第十五話 贈り物
コロシアムから出て街中を歩いていると目の前で女性がハンカチを落とした。それを拾い呼び止めてハンカチを渡す。
「ありがとうございます。それから」
「ロイ様、ファティア様が会わせたい人がいると」
ファティマの部下の人か。
「ふむ?」
「さきほど試合で勝利したルル様です」
「あー、彼女のパトロン?」
「はい。まあ、今ではルル様がファティア様に、国に貢献しているような状態ですが」
「はは、そんな感じですね」
「いいですよ」
「はい。それから王や王子も会いたがってました」
「問題ないですよ」
「それでこちらから言っておいてなんですが」
「?」
「探り防止のために一ヶ月ほど王族との関わり合いを断っていただきます」
「どゆこと?」
「レフトレス、ロイ様の正体を隠すためです」
「これだけ人数が多い国です。情報操作が難しいんですよ。他国のエージェントが入っていてもわかりにくい」
「なるほど」
「ナーラ様とは引き続き蜜月に。支援無しでオール銀となると早すぎて逆に怪しいですからね」
「ほむほむ」
「なのでルル様と会うのもその後で。私共からの連絡もしばらく無くなるかと」
「了解しました」
「では失礼します」
「となるとお仕事はしばらくナーラから入るかたちかな」
(ですねー)
しばらく歩くと今度はナーラの使いと名乗る人に話しかけられた。
「ロイ様ですね? ナーラ様が御用があるとのお話です。今、よろしいですか?」
「いいですよ」
お、早速仕事のお話か?
その人の後についていく。
「で、でか!」
思わず声を出して驚いた。
「ハハハ、皆おどろかれます」
「小さな街一つ分くらいあるんじゃないですか?」
ホントに大商人だな。
屋敷に入ってしばらく歩く。なかなか家につかない。大きな土地はこれが弱点かな。
「ロイ、よく来てくれたわね」
「でっかい家だな」
「私はこれで失礼します」
「ありがとう」
「前にも言ったけど父を早くに亡くしてね。なんとか弟、妹たちとがんばってなんとかしている感じ」
「苦労しているんだったな」
「一応頭を張ってるけどほとんど弟が仕切ってるのよね」
「あっとごめんなさい、湿っぽい話で」
「いや、いいさそれで用ってのは?」
「うん、前に命を救ってもらったお礼をと思ってね」
「いいのに。色々お世話してもらってるし」
「いやいや、ここは商人として引けないわ」
「わかった」
「明日の夕方良いかな?」
「いいとも」
「じゃあまた明日」
「了解」
翌日。
「いらっしゃい」
「初めまして、弟のミッドです」
「初めまして、妹のサラです」
「この度は姉を窮地から救っていただき誠にありがとうございました」
ここは偽情報を流してある。用事があって魔戦機で来たところ怪しい奴らが居たから退治したという話になっている。医療用魔戦機は銅ベース。そのため当時の俺が無双しても問題はないということでこの偽情報に決まった。
「いえいえ、当然のことをしたまでで」
「今日は是非楽しんでいってください」
「ありがとうございます」
「では奥へ」
奥の部屋へ。
「珍しいよね。姉さんが男を連れてくるなんて。助けられた時よほど嬉しかったのか」
「いやー、調べてみると色々あるみたいでね」
「さっすが兄さん。もう調べはついてるのね」
「どうやら彼はレフトレスのようなんだ。おっと秘密にしておいてくれよ」
「! なるほど」
「人柄も良好、腕も確か。決まりだな」
「なにが?」
「姉さんの旦那だよ」
「うーん、私はまだどんな人かわからないからなんとも」
「はは、そりゃそうか」
「姉さんには苦労させてしまったからな」
「私や兄さんは魔戦機に乗れないからね。色々無茶をさせちゃったな」
「まま、長い目で見ていこうよ」
「うむ」
「そして攻める時は攻める!」
「おー!」
「ごめんね、弟達がアナタに会いたいって言って半ば無理やり」
「いやいいさ」
「偽情報もうまく機能しているようだな」
「ふふ、そうね」
「それで何か贈り物にしようかと思ったのだけど、思案して結局食事をおごることにしたわ。魔戦機乗りだとあまり荷物になるものはね」
「そうだな。さすが、気が利く」
「その分お料理、お酒は良いものにしたわ」
「そ、そうか」
(ある意味恐ろしいですね、これだけの大商人が言う良いお酒、良いお料理ってのが)
(きっと値段を、ゼロの数を数えると失神してしまうだろう)
「食前酒でございます」
ソムリエらしき人がお酒を注ぐ。更にお洒落なお料理も。
「スゥ」
こ、これは! 程よい辛口、青りんごのような穏やかな酸味、俺の好みを踏襲しつつバラン――。
(前に俺の好みをちょろっと言ったっけ。それを覚えていたか)
(しかし、食前酒でこれか。うますぎて失神しそうだ。果たして俺は生き残れるのか)




