裏社会ギルドへ
「ここポサ。」
ペン太の案内によるとここが入り口の一つらしい。
どうやら繋がっている裏路地をそのままギルドとして使っているっぽいな。
そのため、入り口の扉は壁にめり込むように取り付けられている。
また、かなり汚れていて所々傷んでいる。
普段から相当乱暴に扱っているんじゃないだろうか。
「よし、行くとするか。」
勇気を持って扉を開け放った。
扉の先は先ほど見た踊り子倶楽部よりも酷い光景だった。
一言で言えば雰囲気が悪い。
昼であるにも関わらず、めちゃめちゃ酒臭い。
辺りにはゴミが散乱し、行き交う人の服装もよろしくない。
路地裏をそのまま使っているので暗く、ネオンのような光を放つ看板が良く目立つ。
「ていうか昼なのに人多くない?」
異様だ。冒険者ギルドでは人はあまりいなかった。
それを俺は、昼は仕事に出ているから人が少ないのだろうと勝手に予想していた。
しかし裏社会ギルドには昼なのにたくさん人がいる。
「そりゃそうだ。俺のギルドの活動時間は夜だからな。」
だ、誰だ!?いつから後ろにいたんだ!?
「んあ?なんだ、怪しい者じゃねえ。俺は冒険者のペジヨチウってんだ。名前くらいは知ってっだろ。」
冒険者?この山賊の親玉みたいなやつがか?
金のアクセサリーに黒い革製の服、ジーンズみたいな青色のズボン。ボサボサにして手入れをしていないであろう髪、そして猫背。
ただの不審者だろこいつ。
「お。お前テイマーなのか。」
ペン太を捕まえてそんなことを言っている。
バタバタと抵抗するペン太だが、相当な力で掴まれているらしく、逃げられない。
「なぁ、さっきこのギルドを俺のギルドって言わなかったか?」
ペン太を助ける為に話を変える。
「そうだ。俺はこの裏社会ギルドのギルドマスターだぞ。」
そうなのか。
だったらちょうど良い。
裏社会ギルドが裏で一体どんな悪事を働いているのか暴いてやるつもりだったが、ギルドマスターに直接聞いてやる。
「あ、だけどお前、裏社会ギルドには入んないほうがいいぞ。テイマーだろ?」
「なぁ、裏社会ギルドってどんなことをやっているんだ?」
男はペン太を離して頭を掻きながら首を傾げる。
「話が噛み合わねえなあ。まあいいや。そこで見てな。もうすぐ俺の部下が帰ってくるからよ。それを見りゃ大体分かるだろ。」
ペン太を頭の上に乗るように誘導し、男の言う通り待ってみることにした。何かあったらすぐに逃げれるように、辺りの構造を理解しておく。
見た所、ここから一番近い出口は俺がさっき入ってきた所のようだ。
居合を使えば一秒と掛からず出る事が出来るだろう。
しかし、このペジヨチウとかいう男は俺の後ろに音も無く立っていた。実力は全く分からない。もしもの時、俺を逃がしてくれるとは限らない。
「んあ、来たぞ。あれが俺の部下だ。」
男が視線を向けた先には、これまたガラの悪い男。
それと少女がいた。
その少女は手足に枷のような物を付けられており、それ以外にはボロ布を一枚羽織っているだけといった状態であった。
奴隷であると一目見て、そう思った。
それほどまでにみすぼらしく、その表情も暗かった。
目が死んでいた。この世界に希望を持っていなかった。
ガラの悪い、山賊みたいな男がそんな少女を連れていたら誰だってそう思うはずだ。
リヴァイアさんは、知らないのかもしれない。
王都でも奴隷が扱われているという事に。
「へへっ、見てくださいよ兄貴。」
「よくやったぞ、裏王都からこの王都へ逃げてくる奴隷は多いからなあ。たあっぷりかわいがってやれよなあ?」
見ると少女は震えていた。
ラノベなんかでは、大体主人公はこういうやつをフルボッコにして奴隷の少女をヒロインにするのかもしれない。そうでなければ、金で奴隷を買って優しくする............俺が見たラノベの多くがそうだった。
異世界にやってきて実際に目の前にすると、そんなラノベの中の主人公達がいかに狂っているのかが良く分かる。
冗談じゃない。人間だぞ。人間の少女だぞ。それが人権もクソッタレも無いような、まるで物みたいな扱いを受けているんだぞ。ふざけるなよ。何がヒロインだよ。何が奴隷に優しくだよ。自分と同じ人間がそういった扱いを受けていると知って、それでも自分の気に入った、自分のヒロインになりそうなやつだけを選んで解放する?そんなものはただの偽善だ。人間じゃない。金で買うなんてもっての他だ。リヴァイアさんがなぜ裏王都を嫌うのかが良く分かったよ。自分と同じ人間が、いや亜人だろうがなんだろうが、こんな目にあって良いわけないだろ。反吐が出る。吐き気を催す。許されない。非人道的だ。だから、だから、頼む。
目の前の少女を嫌悪しないでくれ。
目の前の少女はとても辛い経験をしてきた。
きっと決死の思いで王都に逃げて来たのだろう。
ヒラタはそれを分かっている。分かっているのだが、目の前の少女があまりにも不潔でみすぼらしくて憐れで、生理的に受け付けなかった。
ラノベの主人公は狂っている。
奴隷を見て、ちゃんとした服を着ればかわいくなるはずだ!なんて思える。
俺には無理だ。気持ちが悪い。見ていたくない。逃げてしまいたい。目の前の少女からも、この現実からも。
「んああ?なんだ、震えちまってるじゃねえかあ!かわいそうになあ!グハハハハハハ。」
「裏王都ではさんざん辛い思いをしたんだなぁ。かわいそうだなぁ、かわいそうだなぁ!ゲヒヒヒヒヒヒ。」
やめろ、やめてくれ。
嗤わないでくれ。
俺は何も救えないのか。俺はリヴァイアさんみたいにはなれないのか。今ここで奴隷の少女を助け出すことも出来ないのか。賊みたいなやつらをせめて一発殴ることも出来ないのか。目の前の少女を嫌悪しない事も出来ないのか。結局俺はニートのまま何も変わっていないのか。何も救えず、何もかもから逃げ出す弱いやつなのか。嫌だ、違う。逃げたくない。助けたい。逃げたくない。助けたい。逃げたくない。助けたい。逃げたくない。助けたい。
気が付けば、俺はそこから逃げていた。
■□■□
「オエ、エエエエエエエエ。ゴフ。」
「だ、大丈夫かっペン。」
いや、全く大丈夫じゃない。
頭の中であいつらの笑い声が無限に反響している。
脳にこびりついて離れない。
何より、あの場で何も出来ずに逃げた自分が本当に憎い。
俺には力がない。
リヴァイアさんみたいに強ければ、あいつらを倒してあの少女を解放できたかもしれない。リヴァイアさんみたいに行動力があれば、あれを期に奴隷の解放運動に参加したかもしれない。でも俺はリヴァイアさんじゃない。だから両方出来ない。
もっと強くなりたい。
俺の目的は元の世界に帰る事。
でもその途中で救えるものは救っていきたい。
俺は、強くなりたい。




