様々なギルドへ
「うめー!異世界の食べ物はやっぱり美味いなぁ。」
ペン太に案内してもらいながら、先ほど出店で銅貨三枚で買ったフライドポテトを食べていた。いや正確にはフライドポテトじゃなく、ジャガーイモ揚げという名前らしいのだが、どう考えてもじゃがいもである。
「そうそう、確かこっちにギルドがあったペン。後それ寄越せポサ。」
はいはい、と適当に答えながらペン太の口にフライドポテトを突っ込む。俺もフライドポテトを口に突っ込む。
いやー、アマーイモの石焼きと悩んだけどやっぱりフライドポテトで良かった良かった。ハウンドの肉は不味かったけど異世界はウマイ物が多いなぁ。魔石も美味しかったし。
ていうかジャガーイモはじゃがいもなんだからアマーイモはサツマイモだよな。道理で石焼きな訳だ。
それにしてもなんだか冒険者っぽい人あんまり居ないなぁ。なんでだろう。アレかな?昼だから働きに出てるのかな。そんな訳ないか。
む、あの店ポーション屋さんじゃ無いのか?あの並んでるやつは絶対そうだろう。うわぁ初めてみたよ。ポーション売ってるの。
理科の授業で使うようなガラスの容器に緑色の液体が入っており、ファンタジーな感じをこれでもかと醸し出しているポーションに気を取られていると、不意にペン太から声が掛かる。
「ここだペン。一番最初はここに入ってみるペン!」
ヒラタの目の前には冒険者ギルドより少し大きめなギルドで、こちらも木製であった。他の民家と違い、デカデカと看板が出ており壁にさまざまなチラシのような物が付いている。飾り気は無く、逆に近寄りやすい雰囲気だ。
しかしヒラタは看板を覗いて恐怖する。
戦士ギルド
彼の英雄は言った。筋肉は裏切らないと。
筋肉は君の一番近くにいる仲間であり、生涯離れる事の無い親友である。
筋肉は全ての戦闘の基礎となる!さぁ、我々と共に筋肉を付け、筋肉を鍛え、筋肉を喜ばせようではないか!叫べ!筋肉こそ至高!
我々と共に筋肉を崇めたいと願う者達よ。
戦士ギルドの扉を叩きたまえ。
【冒険者ギルドを除き、複数ギルドに所属する事は法律により禁止されてます】
き、筋肉............!
ヒラタはニートであった。また子供の頃からお金持ちでもあった。
その為、彼は努力をしたがらない。特に、『筋肉』や『運動』と言ったワードは生理的に無理なのである。
さて、そんなヒラタがこんな看板を見たからには即座に身を翻してこの場を離れたいと思うだろう。事実、ヒラタは後退りした。
「ペ、ペン太、このギルドは止めておこう。こんなところに入ったら、疲労して冒険どころじゃ無いぞ。」
若干声が震えている。
ペン太も看板を見て、自分がこのギルドに入ったビジョンを見たのか、ヒラタの言葉に同意。
急いでここからヒラタ達は離れようとする。
しかしそんなヒラタに後ろから声が掛かる。
「そこな少年!もしかして、筋肉に興味があるのかい?」
振り返るとそこにはタンクトップ姿で黒光りしている筋肉でポージングする明らかにヤバそうな人が!
「なななななんでもありません!ペン太行くぞ!」
ペン太を無理やり引っ張り全速力で逃げる。
道中、何人かにぶつかるも無視して細道に逃げ込む。
「はぁ、はぁ。ダメだ。あのギルドは多分あんな人が入るようなギルドで、俺が入るようなギルドじゃない。」
「ど、同感だペン。ヒラタがあんな風になったら嫌だペン。とりあえず、次のギルドに案内するポサ。」
そ、そうしてくれ。
「でも次のギルドは中央広場の向こう、つまりほぼ真反対な上に、真ん中の塔を通って行かないといけないペン。」
そ、そうなのか。なら仕方ない。
「とりあえず行くぞ!ペン太、案内してくれ!」
合点ポサと飛んで行くペン太を追いかけながらフライドポテトをもぐもぐする。
■□■□
「おいおいおいおい。あれ学校じゃねぇのか?学校あるの王都ぉ!?」
周りを見渡しながら階段を登っていると、紫色が目立つ学校のような建物が見えたので、絶賛興奮中のヒラタ。
確かに紫色ではあるがまず周りの建物より遥かに大きく、体育館っぽい物やグラウンドがあるので、あれは明らかに学校であろう。
異世界は想像以上に発展しているようだ。
「ペン。ヒラタヒラタ。着いたペンよ。」
どうやらこの白い建物らしい。意外と小さい?いや、俺には分かるぜ。これは奥行きがある建物だな!
「とりあえず失礼しようかな。............ん?なんだこれ?」
扉を叩こうとするとペタッっと貼られている貼り紙に目が止まる。
「ノックは三回、一度で出なければ留守です、だってよペン太。」
ははぁ、この貼り紙をした人間は相当几帳面な性格だな。
とりあえずトントントンと三回ノック。
すると少しして、扉が開く。
出てきたのは白衣を着た若者だった。
「あ、あー、すみません、ここはギルドで合ってますよね?俺、冒険者登録をしたくて来たんですよ。なんでも推薦状が必要らしくて。」
白衣の男は舐めるようにじろじろ見てきて、それから喉を鳴らすような低い声でこう言った。
「フン。見たところ魔術の才能は全くなさそうじゃないか。ここ、魔術師ギルドは遊びでやってる訳じゃ無いんだ。帰ってくれ。」
そう言って、バタンと扉を閉めてしまった。
なぁんだぁあんの野郎!ふざけるな!魔術の才能が無い?ふざけるな、ふざけるな!こちとら異世界に来てまだ一ヶ月ちょっとなんだよ!魔術?んなもん知るか!ていうか俺炎球使えるんですけど!才能あるんですけど!才能無いのはそっちなんじゃねぇのかこのクソ白衣!
「フー、フー、ぶん殴ってやろうかあんの野郎!」
「ヒラタヒラタ。落ち着くペン。ほら、ギルドはまだたくさんあるペン。次行くペン。次!」
許せねぇ。次会ったら覚えておけよ。
■□■□
ふぅ、だいぶ落ち着いたな。フライドポテトうまうま。
「ここだペンヒラタ!」
そう言ってペン太が翼を向けたのは、階段の下にあるクラブのような雰囲気の扉だった。ていうか照明ピンクなのは全年齢向けなんだろうな?
「なんか............怪しい、いや妖しくないか?」
隠されているかのように階段の下にあったし、雰囲気もなぁ。
「と、とにかく入ってみるペン!ペン?あれは何ポサ?」
おっと看板だ。なになに?倶楽部踊り子............ってこれダメなやつじゃねぇか!昼間っから来て良い所じゃねぇ!
「ギルドですらないじゃないか。」
「あっれぇ?ペン。聞いたら確かにギルドって言ってたペンけどポサ。」
いや人に聞いたのかよ。まぁともかくそれは良いとしよう。
「入ってみるしか無いのか。」
「ポサ。」
いやぁ、あんまり入りたく無いような雰囲気だけどなぁ。まぁ、さっきみたいないけすかねぇ野郎は出てこないと思うけど。
「とりあえず、失礼しまーす。誰か居ますか?」
扉を開けて、中を覗き、声を掛ける。
返事は無い。中はかなり質素で灰色な壁で囲まれている。
特に目立った物は............あ、奥に続く道みたいなやつがあるな。
「な、なんか怖いな。ペン太、行くぞ。」
「ペ、ペン。とりあえずヒラタの後ろから付いていくペン。」
こ、こいつ!俺を盾にしやがった......!
くそぅ、怖い。怖すぎる。炎球準備しとこうかな?いや街中だし物騒な事は起きないだろうし大丈夫か?
奥に続く道には照明等は無く真っ暗であった。暗闇をヒラタは一歩一歩を壁伝いに歩いていくと、すぐにまた扉みたいな物が見えてきた。ご丁寧にそこだけ入り口にあったピンクの照明と同じような光を放つ松明が置いてあった。ピンクに光る松明もなかなかな光景なのだが、ヒラタはやっぱりここって来ちゃいけない所だったんじゃ無いかと後悔のような気持ちで非現実的な光景に感動する事無く心臓ばくばくでドアノブを握ったのだった。
「ペ、ペン太。行くぞ!」
頷くペン太。勇気を出して、ドアノブを回してドアを開ききった!
そこは、彼にとってテレビでしか見たことの無い空間であった。
一昔前のドラマによくある、まさにダンスクラブといったような空間であったのだ。日本の元号がまだ昭和であった頃、バブルという好景気の時期があったらしいのだが、そのバブル期を取り扱ったドラマによく出てきたクラブと同じような雰囲気であった。
もちろん、今の日本にそんな文化は無い。
しかしピンクの光に包まれ、ミラーボールとかいうキラキラした球体が天井についており、ステージには古き良きDJなる者らしき人間が音楽を掛け、老若男女様々な人間が腰を振って踊っている。
なんなんだここは!?
あまりの光景に呆然。
異世界転移モノの小説は数あり、例えいつ異世界転移に巻き込まれても驚きはしないとヒラタは心に誓っていた。実際、異世界転移など存在しないと証明できた人間はいない。しかし、しかしだ。異世界にて失われたジャパニーズカルチャーが蘇っているなど誰が予想できただろうか?
ヒラタには予想できなかった。
当然、ペン太もヒラタ同様硬直している。
故に気付かなかった。忍び寄る影に。
「あらん、かわいいお客様ねん。」
ヒラタはその口調に驚き肩を震わせ、それを見たペン太も身をよじる。
声を掛けられた方をギギギと擬音が聞こえそうな動きで向いて、目を見開く。そこにはヒラタの想像通りの人物がいたからである。
けばけばしい衣装に身を包み、その体躯はヒラタより圧倒的に大きい。戦士ギルドに居ても違和感が無いほどの筋肉。極めつけの厚化粧。
オカマが居たのである。
オカマ............それがどのような人物を指すのかは言うまでも無い。もちろん、これは俗語であるが、目の前の人間を最も分かりやすく表現するにはこれ以上ない言葉である。
なぜ異世界にオカマが、というヒラタの思考は一秒も掛からずに解決してしまう。どの世界にも性別を変えたいと思う人間はいるという事で、魔法なんかで完全に性別を変える事は出来ないという事である。
と現実逃避をして見ても状況は変わらない。
ヒラタはオカマが苦手であった。何故ならオカマは男より強い肉体と女より強い精神を持っているというのが相場だからである。しかも地雷がどこにあるのか分からないというのも苦手意識を持っている理由の一つだ。
「え、あ、あー、ここギルドって聞いて来たんですけどどうやら間違いだったようですね。じゃ、俺らはこれで。」
早々にこの場を離れようとするヒラタにネカマは引き留めるように言った。
「あらん、ここはちゃんとしたギルドよん。倶楽部踊り子ってギルドなのよん。」
嘘やん。ギルドの判定大丈夫なのかよこれ。
「不思議そうな顔ねん。この王都にだって娯楽施設はあるのよん。その一つがここって訳。仕事ばかりじゃ、肩が凝るじゃないのお。」
た、確かに。戦士ギルドがスポーツジム。魔術師ギルドが多分研究所みたいな感じで、多分ここはダンススタジオ的な所なのか。異世界にだって確かに娯楽は必要だし、結構筋が通っていやがる。
「それにしても、ギルドを探してたのならん、多分冒険者になる為の推薦状が欲しいって所かしらん。」
いや意外と頭が切れるぞこのオカマ。
俺の疑問や目的を当てやがった!
「はい、そうなんですよ。俺、一応ペン太っていうモンスター連れているんですけど、大丈夫ですか?」
「あらん、それは良いじゃないのん。そうねぇ、あなたと気が合いそうな先輩を紹介してあげるわん。ジェシー!居るかしらぁ?」
先輩を紹介すると言って、控え室のような場所に向かって声を張り上げた。
まぁ、周りの人は普通の服装だし、全員がオカマって訳じゃ無いなら、倶楽部踊り子に所属してみるのも良いかもしれない。
うん、そうだそうだ。人を見た目で判断するのは良くないと言われているじゃないか。せっかく縁に恵まれたんだし、ここは冷静に。人を疑う事は良くないからね。
控え室のような場所からはドタドタとした音が聞こえ、ガチャリと扉が開き、オカマの人にジェシーと呼ばれた人物が。
「はぁい、御姉様。呼びましたぁ?」
オカマだ。
オカマであった。
倶楽部踊り子にはオカマしか居ないのかもしれないとヒラタは思った。偶然では済まされないのである。見るからに妖しい雰囲気の場所にオカマが二人。この場所はもしかして、もしかしたら、もしかすると、もしかするぞ!
「紹介するわん。こちらのチャーミングなガールはジェシーよん。あなたの先輩になる人ねん。」
「あら、御姉様。もしかしてこの子は新しく倶楽部に入る子かしら。そうだとしたら素晴らしいわ。こんなに若くして才能に恵まれてる訳ね。アタシ、興奮してきちゃったわ。」
ピンク色のフリフリした衣装を着たジェシーとか言うオカマに肩を掴まれてぐわんぐわんと揺すられる。
しかも今、才能とか言わなかった?怖い、俺怖いよ。逃げ出して無いだけ褒めてくれ。もう涙目だけど。
「心配しなくていいわん。あなたもちゃあんと、ジェシーみたいに素敵になれるからねん。」
心臓を掴まれたかのような感覚、滲み出る脂汗。ここに居てはいけないと、本能が叫んでいる。
俺は恐怖に包まれ、叫んだのかそれとも何も言わなかったのか分からないが、とにかくペン太を捕まえて無我夢中で逃げ出していた。
■□■□
「はぁ、はぁ、はぁ、ゴフェブフォ、まじで、はぁ、はぁ、身の危険を、ゴホ、感じたぞ、あれ。」
急いで逃げたのは良いが、フライドポテトが全部落ちてしまった。いや、身の安全より大切なフライドポテトは無いだろう。必要な犠牲だった。ありがとうフライドポテト。
フライドポテトに別れを告げて周りを見渡してみると、大通りを抜けて細道に入っていたようだ。太陽モドキの光が遮られて影になっている場所で休む。
「ペン太、次だ。次行こう。あのギルドは危険だ。まだギルドはあるはずだ。別のギルドにしよう。うん、そうしよう。」
もう俺はあのギルドでの出来事など何一つ覚えていない。覚えていないと言ったら覚えていないのだ。記憶を掘り返すな記憶を。
「そ、そうペンね。次のギルドに行くペン。でも次のギルドはかなり特殊ペンよ?」
そうなのか?でもどうしてペン太がそんな事を?
「次のギルドは裏社会ギルドって名前だったペン。」
ゲ。
「何故か色んな所に入り口があるペン。」
ゲゲ。
「後、上空からは入り口以外何も見えなかったペン。何か隠してるみたいだったポサ。」
ゲゲゲ。
怪しい、怪しすぎるぞ。裏社会ギルド。名前からして怪しい。何か隠してる感じも怪しい。ていうかリヴァイアさんの話では王都ってめっちゃクリーンな感じだったのに、一気に怪しくなったぞ。もしかして、市民や貴族を騙して裏王都とやらと繋がっているのかもしれない。奴隷とかも扱ってそうだな。怒るぞリヴァイアさん。
は!そうか。この怪しい裏社会ギルドを俺が今から解体して、そこから無双生活が始まるに違いない!異世界なんだし、きっとそうさ!そうだとしたら行くしか無いよな!
「よし、行くぞペン太!裏社会ギルドに潜入だぁ!」
「よく分からんペンけど、一番近くの入り口に行くペン。というか歩いてたらもうすぐ着くペンよ。」
フッフッフ。待ってろよ裏社会ギルド。正義の鉄槌、お急ぎ便が今行くぜ!




