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VSトロール

 あれから少し歩いた所に、ヒラタは良い感じの洞窟を見つけた。

 良い感じと言っても、「ワーイ休めそー」という意味ではない。

 トロルのボス、トロールが住んでいそうな洞窟、という意味だ。

 事実、その洞窟の周りではトロールが計四体彷徨いていた。


 それをヒラタとペン太は草むらの影からこっそり覗いていたのである。


 作戦が上手く行けば四体くらい余裕だ。しかし、もし氷が砕けないなんて事があったらすぐ撤退しないとな。


「行けるか、ペン太。」


「あたぼうだポサ!」


 合図と共に空に舞い上がるペン太。トロル達の視線を集めた。そして辺りの空気を目一杯吸い込むと、その膨らませた体から極寒の吹雪を放った。


「フリーズン!だポサ。」


 吹雪はトロル達の首だけを凍りつかせた。首が凍ったトロル達はやや困惑した様子だった。その隙を突いてヒラタは居合で一番近いトロルの首に木刀を振るった。


 木刀のあり得ない強度とヒラタの筋力、そして居合のスピードを一身に受けたその首は、いとも容易く砕けてみせた。


 行ける、とヒラタは確信した。そのままトロルの首を砕くと、その体を踏み台にして居合を放ち、次のトロルの首も砕いた。それをさらに二回行い、計四体のトロル達を簡単に倒してみせた。


「ふぅー、ふぅー、居合四連発はかなりキツいぜ。」


 居合を使うには百メートル走全力ダッシュくらいの体力が必要になる。それを休憩無しで四回連続でやってみせたんだ。倒れてないのが不思議なくらいだぜ。


「ちゃっちゃか中に入るペンよ。もしかしたら増援が来るかもしれないポサ。」


「いや、もしここがトロールの巣なら中にはトロールがいる事になる。狭い場所だと居合も使いづらいし、とりあえず休憩を――――」


 しかし神はヒラタに休む時間を与えなかった。

 洞窟から現れたのは先ほど倒したトロルより一回り体の大きなモンスターだった。皮膚の色や目の色は同じだったが、特に目立つのは服装だった。その身に毛皮を纏い、更には棍棒まで携えていた。


 ヒラタは悟った。こいつはトロールだと。Bランクモンスター、トロール。トロル達を統べるボスモンスターで、知能は比較的高い。巣を作り、子を守り、トロル達に狩りをさせて暮らしている。筋力が特に発達しており、トロルの腕よりかなり筋肉質だ。そもそもトロールはトロルの変異種であり、わりと頻繁に発生する。戦闘力や見た目のわりに穏便な性格を加味して、変異種としてはランクの低いBランクとされている。主な討伐目的は馬車の安全の確保である。


 トロールが頬をボリボリと乱雑な手付きで掻いた。ささくれ立った手指と泥の付いた贅肉が不潔な印象を伴っている。しかしそれとは対称的に綺麗な目でこちらを睨んできた。辺りにはトロルの死体が散乱しているので、こいつは俺達の事を敵だと認識しているだろう。ならば次は恐らく、叫びながら突進してくるはずだ。


 ヒラタの予想は当たった。


「ァァァァァ!」


 怒りを孕んだ咆哮は痛々しい印象すら与えた。しかしヒラタは既に覚悟を決めた身。自分の目的の為に、モンスターを殺すと決めた男だった。


「ペン太、フリーズン!」


「フリーズン!ポサ。」


 ペン太の口から吐き出された吹雪はトロールの首を凍らせる――――事は出来なかった。トロールはあの巨体で避けたのだ。


「まじかよ、あいつ三メートルはあるだろ。」


 ペン太は必死にフリーズンで凍らせようと試みるが、体型に似合わぬ軽々しいステップで全て避けられた。そしてトロールは棍棒を振り上げ、逃げようとするペン太に振り下ろした。


「居合!」


 しかしヒラタは居合でペン太を助け出す。


「足から攻撃してまずは動きを封じるぞ。」


「了解だポサ。」


 ヒラタはポーチを適当な木の側に放り投げ、トロールの足に向かって居合を放つ。斬る事が目的ではなく、単純に痛め付け動きを鈍らせようという魂胆だ。ペン太のフリーズンは強力で、ほとんどのモンスターの動きを完全に封じる。スケルトン相手には一秒ほどしか持たなかったが、実はフリーズンは当たれば強いチートスキルなのだ。


 幸い、トロールはヒラタのスピードに着いて来れていなかった。トロールの足元を何度も往復し、すれ違いざまに殴っていく。トロール相手でも居合は十分な威力を発揮した。しかし決定打にはならないので、ペン太のフリーズンに頼らなければならない。


「今だ!」


「フリーズン!ポサ。」


 トロールの足元に向かって、ペン太はフリーズンを放った。

 ヒラタによって痛め付けられた足は思うように動かず、トロールの足は完全に氷に捕らわれてしまった。


「よっしゃあ!あとは首に叩き込んでやれ!」


 ペン太が息を吸い込んだ、その時だった。


「ァァァァァァァァ!」


 トロールが再び叫んだ。耳をつんざくような叫び声で、二人(一人と一匹)の動きを止めた。その瞬間、歪な音が響き、トロールの片足が氷を破ってしまった。


 尋常ならざる力。スケルトンには劣るがそれでもモンスターとしては間違いなく上位の方である事が、ヒラタにも分かった。


 氷が効かない。疲労させるしかないのか?体力勝負ならトロールの方が勝つ。居合は使えば大きく体力を消耗するから持久戦には向いていないし、ペン太のフリーズンも体内の水分が少なくなれば使えなくなる。ペン太のフリーズン無しではトロールには勝てない。何とかして首さえ凍らせられれば............。


 ヒラタはトロールの注意を引く為に、もう一度居合で足を叩いた。

 何度もトライするしかない。ペン太もフリーズンを足に首に狙いを定めて撃つ。


 しかしトロールはヒラタを無視し、フリーズンを避けてペン太に肉薄し、至近距離で棍棒を振り下ろした。


 間に合わねぇ、とヒラタは思った。トロールとペン太の距離が近すぎる。居合を使ったら二人ともやられる。だがそれはペン太を掴んで避ける場合であり、木刀を使ってペン太を押し出せばペン太だけは助ける事が出来る。そういう事でヒラタは迷う性格ではなかった。


「居合!」


 ヒラタはペン太を木刀で押し出し、トロールの棍棒を避けさせた。しかしそのせいで自分はトロールの棍棒が背中に直撃してしまった。


 痛みは無かった。瞬間的に気絶したのだろう。当たったと同時に地面に伏していた。ただそこから自分の状態を理解した瞬間、身を砕かれたような激痛と吐血が襲い、また体がピクリとも動かなかった。ただそれでも舌だけは回った。


「ペン太............!」


 それだけで伝わった。


 ペン太はトロールを無視して、ヒラタが投げ捨てたポーチから何かを取り出した。その何かをこそ、ヒラタが遅刻してまで買ったものなのだ。


 ペン太はそれをヒラタに投げた。

 それから倒れたヒラタに襲い掛かろうとするトロールの足止めを始めた。


 ヒラタは腕を動かそうとした。しかし動かない。痛み、それから違和感。骨が折れているのかもしれない。だとしたら既に戦える状態ではないので、一刻も早く撤退すべきなのだが、ヒラタはそれをしなかった。それどころか、ヒラタの目にはまだ闘志が滾っていたのだ。


 ヒラタは掴んだ。()()()。透明なビン。中には液体が入っている。これこそヒラタが買った物であり、ペン太がヒラタに渡したかった物。


 コルクっぽい栓を抜き、中の液体を一気に飲む。

 苦味の中にほんのりした甘味があった。

 そしてその液体............()()()は大いに効果を発揮した。


 まず痛みが引いた。

 次に違和感が消えた。

 最後に疲れも緩和された。


 しかしあくまで鎮痛作用と一時的な損傷部位の簡易結合、疲労回復と再生促進の効果しかない。つまり飲めば即回復ではないのだ。しかしヒラタがもしものために全財産叩いて買った回復薬はヒラタを救った。


 立ち上がったヒラタが目にしたのは、ペン太がトロールの持つ棍棒によって殴られスーパーボールのようにバウンドしている瞬間だった。即座にエンブレムケースを探す。あった、ポーチの中だ。取り出してペン太をエンブレムに戻す。


 回復薬はもう無い。ペン太にこれ以上のダメージは危険だ。ここから先は俺、一人でやるしかない。トロールとタイマン。しかし、どうやって倒す?


 ヒラタは思考を巡らせる。人が死に掛けると走馬灯を見るのは、過去の体験から現状を打破する方法を探しているからであるという説は有名だが、ヒラタは今それと同じように過去から模索している。


 しかしトロールは残念ながらそれを待ってくれない。

 ペン太を退けたトロールはヒラタに向かって棍棒を振るった。


 もう一回当たれば確実に詰む。


 しかしヒラタは居合を使わず、ギリギリの所で何とか避けた。

 回復薬である程度は回復したとはいえ、ヒラタには後居合一回分くらいの体力しか残っていなかった。正直避けるのも億劫で、次棍棒が振るわれる時、避けられるか分からない。


 考えろ。


 考えろ、考えろ。


 次の攻撃を避ける方法を?

 いや、凌ぐ方法をだ。


 避けなくて良い。何とか無事であれば良い。攻撃の後の隙を、あの一瞬の隙を狙って、()()()()()()()()()()を使うしかない。災い転じてなんとやらと言うが、ペン太がやられなければ思い付かなかった技だ。だから何とかして防げ。隙を作れ。


 ヒラタは考えた。

 居合で避けられないならばマチブセで姿を消すか?

 それでトロールがヒラタを見失ってくれる保証はない。トロルを統べるボスだけあって知能は高いと聞いている。小細工は通用しない。


 ならば、どうする?


 ヒラタが持つ武器は後一つしかない。炎球(ファイヤボール)だ。純粋な剣技であのばかでかい棍棒を受け流す事は難しい。炎球(ファイヤボール)を顔面にぶつけて怯ませよう。そして一瞬怯んだ隙を突いて新技を使おう。


 トロールがヒラタの目の前で棍棒を振り上げた。

 振り下ろされるまでの僅かな時間で、ヒラタは手に炎球(ファイヤボール)を作り出した。三つだ。全てトロールの顔にぶつけるつもりだった。



 しかしヒラタは読み違えた。速かったのだ。作り出した炎球(ファイヤボール)を発射させようとした時にはヒラタの目の前に棍棒が迫っていた。


 発射させても、棍棒の一撃を喰らう方が速い。喰らえば今度こそ死ぬ。


 死。


 その一文字がヒラタの頭を支配し、体の動きを奪った。

 動かなければならないのに動けない。硬直がヒラタを襲ったのだ。

 故に、棍棒はヒラタの頭蓋骨を無惨に砕く。




 ―――という事にはならなかった。


 ヒラタの目の前にかざされた掌。

 そこに付いている三つの炎球(ファイヤボール)がヒラタを守ったのだ。


「痛!」


 右手に衝撃が走る。だがそれだけだ。見ると、トロールが持っていた棍棒は炎球(ファイヤボール)に止められ、更に木製のそれはメラメラ燃え盛っていた。


「ァァァァァ!?」


 燃える棍棒を見て叫ぶトロール。振っても振っても消えない炎にしびれを切らし、棍棒を捨てて素手で殴り掛かってきた。


 勿論、そんな事をしている間ヒラタがボーッとしている訳では無かった。


 三つの炎球(ファイヤボール)が俺を守った。衝撃はどういう原理か炎球(ファイヤボール)に幾らか吸収されたようだ。魔力にはそういう特性もあるのかもしれない。ならば、この三つの炎球(ファイヤボール)を回してラウンドシールドのようにすれば、更に盾のようにダメージを防いでくれるかもしれない。元が炎だから攻撃をした側もただではすまない所も気に入った。そう、これはもうそういうスキルだ。俺が作ったスキルだ。名前は―――



 トロールが思い切りヒラタに右ストレートを繰り出す。

 棍棒を失ったとはいえ、当たれば死ぬのに変わりはない。

 だが状況はさっきとは全く違う。ヒラタには編み出された新スキルがあるのだ。



炎盾(ファイヤシールド)!」


 右手に三つの炎球(ファイヤボール)が出現し、それらが時計回りに回る事でラウンドシールドのようになる。


 炎盾(ファイヤシールド)でトロールのパンチを防ぐ。衝撃はとんでもないが、何とか吹っ飛ばされずに済んだ。手も痛い程度で済んでいる。


「ァァ!?」


 そしてトロールは焼ける右手を空に掲げて苦しんでいる。ヒラタの炎球(ファイヤボール)は炎にしてはかなり低温だがモンスターの手を焼くくらいは出来るようで、トロールの右手は黒く変色している。


 そして、トロールに隙が生まれた。



 悶えるトロールに標準を定め、ヒラタは居合一回分の体力を解き放った。

 それはヒラタが貰ったヒントから思い付いた、トロールを倒す剣技であり、ヒラタの第二の新技だ。


「グッさん流剣技、居合。」


 次の瞬間、ヒラタはトロールの背後にいた。トロールの動きは止まり、森に静寂が訪れた。それを破ったのはヒラタの一言。新技を表す一文字だった。


「突。」


 グッさん流剣技、居合・突。


 どこにでもいる女の子の発言から着想を得て、居合の斬る動作を突く動作に変えた、弱点一突の剣技だ。


 トロールは目から血を吹き出させ、倒れた。

 目から脳まで貫いたのだ。モンスターと言えど死ぬ。

 魔石の位置が分かっていれば魔石を狙う事も可能で、しかもめちゃくちゃ速いので避けるのが難しい。


「あれ、もしかして俺、めちゃくちゃ強くなったんじゃね?」


 疲労により膝から崩れ落ちながらヒラタは呟いた。

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