ライバル
ちょ、ちょっと待って。
こいつ今、な、なんつった?
コクザン・ムカイ?
コクザン・ムカイと言ったのか?
まさか、いや、え、そんなはずは............いや、あり得る。俺の他にも転生者はいるんだ。つまり、この名前からしてこいつは!
転生者だ!
しかも日本人!
「............どうした?お前の名前も聞かせてくれよ。」
「あ、あぁ、そうだな。」
どうする、俺の名前をそのまま伝えるべきか?いや、伝えるべきだ。コクザンは転生者。絶対に俺の味方になってくれる存在だ。他の転生者とも協力しなくては元の世界に戻る方法も見つけにくいに違いないんだから。
「俺は............俺の名前はヒラタ・イヨウ。転生者だ。」
反応は顕著だった。
多分俺もさっきあんな顔をしていたんだと思う。
同じ転生者に出会ったんだ。無理もない。
「ヒラタ............イヨウ?」
「そうだ。平べったいの平に、田んぼの田。衣に太陽の陽と書いて、平田衣陽だ。」
「ま、まさかこんな所で同じ転生者に会えるなんて、思わなかった。俺は黒いに山、向かうと書いて黒山向だ。」
黒山か。漢字にすると分かりやすいな。
「なぁ黒山、詳しい話はモンスターギルドでやろう。こんな所じゃ落ち着いて話も出来ないからさ。黒山もモンスターギルドに所属してるんだろ?」
「あ、あぁ。モンスターギルドだ。だが不思議だな。今まで一度も出会わなかったなんて。あのギルド結構小さいのに。」
確かにそうだ。
それに、この一ヶ月でルーンさんから黒山なんて名前を聞いた事はただの一度もない。もしかするとルーンさんは隠していたのか?
「ルーンペンは、ヒラタに会ってすぐにヒラタが転生者である事を見抜いていたポサ。ヒラタが一度も転生者とは言っていないのに、ルーンペンはヒラタの事を転生者と呼んだポサ。」
「ルーンさんって、一体何者なんだ............?」
確かに。言われてみれば俺はルーンさんに転生者である事を明かしていない!
ルーンさんは友好的な人物だと思っていた。いや、今だって思っている。だけど俺はルーンさんについて何も知らない。
「なぁ平田。俺達転生者が唯一信頼できる人物って誰だと思う?」
「そりゃ、王都の人達は皆信頼して良いと俺は思う。皆良い人だからな。」
「良い人?良い人って、なんだ?優しければ良い人か?正義を持っていれば良い人か?」
俺の目線と黒山の目線がぶつかる。
まるで日本人のような黒い目だ。
「平田。俺達転生者が唯一信頼できるのは同じ転生者だけだ。ここ異世界では常識は通じない。それは人間性に関してもそうだ。」
「根本的に異世界人と地球人じゃ思考が違うって事か?」
「あぁ、そうだ。善悪とは自分に利があるかどうかだ。異世界の善が、俺達にとって利にならないのならそれは悪なんだ。」
「なぁ黒山。俺頭悪いからそういうムズカシイ話はモンスターギルドでやらないか?それに俺今依頼やってる途中だし。」
「あ、あぁ、そうか。悪かったな。急にこんな話を始めて。」
「それでよ、とりあえず話はモンスターギルドでやるとして、ちょっと今ここでしか出来ない事をしないか?」
黒山は首を傾げる。
「今ここでしか出来ない事?」
「そう。転生者同士が出会えばやる事はただ一つ!決闘だ!」
「は?」
「いや、は?じゃなくて、決闘だって。どっちが強いか気になるだろ?」
「ま、まぁ確かに気にはなるが............これって必要なのか?」
「必要だぜ!体は闘争を求める!」
木刀を抜いて黒山に突き付ける。
相手が剣に剣を重ねれば決闘成立だ。
「ま、良いぜ。その体に逃走を求めさせてやるよ。」
黒山は鞘から銀の剣を抜いて俺の木刀に重ねる。
決闘成立だ。
「じゃあ今からそこら辺の石を一つ投げるから、それが川に落ちたら開始だ。流血は避けて、先に膝を着いた方が負けにしよう。」
「良いぜ。ラノベでもあんまり見ねぇよな。転生者同士の決闘って。」
さっきからの会話で黒山の頭の良さが見え隠れしている。しかもただの頭でっかちじゃないみたいだ。ラノベ読んでるのか。そういうやつ好きだぜ俺。
俺は適当な石を拾うと、空高く放り投げた。
そして出していた木刀を鞘に入れる。
この鞘は俺の意思と繋がっている。木刀を鞘に入れるだけでは木刀は中に吸い込まれない。鞘にしまう、と念じれば木刀は鞘の中に姿を消す。もう一度取り出すには武器の名前を呼ぶ必要がある。どんな原理だよ。
石は既に落下を始めていた。
あっ、と思う間も無くポチャリと音を発てて石は川に落ちた。
「居合。」
ヒラタは瞬時に距離を詰めてコクザンの首を狙う。
しかしコクザンは異常な反射神経でギリギリガードに成功する。
ヒラタは防がれたと分かると即座にその場から離脱した。
「これを防ぐとは、やるな。」
「お前もだ。ヤバすぎる。いきなり決闘を申し込んでくる精神もヤバいが、そのスピードは何なんだ。本当に人間なのかよ。」
失礼な。俺の努力の結晶だぞ。
「まぁ、異世界に来たんだから剣技の一つでも身に付けようと思ってね。」
再び居合で距離を詰めて攻撃に入る。
またしても防がれてしまうが、今度は離脱せずそのまま攻撃を続ける。
木刀で腹を狙って切り上げるとコクザンはそれに合わせてくる。そしてコクザンは攻撃を受け流しながらヒラタを足で攻撃する。
ヒラタは一歩下がってそれを回避し、次は肩から胸にかけてを斬り付ける。しかしそれも防がれ、つばぜり合いに入る。このままでは不利だと悟ったヒラタは強引に押してコクザンの体勢を崩し、ペン太に合図をした。
「今だ!フリーズン!」
「迎撃しろ!噴火!」
ヒラタにはコクザンと数手ほど戦って分かった事があった。
コクザンは判断が早い。反射神経が良いのか、はたまた頭の回転が良いのか、もしかすると両方なのか。とにかく仕掛けているのはヒラタなのにそれに対して着いてくるのだ。
「ペン!」
「ピツ!」
ペン太のフリーズンがコクザンを襲う。しかしそこにロックが割って入り、体から火柱を出してフリーズンを打ち消した。
ヒラタはロックと呼ばれたそのモンスターを見るのは初めてだった。
しかし今の噴火とかいう攻撃は、ペン太のフリーズンを相殺するくらいの威力があった事から、直撃すればただでは済まない事を理解した。
水蒸気が辺りを包み、視界が一瞬失われる。
ヒラタはその隙を突いて、今度は炎球での攻撃を開始した。
「炎球!」
ヒラタが放つとほぼ同時に水蒸気の向こうからコクザンの詠唱が聞こえた。
「黒球!」
二つの魔法はぶつかり、煙を出しながら消滅した。
相殺されたのだ。コクザンが使った黒球はヒラタの炎球と同じくらいの威力があった。ロックの噴火とペン太のフリーズンも同じくらいの威力であったため相殺された。
ヒラタは居合を使える分有利なはずなのだが、コクザンの驚異的な反射神経によりほとんど意味を成さない。
そこでヒラタは考えた。
コクザンの黒球というスキル、あれは魔法だ。そして色が黒い事以外は俺の炎球と大して変わらない。
居合も防がれるならこの辺りを包む煙を利用して奇襲を仕掛けよう。
マ・チ・ブ・セ!
ヒラタの体がスウッと消える。
息を止め、動きを止める事で姿を隠すもぐゾンさん流剣技マ・チ・ブ・セは、こういった時に役に立つ。なんだかんだで逃げのスキルは死なないためには大切なのだ。
煙が晴れると、眉をしかめたコクザンの顔が見れた。
ヒラタを探している。姿も気配も消えたヒラタを見つける事はどうやら出来ないようだ。コクザンが一瞬後ろを向いた隙を突いて居合で斬りかかる。
コクザンの反応は早い。しかし居合とマ・チ・ブ・セの合わせ技による奇襲を完全に防ぐ事は出来ない。ヒラタは左下から右上に斬り上げたのだが、コクザンは右下からガードに入った。なのでコクザンは左肩に木刀の一撃を喰らう事になってしまった。
「ぐっ............!」
出血はしない。木刀で人が斬れてたまるかという話である。
しかしわりと激しく叩いたのでかなり痛いはずだ。
「や、やっと当たったぜ。この調子だ!」
ヒラタは猛攻を仕掛けた。
まずコクザンが仰け反ってむき出しになっている腹を木刀で叩き、前屈みになったコクザンの首に斬撃を放つ。しかしコクザンは得物で止める。
コクザンがヒラタに向かって蹴りを放つので、ヒラタはそれを避ける。コクザンはその隙に間合いから抜け出す。
しかしヒラタは食らいつく。右に左に木刀を振ってコクザンを斬り付ける。コクザンは流石の反射神経で全て防御する。
その間にも横でペン太とロックは激しい攻防を繰り広げていた。
ペン太が爪で引っ掻こうとするとロックは殴り付けて応戦。
ならばペン太は空からフリーズンを放つ。しかしロックは噴火でそれを相殺。いや、押し返していた。しかしペン太は空を飛べるため、ロックの攻撃は当たらない。
双方ともバトルは膠着状態だった。
しかしヒラタとコクザンのつばぜり合いが激しくなってきた時、勝負は動いた。
先程からヒラタは違和感を感じていたのだ。
どうもおかしい。黒山の使う武器は銀製のはずなのに、俺の木刀に押し負けている。ぶつかった時の音も不自然だ。まるで木と木がぶつかったような音だ。
ヒラタはもしかしてと思い、つばぜり合いの最中にもかかわらず木刀でコクザンの得物を擦ってみた。するとどうだろう。銀色がペリリと剥がれて中からは見覚えのある木目が――――
「って木刀じゃねぇか!」
「チッ、バレたか。」
バレたかじゃねぇよ!
銀箔張ってただけじゃねぇか!
「しかしもう遅い!喰らえ、太陽光反射アタック!」
コクザンの木刀に張られた銀箔が太陽の光を反射してヒラタの目を襲う。
「目が!目がぁぁぁ!」
目を焼かれたヒラタは瞬時にその場から離れた。
「ペ、ペン太、俺に捕まれぇ!」
「分かったポサ。」
「目がやられたからいったん距離を取ろう。黒山達を迎え撃ってくれ。」
そう言いながらヒラタは後退りする。
しかしペン太は今、ヒラタがどこに誘導されているのかが分かってしまった。
「ヒラタ!後ろに下がっちゃダメポサ!」
「もう遅いック!地雷噴火!」
ヒラタの足元でカチリと音がする。
次の瞬間、ヒラタは真下から何かに押し上げられている感覚を味わった。
「ま、まさか自分の体以外からも噴火ができるなんて予想外だったポサ。」
「え、ちょ、今どうなってんの?つうか足元熱くね?」
噴火はヒラタを三十センチ程持ち上げると、一気に数十メートル上まで押し上げて、ヒラタとペン太の二人を吹っ飛ばしてしまった。
二人は空まで飛ばされ、星になった。




