15:澪、俺に夜這いでもかけてほしいのか?
ジャージから制服に着替え、とりあえず帰宅することにした。
刀岐の部屋で一緒に暮らすこと、それは当然承服していない。
だが……。
校門を出ると、そこに悠と陽がいた。
「澪ちゃん、聞いたよ。今回も大変だったね。怪我などなかったかい?」
悠が心配そうな顔つきで私に駆け寄った。
「見ての通り、大丈夫です。というか悠……わざわざ来てくれたんですか?」
「心配だからもちろん会いに行くつもりだったけど、今は任務で来ている」
「任務……?」
「僕と陽は伊織くんと澪ちゃんの護衛の任務に就いたんだ。学校の送迎はもちろん、僕らも伊織くんの自宅でお世話になることになったから。二十四時間、澪ちゃんのことを守るよ」
「悠……、え、えっ⁉ 今、刀岐の自宅でお世話になるって言いました⁉」
「うん。鎮守府から連絡が来て、澪ちゃんも伊織くんの自宅に滞在するから、僕らもそこで護衛に就くようにって」
「嘘でしょ……」
けれど、それは嘘ではなかった。
家に帰ると母親は……。
「鎮守府の職員さんが突然来て、ビックリしたわよ。あんた、なんか変な人に狙われているんでしょ⁉ 大丈夫なの? うちにも警備の人がつくらしいわよ。ご家族の皆さんにも危険が及ばないように、って。もうビックリ。
それでこの前のイケメン、伊織くんって言うのね。しかもすごく強いんでしょ。しっかり守ってもらいなさいよ。それにインペリアルエステートに住んでいるって聞いたわよ。億ションじゃない。そこに住めるなんて超ラッキーよね、あんた。
もし……怪我でもしたら責任とってもらって、そのまま嫁にもらってもらえると助かるんだけど」
そう言って「さあ、早く荷物をまとめなさい」とはっぱをかけられた。
それどころか、私が荷物をまとめる間、刀岐や悠や陽を家に招き、ケーキと紅茶を出してもてなしていた……。
信じられない。
年頃の娘が男と一つ屋根の下に暮らすのを歓迎するなんて‼
「でも鎮守府の職員がそうするようにお母さんに勧めたんだろう。それに悠と陽も暮らすなら、刀岐と二人きりというわけではないんだし」
鈴が苛立つ私をなだめた。
「それはそうだけど……」
……悠も一緒なのかと思うと、ちょっと胸がときめいた。
「にしても刀岐、只者じゃないな。澪がジャージから制服に着替えている間にすべての手はずを整えたわけだよな。つまり、鎮守府を動かしたんだよ」
鈴の言葉に私は頷くしかなかった。
鎮守府の結界も刀岐が展開したと言っていた。
政府機関の結界を任されるなんて相当なものだ。
……だとしても、だからって……。
とりあえず荷物をまとめ、カーテンを閉めようと立ち上がり……。
……。
理人の部屋に結菜がいた。
そして理人はこちらに背を向け、結菜と……まさかキスしている……?
私は慌ててカーテンを閉めた。
心臓がドキドキしていた。
見ないでいいものを見てしまった、後悔の気持ちが沸き起こった。
もう別に理人のことは関係ない。
私は荷物を手に取り、一階へ向かった。
◇
刀岐のマンションには、悠が運転するワゴン車で向かい、地下の駐車場で降りると、みんなで部屋へ向かった。
家に着くと、刀岐は早速皆をそれぞれの部屋に案内した。
「そこは悠と陽で使ってくれ。ベッドは明日届くから、申し訳ないが今日だけリビングのソファで寝て欲しい」
そこはリビングの奥の角部屋で眺望も抜群の部屋だった。
「澪はこっちだ」
そこは刀岐の隣の部屋で、シャワールームに猫足のバスタブ、トイレがついていた。大型のクローゼットもベッドもあり、普通に大学生とかが暮らしていそうなワンルームみたいだった。
もちろん、自宅の自分の部屋より広く、窓からは都心の夜景が綺麗に広がっていた。
「澪、すげー、夜景、見てみろよ」
鈴が窓に張り付いた。
すると、そこに八咫兵衛が現れた。
鈴は驚いて窓から落下し、刀岐は鈴を受け止めると、窓を開けた。
最上階ということで、細くしか窓は開かないのだが、その隙間から八咫兵衛が部屋の中へ入ってきた。
「どうだ、追えたか?」
「途中で気づかれて巻かれた。七姫市のあたりで巻かれたから、都心には潜伏してなさそうだ」
「そうか。やはり人目のつかない場所に潜伏しているんだな……。ありがとう八咫兵衛」
刀岐は八咫兵衛の頭を撫でると、左側の壁を押した。
……!
「ちょ、これ、どーゆうこと⁉」
「あ、これ? 隠し扉」
「刀岐の部屋とこの部屋、この扉でつながっているっていうこと⁉」
「そうだよ。鍵はかけられるけど、今は外してある」
「……! なんで、こっちに扉があるでしょ。そこ使えばいいじゃない」
「俺の部屋広いし、何かあった時駆け付けるのに、廊下からだと遠回りだろう」
「じ、じゃあ、緊急時しか使わないのよね⁉」
「もちろん。……なんだ、澪、俺に夜這いでもかけてほしいのか?」
「なわけないでしょー!」
私が枕を投げると、刀岐は器用にそれを避け、自分の部屋に戻っていった。
「もう、信じられない! 着替え中に入ってきたら、許さないんだから!」
私は一人叫んだ。




