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東の森にて

 馬車に乗ること一時間とちょっと。

 俺は魔力切れに気を付けながら炎球(ファイヤボール)の練習をしていた。

 うん、調子は良いようだ。片手で三つまで出せるようになれたのはデカイな。その分魔力の消費も激しそうだけど、魔力切れになった事は一度もない。何でだろうね。


 ペン太も水はたっぷり飲んでるから、フリーズンの用意も完璧だ。

 確か依頼状にはトロールの頭を持って帰らないといけないって書いてあったはずだ。頭かぁ。どうやって切ろうかな。俺木刀しか持ってないんだけど。


 トロールの頭を切る方法を考えていると、馬車が止まった。

 どうやら目的地に着いたようだ。というのも、依頼状にはトロールの巣がある辺りは危険だから馬車では行けないと書かれていた。ご丁寧に地図付きなので、迷う事は無さそうだけど、そもそもトロールの巣の場所とか調べられてるのってすごいよな。調査班とかいるのかな?


「ここまでだ。降りろ。」


「ういういー。行くぞ、ペン太。」


「ペンー。」


 馬車から降り、地面に足を着ける。


「さて、着いた訳だが一つだけ話がある。」


「あ、ちょっと待って。」


 ヒラタは馬車からちょっと離れた草の陰まで駆け寄ると毎度の如く吐いた。


「おっええええええ............。」


「うわこいつまじか。」


 う、うるせぇな。こっちは好きで吐いてる訳じゃねぇってのに。う、まだ吐きそう。せっかく食った飯がぁぁぁ。おええ。


 しばらくヒラタは吐いた後、ペン太に嘔吐物を冷却して貰い、木刀で砕き、地面に埋めて加熱焼却した。


「よっし、話ってなんだ?」


「こいつ............慣れてやがるな。」


 うるせぇなぁ。ゲロなんてゲップと大して変わらねぇよ。


「ま、まぁ良くは無いが良いとしよう。話ってのはな、俺はもしお前がヤバイ状況になっても助けないぞって事だ。」


「というと?」


「もしお前が瀕死の状態で命からがら逃げて来ても、後ろにモンスターの姿が見えたらお前を置いて逃げるし、お前が一日以上帰ってこないようならもちろん帰る。」


 まじかぁ。ドライだなぁ。でも冒険者って感じが嫌いじゃない............いや嫌いだわ!せめて助けてよ!


「ギルドには死亡報告をする事になる。面倒だが、命には代えられん。俺は俺の真なる力が覚醒するまで死ぬ訳にはいかないのでな。」


 じゃあ一生死ねねぇじゃねぇか。


「まぁ、そういう事だ。分かったな?」


「あー、まぁ、分かったよ。それじゃあ俺は行く。言っとくけどちゃんと帰ってくるからな!勝手に死亡扱いにするなよ!」


 しっかり釘を刺してから俺は森に入った。


 いや、正確には既に森に入っていた。しかしこの先の森は危険なモンスターがうじゃうじゃいるだけでなく、道は無いし草木は生い茂っている。

 馬車ではどうあがいても入れない。これトロールの巣が無くても入らないだろこんな森。


 等と思いながら依頼状に書いてある簡易的な地図を見ながら進む。

 どうやら近くに川があるらしい。そこを辿っていけば迷わずに済みそうだ。


「こっちの方向に川があるらしいぞ。」


「木ばっかりでモンスターの気配は無いポサ。ちゃっちゃか行こうポサ。」


「そうだな。」


 木々を掻き分け、川があるという方向に向かう。

 ただしモンスターの気配が無いからといってモンスターがいない訳ではない。この事はモンスターギルドでモンスターの図鑑を読んで知った。モンスターってのは生きるために人を襲うんだ。つまり狩りに特化した厄介な能力の一つや二つ備えていてもおかしくない。例えば............。


「こういう森の中で木に紛れていたり、とかな!」


 右前方の木の根っこが三本、俺目掛けて飛んでくる。


「ウッドソード!」


 鞘から木刀を取り出し全て弾く。

 しかしやつは諦めず攻撃を続ける。


「フリーズン!ペン。」


 ペン太の吹雪で根っこが凍る。動きが一瞬止まるので、俺がその隙をついて木刀で叩き割る。


「しかし厄介なやつだぜ。こいつはウッドマンだ。木が動いているように見えるが本体は木に寄生した小さな虫。その虫が木の全身に神経を張り巡らせて操っているんだ。」


「小さな虫だから気配が探りにくいペンね。どうするポサ?」


「見た目はただの木だから一見するとどれがウッドマンなのか、攻撃されるまで分からねぇ。とりあえず今はあの一体を倒す事に集中しよう。」


 右手から炎球(ファイヤボール)を出す。幸い、俺のスキルはこういったやつに強い。木を燃やせるからな。


「あ、火を見て逃げ出したポサ!」


「逃がすかよ!炎球(ファイヤボール)!」


 狙いを定めた炎球(ファイヤボール)は正確にウッドマンの寄生した木のド真ん中を貫いた。直後に木が倒れる。


「確かこいつに死んだフリが出来るような知能は無かったはずだ。倒せたみたいだな。」


「そう言えば、この木、あんまり燃えないペンね。どうしてポサ?」


「あー、この木は多分水分をたくさん含んでいるんだ。だから燃えにくいんだよ。」


 炎球(ファイヤボール)で穿った所から少し火がチロチロ出ているが、山火事になるような大きな火ではない。


 そう言えば、アンデッド領でも湿気がヤバくてあんまり木が燃えなかった記憶がある。もしかしたらこの世界で残っている森はどこも山火事が起こりにくいような環境にあるんじゃないか?砂漠とかに森が無いのも、木が生えないって理由もあるかもしれないけど火が広がりやすいから山火事で全焼したんじゃないのかな。


 そう考えたら個人が簡単に火を出せる異世界って怖いな。まぁ地球でもライターさえあれば誰でも火は出せるか。


「ヒラター、早く来るペンよー。もうちょっと行ったら川があるポサ。」


「お、そうだな。今いくよー。」


 ウッドマンの本体は小さな虫だから、討伐しても金にはならないんだよなぁ。生きたまま取り出せれば話は別なんだけど。


 俺はペン太の後を追った。つうかいつの間にあんな遠くに行ったんだ、ペン太のやつ。


 急いでペン太の所に行く。森の中だと見失いやすいから注意しないと。


「む、今水の音が聞こえたポサ!」


「まじか。って事は川はすぐそこか。」


 一時間近く馬車に乗っていたら喉も渇いてきた。

 川の水って飲めるんだっけ?まぁ多分大丈夫でしょ。


「早く行くポサ。水が飲みたいポサ。」


 ペン太は水が生命線だからなぁ。まぁ俺もだけど。それにしても、今度から水筒買ってから来ようかな。銀貨九枚も貰えるし、水筒くらい買えるはず。


 少し歩くと、突然木がなくなって川が現れた。


「川岸には木が生えてないな。なんでだろ。」


 川の水は一見すると綺麗だ。だけど本当に飲めるのかは怪しいぞ、これ。


「辺りに気配は............む、あるポサ。ちょっと向こうに気配が二つポサ!」


 ペン太はそう言って川の右の方を指した。


「二つ?群れにしては小さいし、ペアで行動するモンスターか?」


「分からないポサ。とりあえず、行ってみるポサ?」


「ちょっと様子を見てみようぜ。」


 足音を発てないようにゆっくり進む。ちょうど川が曲がっていたので先は見えない。ゆっくり、ゆっくり進む。そして木の影から少し顔を出して、見た。





 男だ。


 黒髪で、背は俺と同じくらい。いや、それどころか年齢も俺と同じくらいじゃないか。どうしてあんな子供が?いや俺も肉体は子供だけどよ。もしかして冒険者か?


 それに、黒髪の男の傍にいるのは............岩か?

 手足の生えた岩のモンスターだ。あいつ、モンスターテイマーか?


 ということはやはり間違いない。あいつは冒険者。しかもモンスターテイマーだ。この世界に来て俺以外のモンスターテイマーを見るのは初めてだぜ。あいつもモンスターギルドに所属してるのかな?だけど姿を見るのは初めてだ。そう言えば、ルーンさん、黒髪の男が来たとかなんとか言ってたような、言ってなかったような?


 とにかく、こんだけ共通点があるんだからきっと仲良くなれるに違いないぜ!

 話し掛けてみるか。




「よ、よう。お前もモンスターテイマーなのか?」


 その黒髪の男は即座に腰の鞘から剣を抜いて俺の方を睨み付けた。

 しかし俺が冒険者で、頭にペン太を乗せている姿を見ると臨戦態勢を解いた。


「そっちこそ、モンスターテイマーか。俺以外のモンスターテイマーを見るのは初めてだ。」


「奇遇だな。俺もだぜ。」


 顔立ちは端正。イケメン、というよりは斜に構えた陰キャって感じだ。だが顔立ちは端正だ。イケメンじゃない。決してイケメンじゃあないんだが............端正だ。クソが。


「俺はちょっと依頼でこの森に来てるんだ。お前もか?」


「あぁ、そうなんだ。俺はまだDランクだから、依頼をたくさんこなさくちゃいけなくてね。」


 ランクまで俺と同じとは驚いたぜ。


「おっと、自己紹介を忘れていたな。俺の名前はコクザン・ムカイ。こっちは相棒のロックだ。」


 はい?

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