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013話 怯え

 本当はわかっていた。俺が調子に乗っていることも、二人に結局のところ依存していたことも。

俺の中身は最初に竜に怯えて立ち竦んでいた時のままなのだ。

俺なんかよりはるかに強い二人に守ってもらえるという甘えがあったからこそ、俺は前に出られた。

確かに、シーナさんにはまず勝てないとして、ユーグさんとならいい線いけるのではないかと思ったこともある。

十回戦ったら一回は勝てるのではないかと。そんな夢を見ていた。

でもそれはあくまで幻想なのだ。戦うのなら、怯えていて相手に勝てるはずもない。

多分、何回やっても俺が負けるだろう。


 二人は俺にない覚悟というものを持っている。

あんなに強い竜に立ち向かえるだけの覚悟だ。

それを持たない俺に、『ドラゴンスレイヤー』を名乗る資格はない。

二人の庇護の元でしか強敵と戦えないのなら、それはすなわち二人のおこぼれに預かっているだけとも言える。

俺はこの世界より治安がはるかに良い国で暮らしてきた。

十人に蹴られることはあっても、靴と鞄を焼却炉に投げ入れられることがあっても、手足を消し飛ばされたことはない。

十人に蹴られることが楽だったとは言わない。

俺からしたら辛かった。どうして俺だけこうなるのか、俺に名付けた両親という不可抗力を心の底から恨んだこともあった。

 しかし、どっちがより痛かったかと聞かれたら、迷いなく手足を消し飛ばされた方と答えるだろう。

腕はもげ、腹は抉れ、脚は貫かれ。


 俺は痛みを知ってしまった。

もう、元のように何も知らずに守られ続けて生きていくことはできない。




 多分俺は死ん…ではいない。死んでいたら何も考えられなくなると思う。死んだことはないからわからないが。

また迷宮に潜るのは、不可能ではない、という程度か。

竜を相手にするのは無理だけど、上層の魔物なら一人で倒せる。

どうしても金が必要な状況になったら、多分潜ると思う。

今回でようやくわかった。冒険者が稼げる理由が。

死ぬのが怖いのだ。

当たり前のことかもしれないが、自分も同じ状況に置かれて、わかった。

というか、下層階にトラウマができてしまった。


 もう二度と、あんな痛みはごめんだ。


『………ン!…パン!……ろ!』


うるせえ、眠いんだよ。

手足吹っ飛ばされて平気なわけがない。


『……るから………ぶだよ!』


少し、眠気が晴れたか…?

シーナさんあたりが回復魔法かけてくれたんだろう。

回復魔法は獣属性魔法と神聖魔法の複合だから、結構魔力をバカ食いするらしい。

シーナさん、神聖魔法は苦手そうだったしちょっと申し訳ない。

そうだ、シーナさん。

俺が最後に見た時羽根生やしてたけど、どういうことだ?

ユーグさんは見えなかったが、どうなっていたんだろう。

気になる。

このまま寝ていたらわからないことだ。

———起きるか。


世界がぼんやりと映る。

迷宮の中ではなかった。ふかふかとした感触。ベッドか。

真っ先に自分の体を確認。うん、自己中だよ、俺は。

左腕はないみたいだ。覚悟していたことだし仕方がない。

左足は…ある?え?

俺のことを覗き込んでいた二つの影にふと顔を向ける。

二人とも元気らしい。


「……おはようございます…!足はどうやって…?」

「おお、ルパン、起きたか。足か?シーナの回復魔法だよ」


すげぇ、彼女の方は使えないとか言ってごめんなさい。

左腕はなかったが、仕方ない。

元々足も吹っ飛ばされたしね。幸運だ。

あと、放っておけば自己再生するし。

 というか二人とも無傷か?猛者すぎて草しか生えん。

どうして俺はこんな人たちに勝てるとか思っていたんだ。

思い上がりも甚だしい。


「シーナが確か結界張って、急いで転移で戻ってきたんだよ」

「う…うん!確かそうだったよ!」


 あ、お前、絶対覚えてなかったな?

というか、シーナさんに聞くのを忘れていた。


「シーナさん、確か僕が最後に見たとき羽根生えてませんでしたか?気になったんですが」

「え?そんなこと、あったかなぁ……」


はぐらかしてんのか素で忘れてんのかわからん。

よし、ここは頼れる彼氏くんに聞こう。


「ユーグさん、どうでした?」

「…え?あれか?えーとな、〈獣属性魔術〉の身体強化魔法だと思うぞ」

「…そうですか。わかりました」


 ちょっと間があいた。本当か?

まあ聞いても誰得って情報だし、無視。


 今回もまた二人に助けられてしまった。

命を救ってくれた二人には感謝してもしきれないわけだが…


——これでいいのか?

…なんの話だ…。

——自分を認められるように生きていくと誓ったじゃないか。

…こんな生活も悪くないさ。

——このまま頼り続けるので本当に満足か?

…それは…。

——二人に見捨てられたら、今度こそ死ぬぞ。

…死にたくは、ない…!痛いのは、嫌だ…!

——なら多少は自立しないとならないじゃないか。

…本当にそうしなければダメなのか…?

——死にたくないんだろ?お荷物になったら本当に置いていかれるかもしれない。そしたら死ぬぞ。

……

………

 絶えることのない永劫の自問自答。

怠惰とそれを抑え込もうとする理性。

それは、やがて一つの答えを導き出す。

………

……

——これでいいのか?

ああ。決めたよ。逃げ続けた歴史を清算しに行く。今度こそ。


 俺は、学校に行く。


——※——


「え?本当にそうするのか?残念だな…」

「そう言わずに、残っていきなよ〜」

「いや、本当に申し訳ないんですが、このパーティにいるとどうにも頼りきりになってしまうんです。

 僕、いや、俺は、二人にとって守る心配のない戦力として扱ってもらえるようになるまで力を磨きたいんです」


 俺は、このパーティを抜けようとしていた。

正直後悔はある。二人と一緒に仕事をできなくなるという感情的なものもあれば、ここらではそこそこ名の知れたA+ランクパーティ『ドラゴンスレイヤー』を抜けることで冒険者としての認知度が下がるという打算的なものまで。

だが、他の二人があまりにも強すぎるがために俺ではキャリーされるだけだということに気づいてしまってからは、もう残るわけにはいかなかった。


「わかったよ。名残惜しいけど…。また会おうね!」

「ちょくちょくこっちからも会いに行けると思うからな!」

「シーナさんに忘れられてないかが一番の心配ですよ…」

「そんなぁ…。ルパン君のことは忘れないよ」

「シーナ、覚えてろよ?さすがにな」


 三人で笑って、そして別れた。

初めての仲間だったけど、もう後悔はしていない。

また会えるのだし。

しかも、これからもっとできるはずなのだから。



 こうして、一人のCランク冒険者がひっそりとギルドを離れた。


——※——


「安心しろ、ルパン。お前のことは忘れる()()()()()()()から」

「そうね。また会えるのを楽しみにしましょう…」

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