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帰り道

 ヒラタはしばらく地面に手を着いて、肩で息をしていた。

 回復薬で誤魔化していても重傷に変わりない。居合で蓄積した疲労もそこに加わり、もうぶっちゃけ数ミリも動きたくない。しかしまだトロールの首を切って持って帰らなくてはならないというミッションがあるのだ。ヒラタは呼吸を整え、立ち上がった。


 トロールの死体を見る。


 何だか見ていると悲しくなってくる。自分が殺したという罪悪感と何かを失ったかのような虚しさが胸を占めていた。しかし、冒険者たる者こんな事でへこたれていてはいけない。ヒラタは早速、トロールの首の切断に取りかかった。


 でも木刀じゃ切れないよなぁ。


 悩んだ挙げ句、炎球(ファイヤボール)で焼き切る事にした。応用しやすくて実に便利なスキルである。ただヒラタ自身はもっと強いスキルが欲しかったようだ。


 手際よく首を切ると、それを持ってポーチに入れた。


 想像はついてたけどくっそ重いなこれ。ちゃんと持って帰れるか不安になってきた。しかも血がボタボタ垂れてるし。服が汚れる分には良いけど、ポーチは自動洗浄機能付いてないからポーチが汚れるのだけは勘弁して欲しいぜ。


 ポーチに血が垂れないように上手に切断面を上にして入れる。ギチギチになってしまうがわりと丈夫なポーチなので大丈夫だろうとヒラタは思っている。エンブレムケースはズボンのポケットに入れておく。


「えーっと、俺が来たのはあっちで、確か川はあっちの方角だったから、このまま真っ直ぐ進んで行けば良い............のか?」


 一度川に戻ってそこに沿って行けば確実に戻れるのだが、何故かそれをしないのが方向音痴という物なのである。果たしてヒラタはちゃんと帰れるのだろうか。


 不安げな足取りでヒラタは歩き出した。


 ■□■□


「重いよ~、首重いよ~、馬車どこだよ~。」


 彷徨う事数十分。既視感を覚える風景は何度かあったが、ルシファーの率いる馬車は見つからなかった。そして終いには全く見覚えのない獣道まで現れたではないか。何か巨大な物が通った後かのような獣道だ。負傷して体力もギリギリなヒラタ。でっかいモンスターとか出ないよなと戦々恐々としていた。


 正直トロル一体出てくるだけで辛い。何なんだよこの獣道。でも進行方向と被ってるんだよなぁ。これに沿って行くしかないんだよなぁ。


 とことこと歩いていくヒラタ。運が良いのか、不思議とモンスターとは出会わなかった。しかし冒険者たる者、警戒は忘れない。木々や草むらの葉っぱが擦れる音にも注意を回し、いざと言うときには居合で逃げれるように木刀に手を掛けておく。


 ちょっと休憩しようかと思ったその時、ヒラタの耳に音が届いた。

 何かと葉っぱが擦れる音と荒っぽい呼吸音だ。


 モンスターか、とヒラタは思った。しかしモンスター側から見つかっていないのか襲われる様子はない。


 道脇に跪き、息を潜めてじっとする。念のため手は木刀に掛けておき、迎撃の準備もしておく。


 モンスターの気配は少しづつ近付いて来ている。というかヒラタに向かって一直線に来ているような気がする。あまり大きい気配では無いがそれでも中型犬くらいはありそうだ。


 もしかしたらハウンド系か、とヒラタは思った。そうだとしたら姿を隠し息を潜めても意味が無い。ハウンド系のモンスターは嗅覚が発達しているからだ。


 いやぁ、これはまずいことになった。普通なら負ける事は無いと思うけど、今戦って勝てる保証は全くこれっぽっちも微塵もない。ハウンドだとしたら逃げる事も難しいだろうし、なんとか炎球(ファイヤボール)だけで凌げるかな。


 覚悟を決めて左手を突き出す。

 近づいてくる気配。

 しかし近づいてくるにつれて、呼吸音がハウンド特有の犬っぽい荒い息ではなく小動物の鳴き声に近い物だと分かってきた。


 ヒラタは思った。もしかしてハウンドじゃないのでは、と。


 ハウンドでなくてもモンスターはモンスター。

 ヒラタは一旦様子を見る事にした。


 マチブセを無詠唱で発動し、姿と気配を消す。

 数秒後、木々の間から草むらを掻き分けて現れたのはハウンドでは無かった。

 一言で形容するなら、ハムスターだ。

 しかし中型犬ほどの大きさ。体は白と茶色の縞々。手足と鼻はピンク色であり、大きなくるりんおめめの下には小文字のエムを逆さまにしたような口が付いている。その両隣には三本の白い髭が生えていた。


 そいつは辺りをキョロキョロと見回している。俺を探しているのだろうか。しかしいくら探したところでマチブセを発動している俺を見つける事は出来ない。


 そいつは悲しげな声でキュウウと鳴いた後、こちらに背を向けて草むらに帰っていく。


「おかしいキュム~。確かに人がいると思ったのにキュム~。」


「いやお前喋れるんかい!」


 し、しまった!

 マチブセが解けてしまった!


「キュム!? 一体どこに隠れていたんだキュム!?」


 ま、まずい、襲われる!


「まぁ良いキュム。」


「いや良いんかい!」


「そんな事よりキュムを助けて欲しいキュム! キュムは今、()()に追われてるんだキュム。」


 ま、魔王?

 何を言っているんだこのハムスター。

 魔王って言ったら『文字』を持っているヤバいくらい強いモンスターの事だよな。え、普通ダンジョンとかに住んでんじゃないの? ランダムエンカウントするもんなの?


「キュム。自己紹介がまだだったキュム。キュムの名前は神獣、アームネーム、キュム!」


「な、なるほど、アムネか。」


「勝手に略すなキュム! 神獣、アームネーム、だキュム!」


 神獣って枕詞いる?


「キュムは今ヤバい魔王に追われてるキュム。そこを冒険者が通り掛かったキュム。神獣の勘がこの人なら助けてくれると叫んでいたキュム。どうか助けて欲しいのキュム。」


 神獣の勘て。

 しかしこいつ、頭が切れるな。

 モンスターなのに言葉を喋れたり、俺の事を一瞬で冒険者だと見抜いたりした。

 神獣ってのも嘘じゃないのかもしれない。


「あ、俺の名前はヒラタ・イヨウ。なぁアムネ、神獣なんだったら自分で魔王倒せたりしないの?」


「無理キュム。」


「無理なの!?」


「そもそもキュムはまだ神獣化出来ないキュム。」


 な~んかまた新しい言葉出てきたぞ。

 なんぞや神獣化って。


「あ、神獣化ってのは神獣にだけ許された必殺の変身だキュム。肉体を一時的に先祖返りさせて神獣の力を解放する事が出来るのキュム。」


「なるほど。まだって事はいつか出来るようになるんだな。」


「神獣化は神獣石が無いと出来ないキュム。」


 なるほどなるほど。アイテムが必要な変身ね。


「そしてその神獣石がこれキュム。」


「いやどっから出したその石ころ!?」


 気付けばアムネの手には乳白色の煌めく楕円形の石が握られていた。


「神獣の能力その二、アイテムボックスだキュム。」


 は? クソ便利やんチートやん。


「キュムはまだ一個しか物を仕舞えないキュム。」


 それでもまあまあ便利だよ!


「ちなみに神獣の能力その一は何なんだ?」


「見せてやるキュム。」


 そう言うとアムネは俺の体に手を当てた。すると体の芯から暖まる感覚と共にさっきまでボロボロだった肉体の痛みが退いていく。


「これが第一の能力、回復魔法だキュム!」


「クッソ便利じゃねぇかああああああああああああああ!」


 ふざけるなぁ!

 俺がどんな思いで大金叩いて回復薬買ったと思ってんだよ!

 そもそも回復魔法とかあるのかよこの世界。

 いや、いやいやいや、冒険者ギルドに常駐してる人でも回復魔法っぽい事をしてる人いなかったよ!大抵薬かその他原始的な治療だけだったよ!


「アムネ、俺と一緒に冒険者やらないか?」


「アムネは神獣だキュム。神獣がどういう物か、知っているキュムか?」


「いや、知らない。」


「教えてやるキュム。」


 そう言うとアムネはポツポツと語り出した。


「神獣はヘッドネームとボディネームという二匹のモンスターの血を引いたモンスター全体の事を指すキュム。その特徴としては、神獣石を使う事での神獣化があるキュムが、もう一つ、神獣は死んでもその記憶を引き継ぎまた産まれるというのがあるキュム。」


「つまり、実質的な不老不死って事?」


「そうだキュム。だから神獣にとっての最優先は神獣石だキュム。神獣石こそ神獣の希望だキュム。魔王に殺された皆も今頃世界のどこかで産まれてるに違いないキュム。だからキュムは皆を集めて、出来れば神獣化が出来る長のところまで神獣石を持っていきたいんだキュム。」


 なるほど?


「つまり神獣石を守って、キュムを他の神獣達と合流させてくれるなら協力してやっても良いキュム。」


「まじ!?」


「ただしその前に魔王を何とかしないといけないキュム。ヒラタは魔王に勝てるキュムか?」


「多分無理。だけどめちゃくちゃ速く移動出来るし透明化したりも出来るから逃げるくらいなら余裕だと思う。」


「なら協力してやるキュム。」


 よーし、一肌脱いじゃいますか。


「そういえば、追ってきてた魔王ってまだ来ないの? いくら何でも遅くね?」


「確かにそうだキュム――――」


 突然、俺の後ろに恐怖が出現した。

なんと、祝四周年!

そして投稿するのが遅れました!

完全に忘れてました!

とてもまずいです!

新作なんて書いてる場合じゃないですよ!

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