裏社会ギルドへ
それから俺とペン太は図書館の本を読み漁った。
俺は主にモンスターの種類や分類法、あとその他もろもろを読み、ペン太はモンスターから学ぶ効率の良い魔力の使い方やテイムモンスターのトレーニング方法、それから『ブレスの吐き方講座』なんてのも読んでいた。
「ふいー。一旦休憩にするか。腹減ったぜ。」
「そうペンねー。昼過ぎからずっと本を読んでいたペンし、流石に休憩するポサ。」
持っていた本を棚に戻して、図書館から出る。
階段を上がると、適当に空いてる席に座る。
と言ってもヒラタ達以外に誰もいないので空いてる席しかないのだが。
「うへぇ、もうこんなに外が暗い。今頃冒険者ギルドは冒険者でごった返しているぞ。」
改めて辺りを見回す。誰もいない。
つうかルーンさんどこ行ったよ。
「さっきの本の理論に基づけば、ペンはもっと強いブレスが吐けるはずだっポサ。魔力の扱い方とかはヒラタにも応用できるペンから、今度練習したいポサ。」
「つっても俺のスキルって炎球だろ?それに魔力効率もクソもあるのか?」
そもそもこの世界魔力切れの概念ないし。
「あるポサ。単純に魔力切れが起こりにくくなるポサ。」
「えっ、魔力切れってあるの?」
「ヒラタには黙っていたペンけど、多分今までヒラタが魔力切れを起こさなかったのは魔石を食べていたからだと思うポサ。」
「マジかよ。てことは魔石食べなくなったら魔力切れ起こるってことか?」
「まぁ、起こると思うポサ。魔力切れになると倦怠感が全身を襲い、さらに魔法魔術の類いが使えなくなるポサ。」
戦闘中にもしも魔力切れ、なんてことになったらヤバイな。
気をつけなきゃ。
「それから、魔力を扱っていくとだんだん使い方が上手くなってくるっポサ。ヒラタもすぐに複数の炎球を自由自在に操れるようになるペンよ。」
炎球ももっと強化できるってことだな。確かに、複数の炎球を当てられるようになれたら戦闘でも相当有利になるだろうなぁ。
「しっかし、前のワームみたいに俺もペン太も歯が立たないやつが出てきたら、正直どうしようもないよな。」
「そこはヒラタが頑張って欲しいポサ。ペンは口から吹雪出せて爪で攻撃が出来るだけペンから。」
うーん、でも俺も炎の球出せて高速で斬れて姿消せるだけだからなぁ。
新しい技の習得とかいるのかなぁ。
「まぁ、そこはゆくゆく考えていくか。俺も他の魔法、使えるようになりたいし。」
「あ、それは無理ポサ。」
「ええええ!?なんで!?」
「魔法は一人一つまでしか使えないポサ。ヒラタの場合、炎球だけしか使えないポサ。魔術ならいくらでも習得できるペンけど。」
魔法と魔術って違うのか。
となると一つの魔法を極めるか、魔術をたくさん習得するか。
やっぱリヴァイアさんみたいに一つの魔法を極めたいよなぁ。
「リヴァイアさんに教わるのも良いかもなぁ。貴族らしいし顔も知れてるから探せばすぐに見つかりそうだし。」
「まぁ、そうペンね。リヴァイアペンなら師匠として適任ポサ。でもそう考えるとグッペンやもぐゾンペンってやけに教えるの上手かったペンね。」
教え方が上手いのはもぐゾンさんだけだろ............。グッさんはひたすら木に向かって走らせてくるぞ............。
「へぇ、グッペンともぐゾンペンって誰?」
「うわ、いたんですかルーンさん。」
王都の人って音もなく近付いてくるのが癖なのか?
まぁどこにでもいる女の子よりはびっくりしないけど............ってやっぱり名前長げぇよアイツ!
「グッペンともぐゾンペンは、えーと、ペンとヒラタの師匠だペン!森に住んでるポサ。」
ま、まぁ嘘はついてないな。嘘は。
「へぇ、ヒラタっちの実力は知らないけど、一応修行は積んでるんだね。良かった。」
まぁ、今の俺って十代後半の姿だからなぁ。
心配されるんだろうなぁ。
「とりあえず、なんか食べるものない?」
「あっ、いいよー。適当に作るから。」
多分、冒険者ギルドじゃこうは行かないんだろうな。
ガラガラだからこそ一人の客に対して柔軟に対応出来るのだろう。
しかし本当に俺達以外誰もいないのおかしいだろ。過疎ってるなぁ。
「で、話の続きだけど、例えば俺の魔法やスキルを強化するとしてどんなことが出来ると思う?やっぱり炎球の複数同時操作とかかな。」
「それもあるペンね。あとは単純に大きくしたりとかしても威力が上がりそうポサ。あとは居合やマチブセも改良できそうペンね。」
「マチブセに関してはあれ、透明化したまま動けるようになれば強いんだけどなぁ。まぁ衣類装着物も透明化できる分ありがたいと思うべきか。」
「逆にペンのフリーズンは、範囲を狭めて威力を上げる、威力を下げて範囲を広めるくらいならできるペンけど、それ以上は思い付かないポサ。もっと考えてみるポサ。」
まぁ、そうだな。
こういうのは大切だからな。
自分を知ることが何とかの第一歩って言うしな。
でもやっぱり本読んで考えるより体動かした方が良いな。明日からちゃんと冒険者しようっと。
「つうかさ、ペン太ってどれくらいダメージ負ったら死ぬの?」
「だいたい人間と同じくらいだペンよ。」
ヤバそうになったらエンブレム化すれば良いんだよな。でもタイミングが分からないと意味ないからなぁ。人間と一緒って言われてもなぁ。あとで図書館にそういう本が無いか探しにいくかぁ。
「というわけでおまたせー。」
「おおっ、って昼に食ったやつと同じじゃん。」
「モンスターギルド公認料理だもん。」
果たして肉に味を付けただけのものが料理と言えるのだろうか。
まぁ美味いことには美味いから良いけど。
ムシャムシャしながら、そういえばとルーンさんに聞いてみる。
「普通の冒険者の戦闘能力ってどれくらいなんですか?冒険者が戦ってるところを見たことがなくって。」
「まぁ、本当に個人差があるからね。冒険者とは名ばかりのお坊ちゃんもいるし。」
ほへぇ。でも冒険者って生活に困ってる腕っぷしの強いやつがなる職業だと思ってたんだけどなぁ。でも確かにリヴァイアさんって金に困ってる訳じゃなさそうだったな。
「あの、十分暮らせるくらいの金を持ってるのに、わざわざ命の危険を犯してまで冒険者になる人っているじゃないですか。暮らせるだけの金があるなら働かなくて良いと思うんですよ。」
「............誰かの為に命を賭ける、そこに理由なんてないよ。ただ王都の人は良い人が多いだけなんだ。」
良い人が多い、か。ルーンさんは知らないのかもしれない。確かにリヴァイアさんとか、良い人もいるんだろうけど裏社会ギルドのやつらみたいに違法に奴隷を使っていたりするやつらもいるってことを。言った方が良いのだろうか?ルーンさんはモンスターギルドの受付嬢だし、裏社会ギルドと亀裂が入るのはまずいかもしれない。あぁ、でも真実を伝えたい。
「あの、ルーンさんって裏社会ギルドのこと知ってますか?」
「一応。仕事仲間も何人かいるし繋がりはあるよ。」
「実は............あの裏社会ギルドは............。」
「気になるんなら行ってくれば良いよ。ここからわりと近いし、優しい人ばっかだから挨拶にでも行ったら可愛がってもらえると思うよ。」
やっぱり知らないのかぁ。仕方ない。リベンジといこうか。さっきは逃げちゃったけど、やっぱり奴隷なんて間違っているし、リヴァイアさんだってその事で頭を悩ませていたんだ。王都でそんな卑劣な事をしているなんて許せない。
ペン太の方を向くと静かに頷いている。急いで肉を胃に流し込み、代金を机に置いて立ち上がる。
「じゃあ、ちょっと行ってきます。すぐ帰ってくるから図書館開けといて。」
「アタシは勤務時間終わったらここ閉めて帰るから早めにね。」
ルーンさんの言葉を背に、俺はモンスターギルドを出た。
「さて、行くか。」
「やっぱりヒラタは裏社会ギルドのやつらが許せないポサ?」
「あぁ。」
日本では全ての人間に基本的人権が与えられる。でも異世界の奴隷は人権なんてないかのようにぞんざいに扱われる。俺はそれが同じ人間として許せないんだ。
大通りに出るとお祭りかと思うほどたくさんの人でごった返していた。昼間とは比べ物にならない人口密度。裏社会ギルドは裏路地から入れるのでここから近いが、これじゃあ十メートル進むのも一苦労だ。
「ペン太ー、はぐれるなよー。」
「ペンは子供じゃないポサ。あ、ドラゴンステーキが売ってるペンよ!」
ドドドドドラゴンステーキだとぅ!
デモンナイトの村で食ったあの気絶するほど美味いステーキか!
ドラゴンってどこにでも生息してるって言ってたし、やっぱ王都でも売ってるんだな。く、く、食いてぇ!さっき肉食ったけど!
「あー、でも値段は金貨一枚だってポサ。」
終わった、フィニッシュ、エンド、がめおーばー。
金がねぇよぉ。いや散財したの俺だけどさぁ。でも鞘ってどうせ後々必要になるしかっこ良かったんだから仕方ないだろぉ。
ペン太が飛んでいる辺りまで人を押し退けて行ってみると、デカイステーキを特大の炎で焼いて香辛料らしきものを掛けている店があった。それは誰がどう見てもドラゴンステーキだった。
ああ食いたい。
涎を垂らしながら見ていると、腰の辺りを押された。
見ると絹のように滑らかで金色の服を着た小さな子供が、金貨を持ってドラゴンステーキを頼んでいた。
ああ、金持ちの子供は食えるのに俺は食えない............この世は非常に非情なり。がくり。
ん?というかあの子供、どっかで見たぞ。あの顔、既視感がある。うーん、でもどこで見たんだろう、いまいち思い出せない............あ。
それを理解した時、ヒラタは驚きのあまり硬直した。
いや、正確には理解できないから硬直しているのだ。
目の前の少女が誰なのか、それは理解できたヒラタだったが、なぜその少女が目の前にいるのかは理解できていない。
なぜなら目の前の少女は裏社会ギルドで奴隷の如く扱われていた少女だったからだ。
纏う服や雰囲気は、もはや一変していた。だからヒラタも気付かなかったのだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってちょっと待って。」
「あ、昼間の泣いてたお兄ちゃんだ。」
泣いてねぇよ!
いや覚えてくれてるなら話が早いしありがたい。
「え、裏社会ギルドのやつらに捕まったはずじゃ............?誰かに助けてもらったの?」
ドラゴンステーキを受け取りながら少女はニコニコして答えた。
「裏社会ギルドの人に用事があるの?だったら連れてってあげるよ!」
そう言うなり子供特有の素早さで人混みの中をすいすい進んでいく。
と、とりあえず着いていくしかないか。
ヒラタはペン太に少女の場所を教えてもらいながら、何とか追い掛けた。そして裏路地に入った辺りから人がいなくなり、ようやくヒラタも少女に追い付くことができた。
少女は気にする様子もなく、裏社会ギルドへの扉を躊躇いもなく開けた。すると中の樽に座っていた男が立ち上がり、こちらに向かってきた。
「もう帰ってきたのか............ってオイオイ、そいつぁ昼間ペジさんが連れてたやつじゃねぇかぁ?」
こ、こいつは!裏王都から逃げてきた少女を捕まえたやつじゃないか!
「お前達は一体この少女に何を............?」
「何をって............オイオイ、決まってんだろ。体洗って服着替えさせて美味いもん食わせて保護して、たあっぷりかわいがってやってるに決まってるだろうが。」
「な、なななな何だってえ!」
この男、いや、裏社会ギルドのやつは全員顔は怖いし趣味は悪いし背は高いし目付きは悪いし、賊みたいだ。なのにやってることは奴隷の保護だって?
「ど、どうしてそんなことを?」
「俺ぁなぁ、元々奴隷だったんだよ。でもペジさんが、兄貴が救ってくれたんだ。ここのやつは大半がそうだ。皆ペジさんに助けられて、恩を返したいと思ってるから働いてる。それだけだ。」
そ、そうだったのか。柄が悪いからてっきり奴隷を酷使する悪人とばかり思ってた。
「柄が悪りいのは舐められないようにするためだよ。いかにも聖職者ですってやつが奴隷の保護なんかしてたら他所から舐められるんだよ。だから実力も資金も時間もあって、何より人がいる裏社会ギルドが奴隷保護やってんだ。他のやつらが誰もやらないからってのもあるがな。」
こいつ、いつの間にか後ろにいやがった。
ペジヨチウ、昼間見た猫背の柄の悪い男だ。兄貴って言われてるくらいだから、多分裏社会ギルドのギルドマスターなんだろうな。
「お前も結構鍛えてるようだが、裏社会ギルドの基準には達していない。俺ならお前をもっと強くしてやれるぜ?」
「俺はもうモンスターギルドに入ってるんだ。」
「まぁ、そうだろうな。でもルーンのやつはどうせ何も教えられないだろ。何か困った事があったら何時でも聞きに来いよ。」
この人、良い人なのか悪い人なのかわりと微妙なラインだぞ。
「ハッ、まぁまだ疑ってるようならこいつの様子もたまに見に来ると良いだろ。奴隷案件で聞きたいことがあったらリヴァイアって貴族が詳しいからよ、今度紹介してやるよ。」
と少女の頭をワシワシしながら言った。
「リヴァイアさんとはもう知り合いなんだ。」
「こいつぁ驚いた。今、一番熱い男と知り合いとは運が良いやつだな。リヴァイアは剣伯爵には一歩及ばずギルド全体ランキングでは十一位だが、貴族と冒険者を両立させている凄いやつだ。今にSランクになるぞ。」
ギルド全体ランキング?なんだそれ?
「知らないのか?冒険者ギルドではCランクからランキング順でランクが付けられるんだ。上位五千人はBランク、上位百人はAランク、上位十人はSランクだ。ランキングは依頼をこなすと上がっていくが、Sランクからは実力で勝ってないと上がれない。試合をしてどっちが強いか決めるんだ。そのリヴァイアって貴族はSランク十位の剣伯爵に勝ってないからずっとAランクなんだよ。」
まじか。わりとそういうの細かく決めてあるんだな。でもそう考えるとリヴァイアさんってこの世界で相当強い部類に入るんだなぁ。
「まぁ、とにかくお前が心配しなくても王都は今日も平和って事だよ。王都にはSランク冒険者が何人もいる。裏王都の連中が攻めてきても、魔王三体分くらいの余剰戦力がある。」
あ、これ後々裏王都と魔王が一緒に攻めてくるフラグだ。
「そういや名前を聞いてなかったな。良けりゃあ聞かせてくれよ。」
「俺の名前はヒラタ・イヨウ。こいつはペン太だ。」
「ペン太だポサ。」
「そうか。覚えたぞ。俺はペジヨチウ。Sランク五位のペジヨチウだ。ヒラタも何かあったら俺を頼れよ。」




