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どこにもない店

 受付嬢さん達の声と共に入ってきたのは老若男女様々な冒険者達であった。

 屈強な肉体を持つ戦士は巨大な兎を担いでおり、英国の紳士のような老人はキラキラした石をポケットから取り出した。鎧を着た若い女性は大きく膨らんだ袋を持っており、ヒラタよりも若い少年は特殊な形の刀を得意気にクルクル回した。


「やべぇ、思っていた以上に冒険者してる。」


 顔に大きな傷跡が残る男性が、血塗れの女性を抱えて飛び込んでくる。

 そしてどこから現れたのか、医者のような服装の人達がその人を奥の方まで案内していった。


 冒険者って言うくらいだし、やっぱり怪我したりするんだな。

 そのまま死んじゃう人とかもいるんだろうな。


 やはり何かしら怪我をしている人達が次々と入ってくる光景を目にして、ヒラタは少し恐怖を覚えた。自分より強そうな人達がこんなに怪我しているのだ。自分では助からないかもしれない。そんな考えが頭をよぎったが、それはすぐに否定した。何故ならヒラタは一人ではないからだ。ペン太という頼れる相棒がいる。いざという時もそうでない時も頼りになる。それが相棒だ。ヒラタはモンスターテイマーであって良かったと心の底から思った。


 と同時にヒラタは気付いた。

 入ってくる冒険者にモンスターテイマーらしき人がいないのだ。

 一人もいないのだ。


 そんなにモンスターテイマーって不人気なのかと思案するヒラタだがそうではない。ぶっちゃけモンスターと組まなくても人間同士でパーティーが組める為モンスターテイマーが少ないのだ。本来モンスターテイマーとは、ヒラタのような人望もカリスマもないような陰なる者が一人では戦えない為にモンスターの力を借りたのが始まり。つまりモンスターテイマーというのは、自分はコミュ障ですと言っているような物である。


「おい、セザンス、これ頼む。」


「セザンス、こっちもあるぞ。」


「おーい、魔石あったよセザンス。」


「依頼の薬草ってこれですかセザンスさん?」


 Oh、セザンスめちゃくちゃ忙しそう。

 そりゃそうか。この人数を一人で捌くんだからな。


 俺はギルドの端の席に座り、このギルドのギルマスは相当バカなんだろうと思った。普通、こんな二十人だか三十人だか、なんならどんどん増えている冒険者の素材の買い取りとか納品とかの作業を一人に任せるなんてありえない。受付嬢さんは何人かで分担してるのに。おいおい、パワハラかぁ?



「ああああああああ!忙しいザンス忙しいザンス!」


 セザンスは腕を動かして次々とやってくる素材を分け、納品書に判子を押し、代金を取り出す。この作業に加え値段の計算から質問まで全てこなす。

 忙しいのは当然である。ブラック企業もビックリだ。



「ああああ!忙しい!ザン!ス!」


 次の瞬間ヒラタは信じられない光景を見た。

 セザンスの背中から二本の腕が生えてきたのである!


「ザン!ス!ザン!ス!ザン!ス!」


 また二本、また二本と生えてきてとうとう背中から計八本の腕が生えている事になった。その腕は伸縮しながら次々と仕事を片付けて行く。



「うお!出たぞ、セザンスの多腕モード!」


「今日は八本か!予想が外れたぜ。」


 は?は?多腕モード?なにそれ恒例行事なの?


 ヒラタが目を白黒させていると、一人の男が近づいてくる。


「驚いているな。セザンスの多腕モードを見るのは初めてか?」


 コミュ障ヒラタ!突然話し掛けられさらにビックリ!

 しかし冷静!


「あ、はい。実はさっき登録したばっかりで。」


 俺が答えると冒険者らしき人は声を大にして言った。


「さっき!?ならまだ洗礼を受けていないんだな。」


 俺には分かる。


 洗礼というのは良くラノベで見る、主人公が冒険者になった直後に絡んでくるあの柄の悪い冒険者とか、そういうやつに絡まれるあれ。主人公がいかに規格外かを示す良い手法である。


 しかし俺に規格外な力なんてないよ?


 あれ?これヤバイのでは?



 そんな俺の心情も知らず、周りには次々と柄の悪そうな冒険者が薄ら笑いを浮かべながらやってくる。おそらくさっきの会話が聞こえていたのだろう。くっ、新米冒険者はカモって事かよ!


「おおい!嬢ちゃん、アレ、頼む。」


「もう!新人さんに毎回ソレするの止めて貰えませんか?」


 わぁ、何されるんだろぅ。


「大丈夫、大丈夫!金は俺が出すからよ!ちゃっちゃと持ってきてくれ。」


 嬢ちゃんと呼ばれた人は押し切られ、奥へと消えていった。

 多分、冒険者ギルドって依頼の受注や素材の買い取りだけじゃなくて飯とかも食えるんだろう。さっき厨房見えたし。


 嬢ちゃんと呼ばれた人はすぐに戻ってきた。

 手には............グラスジョッキ?


 男はそれを受け取ると、俺の前にドン!と置いた。

 中の透明な液体がなみなみと揺れている。


「さぁ、飲め。」


 いや、なんだよこれ。

 匂いからして............!


 まさか!酒か!


「ヒヒヒ、気付いたようだなぁ!」


 別の男が言う。


「その酒はなぁ、アルコール度数()()()()()()()の代物だぁ!」


「ヒヒヒ、飲み干せよ。一気に。」



 ま、まさか!




 アルコール度数五十パーセントだって!!





 そ、そ、そんなの............。





 俺はグラスジョッキを震える手で掴む。

 周りの冒険者達はさらに増えて、皆笑いながらこちらを見ている。

 遠くからは呆れた表情をした受付嬢さんや他の冒険者が見ている。


 俺はグラスジョッキを傾け、恐る恐る口に近付ける。

 ペン太の心配した目が見える。




 アルコール度数五十パーセントなんて、そんなの............そ、そんなの............。













 ほぼ水じゃないか!




 俺は飲み干す。

 名も知らぬ酒は異世界に来て一度も酒を飲んでいない俺の喉を潤す。

 確かに美味い。だが、酒を語るにはあまりに薄い。



 周りの冒険者達は俺が一気飲みした事に驚いている。

 いや、ペン太も遠巻きに見ていた冒険者も、受付嬢さんも目を見開いている。


 だが俺は言うぜ。





「薄い!!!!」







 結局その日は朝まで飲み続けた。

 俺の一言によってギルド内は一気に盛り上がった。

 調子に乗った冒険者は次々に俺に酒を飲ませた。

 ペン太も盛り上がって冒険者に便乗した。

 そして他の冷静な冒険者や受付嬢さんからはお前もか、といった表情で見られた。


 俺は車酔いはするが酒には強い。

 地球にいた時はポーランド産のアルコール度数九十六パーセントの酒を取り寄せて飲んでいた。

 俺は普通の人より酒に強いんだよう!


 ■□■□


 ギルドの窓から日が差し、俺は目を覚ます。


 辺りを見回すとそこは冒険者ギルド。

 一面散らかして寝たはずなのだが、なぜか綺麗になっている。


 首を傾げていると、ちょっと離れた所で丸くなっているペン太が見えた。


 立ち上がる。


「いよし!二日酔いは無し!朝だぞペン太!起きろ!」


「ペンンン、気分が悪いペン。」


 ペン太はゴロゴロと転がりながら外に出た。

 くれぐれも吐くなよー。


「朝じゃなくて昼ですけどね。おはようございます。」


 えっ、もう昼?


 外を見ると............あー確かに昼だわ。

 時計とかないけど太陽モドキがめっちゃ高い所にあるから昼だわ。


 とすると俺は今の今まで寝ていたのか。


「アレ?他の冒険者達は?」


 受付嬢さんに聞く。


「とっくの昔に仕事に行きましたよ。」


 oh、マジかよ。

 さっすが冒険者だな。


 つうかこの世界にもおはようの概念がある事に驚いた。

 そういや意識して無かったけど使ってこなかったな。


「ペン太ー、ペン太ー。」


「ぺ、ペン。楽になったペン。それにしてもヒラタはなんで車には酔って酒には酔わないペン。」


 そんな事言われたってなぁ。

 そーゆー体質だからかなぁ?


「とりあえず、どうしよう?金はあるし、冒険者にもなった。依頼を受けても良いけどまずは家でも買うか?」


「いやー、とりあえずご飯が食べたいペン。」


 あー、確かに。

 なんか無いかな?冒険者ギルド。


「あのー、なんか食べられたりしませんか?」


「ま、まぁ一応出来ると思いますよ。」


 なら良いじゃないか。

 とりあえず何でも良いよな~。


「ですが、モンスター用のご飯は用意していません。」


 あー、そうなんだ。

 アレ?でも昨日めちゃくちゃ食ってたような?


「モンスター用のご飯ってなんだ?」


「多分ペン太みたいなモンスターの体に合った料理の事だペン。人間とモンスターでは体の構造が違うから、人間用に作られたやつは体に良くないポサ。」


 マジかよ。


「お前が酔ったのって人間の酒飲んだからじゃね?」


「ぺ、ペヘヘ。」


「いや否定しねぇのかよ!」


 つうかモンスターの言葉ってテイマーにしか分からないんだったら、俺一人で会話してるように見えちゃうじゃん!


「と、とりあえずモンスターギルドに行くぞ!」


 ペン太を連れて冒険者ギルドを出た。

 後ろで受付嬢さんが深々とお辞儀をしているのが分かった。




「さて、モンスターギルドに行くか。あっちだよな?」


「そうだペン。」


 ペン太に聞くとはっきりとした返事が返ってきた。

 でもペン太って方向音痴っぽい所があるからなぁ。


「とりあえず俺に着いてきてくれ。絶対一人でどっか行くなよ?」


 俺が言うと、ペン太はキョトンとした表情で着いてきた。


「えっーと、確かまずこの道を行くんだったよな。」


「残念、正解は左よ。」


「え?そうだったっけってうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあだペン!」


 心臓が飛び出るかと思ったじゃねぇか。

 神出鬼没って言葉がまさに当てはまる。

 彼女の名は............そう!


「どこにでもいる女の子!また会ったな!」


「ええ、また会ったわね。」


 しかし今度は何の用だろう?まさかまた親切に案内してくれるのか?


「いやー、実はモンスターギルドは一回行ったことあるから多分自力で行けるので案内はいらないんじゃないかなぁと思います。」


「あら、わざわざ親切をしに来た訳ではないのよ。あなたは新米の冒険者。なら行く所があるんじゃないのかしら?」


 行く所?どこだろうか?

 見当もつかぬ。


「武器屋よ。私の友人がやっている武器屋があるの。普段の値段はちょっと高いけど質は保証するわ。」


 そういうと彼女は俺達に着いてくるよう促した。

 案内して貰った恩もあるし、断りづらいよなぁと思った俺はペン太とアイコンタクトを取り、着いていくことにした。



 □■□■


「ここよ。」


 案内された武器屋は質素な木造で、かなり汚れていた。

 裏路地の中にあるし日当たりも悪い。これ大丈夫なのか?


 名前は............どこにもない店?

 あるじゃん、ちゃんと。


「見た目はボロくても、商品はどれも逸品よ。さぁ、入って。」


 促されるまま入ると、木造特有の臭いが鼻をつく。


「............らっしゃい。」


 奥から無愛想な顔をしたおっさんが、無愛想な声で出てきた。


「今日は新米の冒険者を連れてきたの。何か、彼に合いそうな物はないかしら?」


 武器屋、と言われて着いてきたが武器だけでなく、何に使うのか分からないような水晶や鞘なんかまである。そして、短刀から鞘の細部まで豪華で優雅な装飾がされており、一つ一つが宝物のようにも見えた。


「............そういうことか。............坊主、剣は使うか?」


「えっ、あっ、はい。使います。」


 俺がそう言うと、おっさんは店内を見渡し、ある剣に近付きそれを持ってきた。


「............これは切れ味の落ちない剣だ。............それに軽く、壊れにくい。............一番の特徴は、魔力を込めるとそれをエネルギーとして発射できる。............遠距離攻撃の手段がない剣士にはこれが良い。」


 鈍くシルバーに光るその剣には、細かな装飾がびっしり。

 見ただけで圧倒されてしまう。


「あー、でも俺魔法が使えるので遠距離攻撃は出来るんですよねー。」


 そう言うとおっさんはその剣を元の場所に戻し、次はその近くにあった短剣を見せてきた。


「............これは刃先に毒を持つ鉱物を使った短剣だ。............一番の特徴は、魔力を込めると短い距離を瞬間移動できる。............瞬間移動という難しい魔術を編み込んだ最新作だ。」


 それは毒々しい紫と緑色をした短剣で、持ち手は生物の皮を張り付けてあるようであった。それが何の生物の皮かは分からないが。


「うーん、なんか違うなぁ。瞬間移動ではないですけど、スキルでそれに近いことができるので。」


 そう言うとおっさんはその剣を元の場所に戻す。


「戦い方に不便はあんまり感じてないんです。剣を買ったとしてもそれを持ち運ぶ鞘がないのでそれが欲しいですね。」


 おっさんは目を光らせ、棚の上から一本の鞘を取り出した。

 それは紫を基調に所々金の装飾が施されたもので、とても上品な雰囲気を漂わせていた。と同時にそれ自体があまりに高級なので、剣の方がみすぼらしく見えてしまうのではないかとも思った。


「............これは紐などを使わず、腰に添えるだけで張り付き、取りたいと思った時に取れる鞘だ。............一番の特徴は、空間魔術を応用し、内部に何本でも剣を仕舞えるようになっている。............取り出したい剣の名前を言うと、それが出てくるようになっている。」


 つまり無限に仕舞える鞘ってことか。

 良い。剣を新調したら、木刀は捨てなきゃいけないかなぁと思っていたけど、これなら捨てなくても良いな。


「欲しい。いくら?」


 一万金貨という大金を持つ俺は、まるで芸術品のような輝きを持つそれを前にしても怖じけることなく言い放った。


「............金貨、一万枚。」


 ふぁーw


 マジかよ。ぴったりだぞ。

 いやぁしかしこれを逃したら同じ物に出会えるか分からない。


 今後の生活が苦しくなることを考えても............いやでも一万金貨あれば一生遊んで暮らせ............待てよ?そういや俺、一万金貨でどれだけのことが出来るのか知らないぞ。もしかしたら家立てたりハーレム要因集めたりしてたらすぐ無くなるかもしれないぞ。


 一万金貨あれば食費には困らないだろうけどなぁ。

 うーん。つうかこの一万金貨、所得税とか大丈夫なんだろうな。

 もしこの一万金貨で冒険者をせず遊んで暮らしても、元の世界に戻る手掛かりは掴めないだろうし、それにリヴァイアさんが言うには俺以外の転生者もいるらしいし、そう考えたら未来への投資と考えて買って、冒険者としての実力を上げて、他の転生者と合流した時舐められないようにした方が良いんじゃないのか?


「よし、買います。」


「マジかよっペン。」


 後ろでペン太がドン引いているが、んなぁこたぁ知ったこっちゃあない。

 金は使うためにあるのだよ。


「随分思い切りが良いのね。疑う様で悪いけれどお金はあるのかしら?」


 俺はポーチから、先ほど貰った銀行口座の番号を出す。


「この番号にちょうど金貨一万枚ある。冒険者ギルドから引き出してくれ。小切手とかで行けない?」


「............構わんよ。」


 特に書く物を持ってなかったので、おっさんに貸してもらってちゃちゃっと小切手を書いた。形式とか知らないけど、俺のサインが入ってればとりあえず良いだろ。


「............ただし、もし金が引き落とせないようなら商品は返してもらうぞ。」


 すごい眼圧で睨まれた。怖い。


「ところで、あなたもうお金ないんじゃない?生活に困るようなら不要品を高値で買うわよ。そのあなたの武器も、そろそろ鉄製の物にした方が良いんじゃないかしら。」


 うーむ、気持ちはありがたいけどなぁ。この木刀をそんな高値で買ってもらっても申し訳なくなるというか............。


「この木刀は記念に持っておきます。この鞘なら何本でも入るので!」


「............そう。」


 鞘を受け取り、腰に添えるとピタリと張り付く。

 これなら戦闘の邪魔にもならないよな。


「それじゃあ、買い物も終わったので帰ります。行くぞペン太。」


 お辞儀をしながらペン太と共に店を出た。

 いやぁ、結構良い買い物をしたなぁ。わりと便利だぞこれ。


 □■□■


「............()()が目的か。」


「えぇ、そうよ。入手には失敗したけど、寝ている所を奪うわよ。」


「............殺して奪えば良いだろうに。」


「あら、物騒ね。」

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