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そしてこの場所へ

「ポサー、ここでもう最後のギルドペンよ。ヒラタ。」



 確かに。色んなギルドを回ったが、なんだかんだでどれも良いと思うギルドが無かった。それにもう夕方だ。そろそろ宿も探しておかなきゃ。



「にしてもこれがギルドなのか?」



 目の前にあるボロい木造の建物は酒場といった方がまだ似合っている。手入れもされていないようだし、所々削れている。



「そうペン。道行くおばさんに聞いたポサ。」



 道行くおばさんね。



「えっーと、これはモ............モ......なんだこれ?看板の文字が掠れていて読めねぇ。こんなんじゃ宣伝にならないだろ。」



 文句を言っても仕方ないのだろうが、愚痴の一つでもこぼしたくなる。

 さっきまでが最悪だったからな。



「とりあえず入ってみるペン。まぁここもロクな所じゃなさそうポサが。」



 扉をノック。

 応答無し。


 よし行くか。



「おじゃましまーす。あれ?」



 中に入ってみると、内装は冒険者ギルドに良く似ていた。

 テーブルがあり、掲示板があり、カウンターがある。その奥には酒らしき物が並んでいる。しかし目についたのはそこではない。


 人がいないのだ。まったく。



「誰も......いないポサ。」



 冒険者ギルドですら何人かいたぞ。

 皆仕事中かな?

 いや受付嬢すらいないんだが。



 中は掃除が行き届いていないようで、ホコリだらけクモの巣だらけ。誰か掃除しろよ。



 そんで後、気になることと言えば、テーブルとか壁とか床が妙に傷だらけになっている事である。冒険者ギルドの方が綺麗だったぞ。



 つうかここは何のギルドなんだよ。



「おーい、誰かいますかー?」



 奥に向かって声を掛けてみるが、返事は............あ、誰か来た。


 恐らくその人は受付嬢なのだろう。事実、冒険者ギルドの受付嬢と色ちがいの制服を着ている。



「あ、もしかしたらもしかして、ギルド加入申請に来たって感じ?」



 その人は紫色のトンガリ帽子を被り、紫と緑のローブを着ている女性で、言葉に特有の訛りがあった。



「あ、はい。冒険者ギルドに行ったら推薦状が必要だって言われたので。」



 彼女は俺の言葉を聞くと慣れた手付きで、カウンターの奥から一枚の用紙を取り出した。



「あー、じゃまず名前、教えて。」


「ヒラタです。イヨウ・ヒラタです。」


「はいはいヒラタっちねー。なんか使えるスキルとかある?」



 ちょ。ヒラタっちって変なあだ名付けるなよ。



炎球(ファイアボール)っていう魔法が使えます。後は剣技が二つくらい。」



 モンスターから教わったって言ったら、なんだか揉めそうだしそれは隠しておこうかな。



「オッケー。じゃ、そっちのモンスター君は?」



 サラサラと用紙に情報を記入していくと、次はペン太に質問を投げ掛けた。



「ペン!?ペンはペン太だペン。」



 いや言っても分かんないだろ。



「オッケー。ペン太っちね。よしよし。」



 いや分かんのかよ。



 さらっと流したけどテイムされたモンスターの言葉は、どういう原理かモンスターテイマーにしか分からないらしいのだが、この人はなぜかペン太の言葉を理解している。さてはテイマーだな。



「オッケーオッケー。これで書類は出来たからっと、はいこれ推薦状。これ持っていけば大丈夫だから。」



 おー仕事が早い。



「そういえば、このギルド全然人いないペンけど、何かあったのかポサ。」



 そう、そうなのだ。

 異世界のギルドでは主に受付嬢と他の冒険者との絡みが重要なイベントのはず。俺が地球で読んだラノベは大体そうだった。しかしこのギルド、受付嬢はいても他の冒険者が一人も見当たらないのである。



「あー、それはね。単純に人気ないの。このギルド。」



 えぇ。ギルドってそんな物なのかよ。



「今だって事務作業やってるの全部私だし。最近も黒髪の少年が一人来たくらいだから、まぁ面白いほど過疎ってるよね。ウケる。」



 人、来ることは来るんだ。



「あ、そういや紹介がまだだったね。」



 そう言うと、受付嬢さんはその場でクルリと回って右手を突きだし決めポーズ。



「アタシの名前はシャルル・ド・キャルル・ド・ルルル・ルーン!気軽にルーンちゃんって呼んでね。」



 やけに長い名前を噛むことなくビシッっと紹介した彼女、ルーンは続けてこう言った。



「ようこそ、モンスターギルドへ。」







 は?モンスターギルド?



 ここが?




「えっ、マジで?」


「いや、何に疑問持ったか分かんないしw」



 いや、だってよ。

 俺、異世界に来て初めてこうしようってちゃんと目標立てたのはグッさんの所で本読んだ時だよ?モンスターギルドに行こうって、初めてちゃんとした目標立てたんだよ。



 改めて周りを見渡す。



 寂れた様子で、今では人気は全く無いようだが、よく見れば床や壁の傷はモンスターによって付けられたようにも見える。


 昔はたくさんの人がいて、楽しくやっていたのかもしれない。

 何より建物がそれを物語っている。



「モンスターギルド............ついに来たのか。」



 最後の最後に辿り着いたのがこのモンスターギルド。

 俺が、モンスターテイマーが所属すべきギルド。




「うん、そうだよな。行くかペン太。」


「ペン!?何がそうなんだペン!?教えるポサ!?」



 俺はようやくここに来た。

 あの本を読んだ日から、ペン太が生まれた日から、目指してきた場所にようやく辿り着いた。




 ルーンさんから受け取った推薦状を握りしめ、俺はモンスターギルドから出た。




 よし、後は冒険者ギルドに所属するだけだ。


 ■□■□


「と、言うわけで推薦状貰ってきました。」



 ルーンさんから貰った推薦状をそのまま渡す。


 何が書いてあるのかとか全く確認してないけど、このままで良かったんだろうか?



「はい、はい。はい、大丈夫ですよ。これであなたは正式に冒険者です。冒険者についての説明が必要ですか?」



 冒険者って言っても何をすれば良いのか分からないし、とりあえず聞いておこうかな。



「はい。聞きます。」


「では、説明致します。」



 そう言うと彼女はカウンターの下の方から一枚の紙を取り出した。



「ではこちらをご覧下さい。」



 そこにはなにやら絵と文字が書いてある。



「まず冒険者という職業についての説明です。冒険者は人々の脅威となるモンスターを討伐し、人々の安全を確保するとともに、いずれ来るとされている魔王との戦いに向けて日々鍛錬するという仕事です。」



 モンスターを倒す。

 大体想像してた通りの職業のようだ。

 モンスターを討伐するって事はリヴァイアさんが言っていた賊とかはまた別の人達が処理するのかな?



「モンスターを倒して、そのモンスターから採れる物で生計を立てているって事ですよね。」


「はい。モンスターの討伐の他にも薬草採取や王都掃除や商人護衛、その他諸々を行っていますよ。」



 やっぱりあるんだなぁ。そういうクエスト。



「いずれ来る魔王ってのは何ですか?」


「はい。昔、勇者によって悪しき魔王が討伐された事はご存知ですね?その魔王は自らが死ぬと同時にその力の断片を世界中にばらまきました。魔王というのはそれに適応し、人に敵対する生物の総称です。その魔王が、いずれ王都に来るとの噂がここ最近絶えず流れているのです。その為、最近の冒険者はそれに備えて依頼を受けない傾向にあります。こちらとしては、依頼が溜まりに溜まって困っているのですが、こればかりは仕方ありません。」



 噂かぁ。


 でもリヴァイアさんも『文字』について言っていたし、多分ほとんどの冒険者がその噂を信じてるんだろうなぁ。てことは何かしら信じられる根拠があるって事なんだろう。



「大変ですねえ。」


「本当に。今ではendの開発も進んでいませんし。」



 ん?なんて?



「え、end?なんですか、それは?」



 始めて聞いた。リヴァイアさんもそんな単語は口にしていなかったはずだ。だけど受付嬢さんの反応を見るに、知っていて当たり前の知識のようだ。



「endはendですよ。終わりを告げる壁-end-はこの世界の端にある超巨大な神製モンスターですよ。圧倒的な硬度と再生力を持っていて、これを壊せるのは神しかいないと言われているくらいですよ。昔はendの開発も冒険者の仕事でしたが、やはり例の噂のせいであまり冒険者の方が集まらないんですよ。」



 ははぁ、なるほど。

 この世界はその巨大な壁のモンスターによって閉ざされてるって感じか。



「大変なんですね。冒険者って。」


「他人事みたいに言わないで下さい。あなたも今日から冒険者、明日からジャンジャン依頼をこなして貰いますよ!今日の所は適当に宿でも紹介しますので、そこでお休みしてはいかがでしょうか?」



 宿かぁ。デモンナイトの宿よりも良い部屋なのかな?

 いや、あんまり期待は出来そうにないな。

 さっき金貨崩しちゃって銀貨九枚しか持ってないし、それでなんとかしようと思ったらなぁ。あー、金が無いよ。



 あ、そういや確か骨の魔石ってあったよな。



 ポーチを開けると傷一つ付いていない綺麗な骨の魔石が。どうやら砕けたりしていなかったようだ。もしかしたら売れるかもしれない。



「あのー、実は売りたい物があるんですけど............。」


「それならあちらの担当になります。」



 受付嬢さんは冒険者ギルドの端の方にいる緑の髪をした中性的な人を指差した。



「あ、はい。」



 なんだか市役所みたいだな、なんて思う。

 あぁ、地球が懐かしい。



「あのー、売りたい物があるのですが。」



 俺はさっき受付嬢さんが指差した人に話し掛けた。

 この人がそういう素材とかを買い取る人のようだ。



「おや、あなたは初めて見たザンスね。新米冒険者ザンスね?」



 新米冒険者。確かにそうだ。

 俺は新米冒険者だな。うんうん、異世界。



「はい。それで売りたい物が。」


「まぁまぁ落ち着くザンス。新米なら自己紹介をしなくちゃいけないザンス。ザンスの名前はセザンスザンス。主に納品や素材の買い取りなんかの担当をしているザンス。」



 セザンスさん?いや普通セザンヌじゃね?

 いやここは異世界だし、別に良いのか。



「とりあえずこれを。」



 俺はポーチから骨の魔石を取り出しカウンターに置いた。

 異世界テンプレならここで、なななんだこれはぁぁぁーーー!ってなるところだな。デモンナイトの宝物になってたんだし骨の魔石って相当貴重なはず。もしかしたらめちゃめちゃ高く売れて、そのお金でハーレムが............グヘへ。



「ザンス。金貨一万枚ザンスね。」


「なぁんだ、たったの金貨一万枚いいいいいいいいいいいいいいい!?」



 さらっと言ったけどめちゃめちゃな額じゃねぇかよ!?

 いやもっと驚けよ!何キョトンとした顔してんだよセザンスよぉ!?



「きき金貨一万枚って相当凄いんじゃないかっペン?」


「ヤバいよ。異世界チーレムへの道が見えたよ。」



 だって一万枚だぞ!一万枚!それってリヴァイアサンがくれたあの金貨が一万枚あるってことだぞ!銀貨に直したら十万枚!銅貨に直したら百万枚!どっひゃー、ヤバいよ!一生遊んで暮らせるだろこれ!いやいや、俺は地球に帰ると決めたのだ。とりあえずこれで装備一式を買い揃えて、宿を......いや家を買おう!そんでもってギルドに依頼だそう!募集要項、美人!俺を好いてくれる人!それでハーレム要員を集めて結成異世界ハーレムだワッショイ!



「俺は............報われた............。」



「とりあえずこれは売るって事で良いザンスね。さすがにこの量を手渡しは出来ないザンスから、こっちで銀行口座作って振り込んでおくザンス。あ、これは銀行口座の番号ザンス。事前に渡しとくザンスよ。」



 あれ?銀行口座の番号って事前に申請できるっけ?つうかこの人仕事早くね?まぁ良いや、幸せぇ。



 俺は番号を受け取りポーチの中に突っ込む。

 まさか金貨一万枚なんて............もう一生金には困らん。



「さて、他に売るような物は............あれ?大丈夫ザンスか?おーい、おーいザンス。」


「ヒラタ、ヒラタ!意識ちゃんとあるペンか!?ちょっと倒れそうペンよ!あっ。」



 フラリと目眩がして俺は倒れた。




 人はあまりにも幸せになりすぎると倒れる。

 この現象をハッピーハート症候群と言う。

 要は心臓発作である。怖いね。





「ってハッ!俺は一体?」



 気が付くと俺は冒険者ギルドの床に倒れていた。別に酒を飲んでいた訳でもないのに............なぜだ?



「はいはーい、そろそろ多くの冒険者が帰ってくる時間になるザンスよー。そこ邪魔になるから退くザンスー。」



 あ、もうそんな時間かよ。



 冒険者ギルドの窓から外を見るとさっきよりも暗くなっていた。

 異世界なので時間帯は分からないが、恐らく日本の春の七時くらい。



「とりあえず座っとくか、ペン太。」


「そうペンね。ヒラタはさっき倒れたペンから、大人しくしておくペンよ。」



 そうだよなぁ。つってもなんで倒れたのか分かんないからなぁ。

 あれ、なんだったんだろうな。







 不意に何か聞こえた。

 固い石の道を踏み鳴らすようなたくさんの足音だ。

 それは徐々に冒険者ギルドに近付いてくるようだった。



「さぁ!皆さん、忙しくなりますよ!頑張りましょー!」



 さっき話をしていた受付嬢さんが元気に号令を掛ける。すると他の受付嬢さんはえいえいおーと返答する。この受付嬢さんはリーダー的な存在なのかな?


 そうこうしている間にも、足音は冒険者ギルドのすぐそこまで近付いて来て――――





 冒険者ギルドの扉が開けられた。




「「「「「お帰りなさいませー!」」」」」

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