012話 迷宮の底で
我が名はルパン。今日も今日とて盗みに…ではなく、正当な方法で稼いでいる。
皆様ご存知の通り、毎日迷宮に潜る冒険者ライフを送っているわけですよ。
当初の目的である金集めも結構進んでいる。
何せ、一日辺り金貨六枚も稼げますからね。
日本円換算、十二万円。
例えるならバイト百時間分。
うん、すごい。俺が人生かけて集め続けてきたお年玉の総額を一日で軽々上回ってやがる。
それだけやってると、俺の冒険者ランクもあれよあれよという間にCまで来た。
さすがに一日で上がるみたいなことは無くなったが、我ながら一ヶ月でCなら上々の出来だと思う。
まあ普通ではそれでもあり得ないペースなんだけどね。
一日で竜を三十匹討伐できる日なんかもあったりしたから、そりゃ仕方ないかもしれない。
これだけの戦果を上げていると、当然他の冒険者にも有名になってしまう。
元々あのカップルは有名だったらしいので、俺が加入した時には三角関係がなんだかんだと噂されたこともあった。
うんまあわかるよ?他人の彼女にこういうことを言うのは良くないが、事実シーナさんは可愛い。
だが安心しろ、俺は無罪だ。ロリコン属性は俺にはない。
NTR展開なんかになった暁には横にいる怖い顔のお兄さんに惨殺されちまうよ。
だが、俺のパーティ参加から数日すると俺らが毎日のように竜の魔晶石を大量納品し続けるので、ちょっと周囲の俺を見る目線が変わった。
どうやらあいつ有能らしい、と。
俺は周囲の視線は得意じゃないが、こういうものなら耐えられる。
さらに数日して、俺らに称号がついてしまった。『竜破狂衆』とかいうらしい。
…そんな名前のRPGなかったかな?いや、気にしない。竜を倒しまくる奴ら、うん、俺らそのままだ。漢字を無視すれば。
それにしても狂とはなんだ!俺は至って正常だ!…他の二人は知らんけど!
語感だけはそこそこいいので、冗談半分でパーティ名をこれにしようと提案したら、あっさりいいんじゃないかと二人から同時に言われた。違和感を感じるほどの早さだった。
ねぇ、君たち名前に思い入れないの?
ちょっと俺は罪悪感を感じながら、俺らのパーティ名は『ドラゴンスレイヤー』になってしまった。
しかし、いくら俺らがスレイヤーしまくっても、ありがたいことにドラゴンは尽きない。
迷宮の魔物は最深部の魔力結晶から供給された魔力で再形成されるから、毎日潜っても絶えずドラゴン軍団が待ち構えているということが起こっているわけだ。
魔物たちは一度死んでいるから、記憶を引き継がない。これも非常にありがたい仕様で、誇り高きドラゴンたちは俺らに恐れもせず魔晶石にその身を転じ続けていく。
たまに、俺らの攻撃から逃げ延びた竜とかもいるらしく、そういう個体は真っ先に逃げていく。
まったく、偉大な竜族が人間風情に何をビビっているのだろうか。
…俺らが人間に見えないんじゃないだろうな。ま、向こうからしたら鬼だわな…。
そういうわけで、無限に魔晶石を量産してくれる美味しいお客様ができたことで、我らのお財布は非常にポカポカだ。
最初は禍々しいその威容に立ちすくんでいた深緑双脚竜さんも、今となっては良き新技の実験台だ。
体当たりさえ躱すかシーナさんの『結晶質基盤』で防いでもらえば、あとは楽勝なわけなんですよ。
というか、あれから他の冒険者とも仲良くなったりしたのだが、『結晶質基盤』は上級魔術らしく、あれを張れる魔術師自体がめっちゃ少ない。
しかも、上級魔術ということはそれだけ魔力をバカ喰いする。
具体的に言えば、俺の体内魔力量ぐらい。カイロに魔力流し込んで焼き尽くす「灼熱拳」一回分。
シーナ氏、あの魔術を連発してたから大丈夫かなって思ったんだが、彼女曰く
「え?あれに使う魔力量?百分の一ぐらいかな?よくわかんない〜!」
魔力値バグかよ。
ま、あの魔術師の言うことを鵜呑みにしちゃいけないのはわかっている。
もう十分思い知らされているのだ。あのカップルはどこかおかしいことを。
そんなところもあるが、シーナさんのお陰もあって俺の突きの威力は増大の一途を辿っている。
こないだなんか、最大威力を誇る「魔壊拳」に全魔力を注ぎ込んだら、一撃で竜を麻痺させることまでできた。
まだ止めをさせるだけの威力はないので、ラストはユーグさんにズバッと斬り落としてもらってるが。
そうそう、ユーグさん。あの人に勝てるビジョンは浮かばない。
俺の体の頑丈さは相当なものだが、多分彼の持つ魔剣でなら斬られそう。
なんか物凄く厨二な名前だった気がするんだが…。これは『スーパーカラフル』とは別の系統だった。
まあ命名者ユーグさんじゃないはずだしね。
前も、俺が貫通していたでっかい亀の甲羅を見て「これは斬れねぇんだよな」とか言ってたが、多分分厚さの問題だと思う。
あの亀の甲羅は、分厚い。だから、剣で断ち切るのには向いていない。
それに対し、俺の体の中で頑丈なのは骨と皮膚だけだ。
どうして筋肉がついてきているかは、うん知らん。
それはいいとして、皮膚を切り裂くだけなら魔剣の威力と彼本人の技量をもってすれば容易いだろう。
そしたら、骨もそのままズバッといきそうである。
彼と手合わせなんてしたくないものだ。いくら再生するとはいえ、痛いものは痛いのだ。
こんな感じで、日々楽しく冒険者ライフを送っていたところだった。
とある日、三階層の襲い来る雑k…こほん。恐るべきワイバーン軍団にも飽きたので、四階層に潜ってみることにした。
四階層も、最初の方はちょっと大きくなった程度の双脚竜がやってくるだけだったのだが…。
少しいったところで、そいつに、遭遇してしまった。
特A級の属性竜に。
そいつは全身が地味な茶色だった。
一見すると今まで見てきた双脚竜と同じようなものだと思ってしまうが、それは違った。
その竜の脚は、四本だった。
この時点で、必ず脚が二本しかない双脚竜ではこの竜がないことに気が付かなければならなかった。
「ルパン!気をつけろ!こいつは…」
ユーグさんが言い終わる前に、俺は既に竜に向かって駆け出していた。
俺が竜の出鼻をくじき、シーナさんが行動阻害して、ユーグさんが止めをさすのが必勝パターンだったからだ。
大抵の竜は走り出てきた俺に戸惑って、攻撃の精彩を欠くものだが…。
その竜は落ち着き払って、ただ一声咆哮した。
「グゥラァァァァァァ!」
「おい!ルパン、下がれ!」
「…えっ?」
直後、俺の右足を鋭い痛みが襲った。
思わず下を見ると、太い槍が俺の足を貫いている。
事態に気づいたのと本命の痛みが襲ったのは同時だった。
「う……あぁぁぁ…っ!」
思わず叫び声をあげる。
「地属性魔術の『岩槍』だ!早く抜け!追撃が来るぞ!」
「これで守るから!『結晶質基盤』」
…五月蝿い。そんなことは…わかってる。
ああ、こんなところで自分のことしか考えられない俺はやっぱりクズか…。
シーナさんの術が展開され、俺を守る前に、竜のブレスが放たれた。
「ガァァァァァァ!」
「……ぁ、ぅ、っ」
それは俺の左足と左手を消し飛ばし、そのまま俺の意識は飛ばされかける。
展開された防壁も、一撃で砕け散ってしまった。
「おい、ルパン!ちょっと待てよ!死ぬな!」
「こ…こで…は、まだ……っ!」
気力だけで辛うじて保っていた視覚で最後に見たのは、背中に翼を生やしたシーナさんの姿だった。
……え?待…て…ちょっと…どう、い…う………




