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真夜中の訪問者

 モンスターギルドに帰ってきた俺は自分を恥じていた。

 人を見た目だけで判断していたからだ。


「ってもあんな見た目で奴隷保護とか、普通分かんないですよねルーンさん。」


「ハッハー、ペジんとこ行ってきたなコイツ。まぁ言いたい事は分かるよ。」


「でもSランク五位ってのは本当っぽいペンね。強者のオーラを感じれたポサ。」


 俺そんなの感じなかったんだが?


「確かにペジはSランク五位だよ。剣伯爵みたいに純粋な剣技じゃなくて勝つ為の剣技だから、ヒラタっちも教わって損はないと思うよ。」


「そのペジヨチウって人からも出たんですけど、誰ですか剣伯爵って。」


 ルーンさんは唸りながら頭を悩ませた。

 上手く言葉が浮かばないようだ。


「分かんないけど............多分一番強い剣士、かな?とにかく剣技の数が多彩なの。ヒラタっちも剣技使えるんでしょ?剣伯爵も同じで、すごい多くの剣技を使うの。」


 最強の剣士か。でも十位なんだよね。つまり単純に剣を極めるより、色んな魔法とかスキルとか使えた方が強いって事なんだろうなぁ。


「俺もペン太も、考えてみたらわりと出来ることが少ないって気付いたんですよ。モンスターギルドには色んなモンスターに関する本があって、そのお陰で知識は何とかなりそうですけど技術面が心配です。」


「アッハー、まぁそうだよね。ヒラタっちが読書好きで良かったよ。普通あんなに読み漁る人っていないから。」


 いや俺読書嫌いなんだよな。でも生きる為に知っとかなきゃならないんだから、嫌でも読むよ。


「魔力の使い方って、例えばこういう風に出したとして、それからどう使うんですか?操るくらいなら出来るんですけど。」


 と手から炎球(ファイヤボール)を出してルーンさんに見せる。


「手から炎の球を出せるスキルだよね、名前の通り。となると中級魔法か。低級魔法より応用は効かないけど、魔力を込めれば爆発するし、もっと感覚を繊細に出来れば複数同時に出す事も出来るようになるだろうね。そうなったら、今よりかなり戦いやすくなると思うよ。」


 そうか。だったらまずは複数の炎球(ファイヤボール)を使えるようになろう。でも感覚を繊細にってどうやるんだ?


「ま、ヒラタっちはまだまだ成長期だから、死なない程度にのんびり鍛練していったら良いよ。ヒラタっちは大丈夫だと思うけど、大半の冒険者は登録してから一ヶ月以内に死ぬ事が多いんだ。十分、気を付けてね。」


「大丈夫ですよ。油断しませんし、いざとなったらこいつを囮にして逃げますから。」


「ペン!?ペンの扱いが雑だっポサ!」


 ヒラタはこの後少しルーンさんと話した後、図書館に潜った。そしてルーンさんの退勤時間がやって来たので、ルーンさんはヒラタにそれを伝えに来た。


「という訳でここ閉めるからヒラタっちは宿に帰ってね。」


「宿かぁ。今あるお金で泊まれる所、探さなきゃなあ。」


「え、もうほとんどの宿、受付終わってるよ?」


「え?」


 もしかして俺、宿無し?

 いやいやいやいや、だって王都に来るの初めてだし昨日は冒険者ギルドに泊まったし、仕方ないよ仕方ない。


「あのー、昨日は冒険者ギルドに泊まったんですけどモンスターギルドに泊まる事って出来ますかね?」


 ルーンさんはクソデカ溜め息の後に、仕方なさそうな顔でOKしてくれた。


「ただし、布団とかないから床ないし椅子で寝てね。図書館の扉は閉めていくよ。たまに本盗もうとするやつがいるからね。まぁヒラタっちがいるなら今夜は安心かもしれないけどね。」


 あはは、治安良さそうで案外悪いな王都。


 こうしてルーンさんが自宅に帰り、ヒラタとペン太はモンスターギルドを壊さないようにスキルの練習をして、眠りに着いた。


 □■□■


 世界が夜に包まれ、木々も眠り、空では光帯が蠢く時刻になった頃、モンスターギルドに侵入する者がいた。

 全身に黒を纏ったかのような出で立ちで、音もなくヒラタの側に近寄ったその()()()は、鼻提灯を出して眠りこけているヒラタとペン太をじっと見つめた。


 あまりこんな真似はしたくなかったのだけれど、仕方ないのよ。朝起きたら貴方は絶望に打ちひしがれる事になるかもしれない。でも王都はそういう所なのよ。


 その女の子はヒラタの持つ高価な鞘には目もくれず、近くに置かれていた木刀を手に取った。鞘に収める習慣がないのか、はたまた常に手に持っているのが癖になっているのか、それは分からないがヒラタは鞘を購入してから一度も木刀を鞘に収めなかった。

 女の子は繊細な手付きで木刀を撫で、窓から差し込む光帯の光にかざして輝きを確認した。


「う、うーん............。」


 まさにその時だった。ヒラタが呻いた。悪い夢でも見ているのか、机が固くて睡眠が浅いのか、とにかく女の子は目覚められたらまずい事を理解した。もし目撃されてしまったら彼を殺さなくてはならなくなる。女の子はそれが嫌だった。依頼以外で命を奪いたくないと思っているからだ。

 しかしヒラタはそんな事など意にも介さず、何やら夢を見ているようだった。


「ムニャムニャ、おおい、それは俺のだぞぉ............。」


 夢を見ているのだったら眠りは比較的浅いわね。とりあえず早く逃げましょうか。


 そう考えた女の子はすぐにモンスターギルドから出ていこうとした。

 しかし次の瞬間、聞いた途端に鳥肌が立つような寝言が聞こえた。


「ムニャ、俺はVRゲームは苦手なんだよぉ............。」


 時が止まったかのようだった。体が雷に撃たれたようだった。意識を一瞬失ったかとすら思った。女の子はそれほどの衝撃を受けた。


 VRゲーム!?

 嘘でしょう?まさかこの赤毛の子()転生者なの?

 ()()()()()()()なの?


 ヒラタの持つ木刀を一目見た時から目を付けていた、彼女は、どこにでもいる女の子と名乗った。名前なんてどうでも良かった。ただたまたま()()()がある場所の近くに彼が迷いこんで来たのが全ての始まりだった。


 転生したのは、私だけじゃなかったの?

 もしかしたら彼以外にも、転生者がいるの?


 疑問は温泉のように湧いた。今にでも彼を叩き起こして洗いざらい聞いてしまいたいと思った。しかしそれは出来ないと知っていた。


 迷いが生まれた。このまま彼からこれを奪って良いのか。彼が死んでしまったら?もしかしたら他に転生者はいないかもしれない、彼だけかもしれない、唯一の同胞かもしれない。可能性が脳内で渦を巻き、彼女の動きと思考を完全に止めた。


「じゃ、とりあえず動かないでくれる?」


 故に、気がつかなかった。本来なら人の気配には敏感な彼女でも、気がつかなかった。彼女の喉には鈍く艶めく刃が当てられている。


「出勤にしては少し早いと思うのだけれど?」


「アッハー、アタシがいつアタシのギルドに来ようと勝手でしょ?」


「貴方が貴方のギルドに来るのは自由。だけど貴方が私に手を出すという事の意味を、貴方なら分かるでしょう?」


 数秒、緊張が辺りを包んだ。


 先に根負けしたのはどこにでもいる女の子だった。

 ルーンの手を払いのけ、木刀を手放し、扉から韋駄天のように出ていってしまった。


「ハァ............全く、貴重品の管理くらいちゃんとしなさいよって。」


 ルーンは木刀を拾うとヒラタの鞘に納めた。


「アタシが忘れ物をしてなかったら大惨事だったんだから、感謝するんだぞ?」


 ルーンは眠っているヒラタの横を通りすぎ、カウンターの下から何枚か紙を取り出した。それから帰ろうと入り口に足を向けたが、思い直してもう仕事を始める事にした。ヒラタが心配だったのもあるが、一人でギルドを回しているので仕事が溜まっているというのもあった。


 ■□■□


「ん、んん。起きた!」


「起きたポサ!」


「「グッモーニーン!」ポサ。」


「朝から元気だねー。」


 元気いっぱいなヒラタ。肉体は若く健康で、元々活動的な人間だったので朝にはめっぽう強い。ペン太もそんなヒラタに影響を受けていた。


「あれ?ルーンさん元気ないですね。」


「仕事が溜まってたから早く来たの。それでヒラタっちさ、聞きたい事があるんだけど。」


「アッハイなんですか?」


「その鞘を買った店ってどこにある?」


 ルーンに言われてヒラタは初めて自分の木刀が鞘に収まっている事に気付いた。


「あれ、おかしいな。」


 そう言ってヒラタは鞘から木刀を引き抜こうとするが、抜けない。


「あ、確かに名前言わなきゃ抜けないんだっけ。木刀!」


 しかし抜けない。

 ヒラタは困惑した。


「木刀じゃなくてもっとちゃんとした名前があるんじゃない?」


「あ、そうだった。ウッドソード!」


 戦さんが言っていたふざけた名前、ウッドソード。直訳すれば木剣。つまりは木刀である。見た目も当然、木刀である。


 スルリと鞘から抜けたウッドソード(笑)は傷一つなく、太陽モドキの光を浴びて輝いていた。


「やっぱりまだ鞘は慣れないなぁ。あっ、鞘を買った所でしたよね。確か、どこにもない店って名前でしたよ。案内しましょうか?」


 ヒラタの提案に腰を上げたルーン。


「そうだね。ちょっとギルド空けて行ってみようか。」


 ヒラタはモンスターギルドから出ていき、その後からルーンさんが出てきた。ルーンさんはギルドに鍵を掛けた。ペン太も当然一緒だ。


「こっちです。」


 ヒラタは自慢できるほどもない記憶力でスイスイと店に向かった。ペン太が結構道を覚えていたので、数分で到着した。


「そうそう、ここの路地裏を左に曲がった所のすぐにあるんですよ。」


「ちょ、ちょっと待ってヒラタっち。アタシの記憶が正しければそこは............。」


 ヒラタは左に曲がろうとした。しかし眼前にあるのは壁だけだった。どこにもない店に行く道がなくなっていたのだ。周囲を探してみたが、やはりなかった。記憶違いでもなかった。王都中を探してみたがそんな店はなかった。後からルーンさんから聞いた話によると、王都に登録されている店にそんな名前の店はないという。まさに()()()()()()()なのだ。


「まぁ、実際そういうスキルを持った人間もいるらしいよ。むしろヒラタっちが五体満足で帰ってきた事の方がアタシにとっては驚きだよ。」

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