゃないよ」


「本当ですか!」


スマホから顔を上げると、悠の端正な顔がすぐそばにあって、私は思わずドキドキしてしまった。


「澪、調伏レベル十じゃないか。よくやった」


刀岐が腕を肩に回してきた。


「ちょ、離しなさいよー!」


「二人とも着替えたら、食堂に案内するよ」


陽の言葉に私と刀岐は「本当に‼」と声が揃い、「そーゆうところの調和率は完璧だよね」と陽が笑った。


◇


学校以外の食堂に行くのは初めてだった。


私はここでしか食べられない鎮守府特製丼を頼んだ。


鎮守府のシンボルマークの三日月と刀が温泉卵と海苔で表現された、かつ丼だった。


食堂で昼食を終えると、刀岐は寄るところがあるといい、食堂を出たところで別行動となった。


護衛につく陽はそのまま刀岐と並んで歩き出した。


「澪ちゃんはどこか行く予定は?」


悠に聞かれた私は……。


「鎮守府にも購買部とかあるんですか?」


「うん、あるよ。行ってみる?」


「はい!」


元気に返事をしていた。


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