16:ひとつ屋根の下
とりあえず制服からルームウェアに着替え、荷物を片付け、リビングに行こうとしたら、刀岐も丁度部屋から出てきた。
「澪、腹減ってない?」
「……!」
そう言えば、ばたばたしていてお昼ご飯を食べていなかった。
しかも自宅では荷物をまとめていたからケーキも食べ損ねていた。
「……空いている。朝食以降、何も食べてないし」
「じゃあさ、悠たちも誘って飯食いに行こうぜ。このマンションの一階に住人専用のレストランがあるんだ」
「そうなの! あ……でも高そう。冷蔵庫になんかあれば作るけど」
「……え、澪、料理できんの⁉」
「そ、そんなフランス料理とかは無理よ。でもフツーの家庭料理なら……」
「なんだー。そうか、そうか。じゃあさ、明日、買い出しに行こう。明日は学校、休みだろう。今、冷蔵庫の中、すっからかん」
「……刀岐、普段、何食べているの⁉」
「まー、適当に。デリバリーが多いかな。忙しいし、面倒だし」
そこでポツリと呟いた。
「どうせ一人だし」
……。
八歳から刀岐はここで一人暮らしをしているのだろうか?
だとしたらそこからずっと食事も一人、なんだ……。
「分かった。明日、何か作るよ」
「じゃあ今日はレストランで。お金のことは心配しなくていい。同居祝いだ」
「ど、同居⁉ へ、変な言い方しないでよー‼」
刀岐は私の言葉を無視して、悠たちを呼びに行った。
◇
食事の後は、刀岐がマンションの共有スペースを案内してくれた。
マンションにはなんでもあった。
住人専用、というわけではないが、クリニックと歯科医院が一階にあったし、二階には住人専用の図書室と来客用の宿泊室があった。
十階にはジムとプール、十五階には昼は喫茶、夜はお酒を楽しめるラウンジがあった。
地下三階と四階が駐車場だったが、地下一階と二階はスーパーになっていた。
こんなところに住んでいたら、外に出なくなるだろうなと思えた。
部屋に戻ると刀岐はジムへ向かうと言い、陽は護衛のため刀岐と一緒にジムへ向かった。
私はお風呂に入ることにした。
猫足のバスタブなんて可愛らしいし、初めてだったので、私はご機嫌でバスタイムを楽しんだ。
湯船につかると、私はバスタブに寄りかかった。
はあ~気持ちいい。
そうだ、明日、入浴剤を買って来よう。
こーゆうバスタブで泡風呂、やってみたかったんだよね♪
私は目を閉じた。
それにしても今日もいろいろあったな。
朝から刀岐は猫に憑依されているし……。
……そういえば、刀岐の奴、散々私の体を嗅ぎまわっていた。
ちょっと待って。
憑依されても霊の意識って、制御できるんじゃないの……?
刀岐は神童でしょう。猫ぐらいの意識、制御できるよね……。
それに雪乃との最後、アイツ、何気におでこにキスしてなかった⁉
私、名前を呼んで抱きしめてあげて、としか言ってなかったよね⁉
……アイツ……。
いろいろどさくさに紛れて……。
なんなの、欲求不満なわけ⁉
……いや、琴音がいるじゃん……。
もしかして琴音にもあーゆうことしているんじゃ……。
もしかしたらこの部屋も琴音が使ったことがある部屋なんじゃ……。
……。
関係ない。別にそうだったとしても。
◇
髪を乾かし、リビングを覗くと、悠がソファに座り、ノートパソコンを操作していた。
……仕事、しているのかな? 入ったら邪魔かな?
私がリビングに入るか迷っていると、悠が気づき、笑顔で手招きした。
私はリビングに入った。
「お仕事中ですか?」
「うん。この家の結界を確認して、その報告を本部に挙げていたんだ」
「なるほど……。あ、私、コーヒーを入れますが、飲みます?」
「! お願いしていいのかな?」
「もちろんです」
私はキッチンへ向かった。
今朝、刀岐が準備をしている間にコーヒーを作ったので、使い方や何がどこにあるかは分かっていた。
「刀岐は、ここの結界は鎮守府と同じ結界だって言っていましたけど……」
私はコーヒーメーカーにペーパーフィルターをセットした。
「そう、驚いたよ。まさか個人宅であの結界が展開されているなんて。しかもここに結界があると分からないようにさらに別の結界が展開されているんだ。鎮守府に勤務しているのに、今までなんで気が付かなかったんだ、と思ったけど、これで納得だよ」
「そうなんですね」
私はコーヒー豆をミルで挽いた。
「しかも結界の展開の仕方がとても特殊なんだ。同心円状に多重に結界が展開されている。いわゆる多重結界と言われるもので、結界同士の距離が近いと影響を受けやすい。だから展開するのは難しいし、とても繊細な作業で集中力を必要とする。理の守り手でここまでの多重結界を展開できる者は少ないと思う……」
「そうなんですね……。リビングとかキッチンとか、ちゃんとしているのに、自分の部屋は散らかっていて。刀岐って、整理整頓が得意なのか、苦手なのかよくわからないですね」
私は挽いた豆をコーヒーメーカーにセットし、水を入れた。
「まあ、男なんてそんなものだよ、澪ちゃん」
悠は快活に笑った。そして。
「完璧な結界が展開されているのに、伊織くんの寝室にだけ、風穴がある」
私はコーヒーメーカーのスイッチを押した。
「風穴?」
私はソファに向かい、悠の斜め横に座った。




