014話 Re:理不尽な対話
こんにちは、やってきましたバルテン王立学校。
入試にはトラウマしかない。俺は二月の敗者だからな。
路上で大勢に侮蔑の視線を向けられたのは、うん、あの時は気にしていなかったとはいえ、今となっては結構恐ろしい。
だからこそ、ここでなんとか合格して苦手意識を取り払いたいものだ。
あ、もう受験することはないか。
願書の提出とかもろもろは既に済ませてある。
冒険者ギルドの資格で出願できたので、戸籍だなんだと考える必要は無くなった。
まったく、若者の言うことではないが便利な世の中である。
それはいいとして、今日ここにいるのは視察だ。
ここらへんではこのバルテン王立学校が一番大きな学校らしい。
ので、どんなところなのか気になるところだろう。
ホグ○ーツみたいなところか?と思いつつ校門前にやってきたのだが…
見た目は東○大学みたいな感じだった。ファンタジーさはそこまでない。
本郷にありそうな感じの時計台が目に飛び込み、歴史を感じさせるレンガ作りなのは多少ヨーロッパ感がありそうだ。
だが、かなり広い。城塞都市というこの街の特性上、そこまでの大きさは望めないかと思っていたが、想像以上だ。
少なくとも俺が昔通っていた中学の五、六倍はある。
でも、それぐらいの大きさを持つ学校なら日本にもある。
まあ、土地が限られるなら仕方ないな。
ところで、一ヶ月少しの冒険者ライフだったが、資金は十分集まった。
竜の魔晶石が儲けられすぎる。
ここ一年間の学費分以上に貯まったので、それを多少使ってみた。
が、しかし。
俺の精神は小遣いが貧しいいたいけな中学生のままなんですよ。
だから突然大金を手に入れても使い道など出てこない。
俺がぱっと思いついたのは、魔道具だった。
グラゴーという小さめな都市にもあったのだから、バルテンにも当然魔道具店はある。
しかも、予想はしていたがかなり大きい。
これは、あれだ。今まで個人経営の古本屋で本を買ってた人が突然新宿の紀伊○屋に来た状態だ。
俺も一回だけその類の超大型な本屋に行って度肝を抜かれたものだ。
おっと、その話はどうでもいい。
問題の取り揃えだが、素晴らしかった。
シャワーが噴き出る板から、魔力が続く限り絶対に破れない結界が展開されるブレスレットまで。
基本的に魔道具は魔力を込めると発動するものなので、そのブレスレットがペラペラになるか歩く要塞と化すかは使う本人次第というわけだ。
シーナさんあたりに持たせると無敵になってしまいそうだな。
魔道具というのは魔法陣が刻まれた道具か魔力の濃い場所に置かれて性質が変異した道具のどちらかだ。
大抵の魔道具は魔法陣を刻まれて人工的に作られたものだが、たまに迷宮などから掘り出し物が見つかることがあるらしい。
迷宮は強い魔力に満ちているからか、そこで死んだ冒険者の装備などが魔道具に変異するという。
当たり前だが自然にできたものの方が希少なので価格も高い。
どうやら例のブレスレットは自然製のようだ。
軽い気持ちであれのお値段を見てみた。
…金貨五百枚。
ふーん、金貨五百枚ね。…五百…は?
一千万円だと?!
絶対買わせる気ありませんわあれ。
こっちは物価も安いし、一千万あれば大豪邸が建てられる。
それをふいにして、さらに本人の素質で効果がピンキリ?
誰が買うねん、それ。
王族とかならフラッとポケットマネーでお買い上げしてしまいそうだが…
前も思ったが彼らは平民とは住んでる世界が違うみたいだ。
到底あんなもの買えたもんじゃない。
ということで、俺でも手が届き、かつ効果も良さげなものを探すことにした。
当たり前だがそんな簡単には見つからない。
そんな中、一つのものを見つけた。
『隠蔽の指輪』と書いてある。
お値段は金貨三枚だ。
効果は、ふむふむ、「魔力が続く限り一定範囲内のものを見えなくする」…?!
とんだチート性能じゃないか。
しかし、うまい話には裏があるというものだ。
どうやら、これは幻覚魔法を発生させるものらしいが、幻覚魔法の原理は普通は均一に大気に広がっている魔力の流れを乱すこと。
つまり、触れば普通に気づかれるし、何より遮ぎっているものは普通に見えなくなる。
要するに、透明になるわけではないということだ。
それでもかなりの性能であることは間違いない。
即断即決。
ついでに、横にあった『無音の指輪』も買った。相性はいいはずだ。
二連装備、なんつって。
カウンターへレッツゴー。
『欺瞞』を使うのはやめておくことにした。前回なんか睨まれたし。
バルテンの中でもかなり安めの宿に戻って、早速指輪の効果を試してみることにしたのだが、大きな落とし穴があった。
魔力を込めると、突然床が抜けた。しかもその下は奈落のような状態になっている。
理解が追いつかない謎現象で、頭の中には???????って状態だったが、とりあえず魔力を抜く。
すると元通りに戻った。
どういうことだ?
訳がわからず、その後数十分悩んで、ようやくわかった。
どうやら、この指輪は対象範囲が指輪自体を中心とした球体状らしい。
というか、よく考えてみればこれで消えるのは無理じゃないか?
球体の外にいる人から見て、球体内部は当然認識されない。
しかし、球体が認識不能の空間であるため、その奥のことも認識することができない。
つまり、見えない球体の奥は何も見えない奈落!
恐ろしいったらありゃしない。
…散財だった。
いや待て、空中ならば辛うじて使い道はある。
雲がないところを狙えば、見えないはずだ。
ということで、再び冒頭に戻る。
『隠蔽の指輪』を装着して、俺は少し小ぶりに空中へ跳んだ。
すぐに『無音の指輪』で衝撃音を消す。
そしてちょっと上がったら、すかさず『隠蔽の指輪』を発動させる。
これで、堂々上空から見学できるという寸法だ。
最近、空中で思いっきり空気を蹴ることでその場に留まることができることに気づいた。
これで長いこと見学を続けられる。
校庭を見てみると、どうやら実技中のようだ。
勘違いするな、その実技ではない。
生徒らしき人たちが魔法を撃ち合っている。
「燃え盛れ、『乱炎弾』!」
「凍てつけ、『氷霜壁』っ!」
炎の弾丸が次々発射されるも、それは突如出現した分厚い氷の壁が防いだ。
どうやら双方詠唱を短縮しているらしい。
そういや、瀬川って転移して去って行ったとき無詠唱だったような…
これも学校で勉強できるか。
「吹き荒れろ、『風乱刃』!」
「くっ…『土壁』!…がはっ…」
今度は、さっきの氷の壁が風の刃で粉々に細断された。
防ごうと咄嗟に壁を作り出したみたいだけど、これまた風で切り刻まれている。
防御側はちょっと風で怪我を負った…のだが、一瞬で治されている。
どうやら随分高位の回復魔法陣が敷いてあるらしい。
というか、『土壁』は無詠唱で作っていたな、そういや。
簡単な魔法ほど無詠唱でやりやすいのか?
あくまで仮説だから、気にしないでおこう。
また別の組が校庭の中心の魔法陣エリアにやってきて対戦を始めた。
それを眺めるのをずっと続けた。
一時間後。一クラスがまとめて校舎に帰っていった。
うん。結構見学できた。勉強にもなった。
だが、足が辛い!
定期的に空気を蹴らなきゃいけないから、めんどくさい。
そして疲れる。
転移して最初に思ったことをもう忘れたのか?
強化モードは疲れるんだよ。
あーあ、「管理者」様、『欺瞞』返上してでもいいからなんか空中で自由自在に動ける権能くださぁい…。
ま、諦めているよ、そんな…待て。
なんだこの気配は!
いつぶりだろう。あの人に遭遇するのは。
そして、頭の中に直接”声”が響いてくる。
《『空間機動』を対象に付与しました》
《『欺瞞』の返上を確認しました》
『わっはっは〜!たまには願いを叶えてやるぞ!有難く思うがいい〜!』
俺の返答を待たずして、その声は消えていった。
…え?
待て。うん?
『空間機動』とかいうチートじみた権能はまた後で確認するとして。
『欺瞞』が、消えた?
転移直後からずっと俺の支えになってくれた、『欺瞞』が?
どういうことだ?
というか今まで何もしてくれなかったのになぜ今になって突然?
てっきり俺は嫌われているものだと思っていたが。
あ、でも魔法が使えないのは管理者のせいじゃないのか。
それはいい。
何か思惑があるのかもしれない。
それはいいとする。
が。
『欺瞞』を、失った。
これはある意味仕方ないことかもしれない。
正々堂々と生きていく上でなら、『欺瞞』はただの害悪だ。
ただ、俺は弱い人間だ。
元の世界でも平凡さを言い訳にして努力を怠るような怠け者だ。
人は…そう簡単に変われるもんじゃない。
そんな弱い俺の逃げ道となってくれていたのが、『欺瞞』だった。
使えば使う度、俺は自分が逃げていることを痛感した。
だが、それがないと…。
そんな逃げ道を突然失って、俺は変わらず生きていけるのか?
いや、そんなこと分かりきっている。
『欺瞞』なんかない方がいい。
人を騙し騙し生きるのはいいもんじゃない。
でも…。
いや……。
——一生『コソ泥』と自分に罵られるのとどっちがマシだ?
ああ、わかってる。
わかってる…よ。
さよなら、『欺瞞』。今までありがとう。
もうお世話にならないようにする。
あと、「管理者」にも一抹の感謝を。
これでイーブン…じゃねえな!まだ恨みの方が大きい。
その日は、宿に戻る前に本屋で歴史の本を買った。
今日から頑張るぜ、試験勉強。
異世界行ったら本気だす、ってか?
入試まで、あと二週間。
やれることは全てやると決心した。
今度こそ、やってやる。




