目的
「こっちは終わったよ。爺や。」
「ペン!あんなサソリなんかペンにかかれば楽勝だペンよ!」
等とほざいているが、横のリヴァイアさんに助けてもらった事は火を見るより明らかだぞ。
「こちらも片付きました。坊っちゃん。」
爺やさんと一緒に馬車の所まで戻って行く。
どうやら、気がつかなかったけど馬車から離れてしまっていたようだ。
「ヒラタ君の戦闘はどうだった?」
「そうですね。ジャイアントサソリの尾の攻撃にも即座に対応しておりましたし、何者かから訓練を受けたものと思われます。転生者は転生直後は戦闘能力が皆無に等しいと言われております。あの剣技も自身で編み出した物では無いかと。」
いつの間にそんなに観察されていたんだ。
しかも正確な考察!
「ですが、戦闘中に体調を崩された様子でしたので、代わりに私がこのナギナタで斬って差し上げました。」
ナギナタ?薙刀か!
道理で見た事あると思ったら、あの武器、薙刀だったのか!
日本の武器............多分、勇者が伝えたんだろうな。
俺の世界のラノベじゃ、十中八九勇者は日本人だからな。
いや、そもそもラノベの文化が世界にあんまり浸透してないのか?
まぁ、いいや。
とりあえず、グッさんともぐゾンさんの事は隠しておいた方がいいんじゃ無いかと思う。もし、冒険者がグッさんともぐゾンさんの所に押し寄せたら、迷惑になるからな。うん、そうしよう。
「実は、バラー村に来る前にある方に戦い方を教わりまして。」
そう言うと爺やさん。
「やはりそうでしたか。その方はさぞ名のある方なのでしょうね。よく訓練されておられますので。」
と言った。
グッさん達に聞かせたいな。
「とりあえず、ここからどうしますか?リヴァイアさん。」
「そうだね。とりあえず、このジャイアントサソリ達を――――」
その時だった。
「シッ!」
声、音、風圧の順に知覚した。
声は爺やさんの物。
音は金属同士がぶつかったような音。
風圧は薙刀から発生した物だろう。
俺の背中に薙刀がある。
そう感じられる。
「な、なんだ?」
俺が咄嗟に後ろを振り向くと、そこには爺やさんの薙刀があるだけで、他に音を出すような物は無かった。
「.........?!少々、厄介でございますね。」
爺やさんは察したようだが、いまいち分からない。
「今のは............リザードスナイパーだね。姿は見えないが、紅の光線とここが砂漠である事を踏まえれば、ほぼ確定で良いだろう。」
リザードスナイパー?
またモンスターか。治安悪いなおい。
「あちらの方向から放たれた物と思われます。」
そう言って爺やさんは俺の向いている方向より、少し右よりに指を指す。
だが、見えない。
夜という事もあるが、まったく見えない。
「こんな時はペン太だ!」
「了解ポサ!」
ペン太は目が良いから見えるかもしれない。
まさに鷹の目。いやフクロウだけど。
「ムム、ムムムム。見えたペン。あれがリザードスナイパーだペンか?」
み、見えたのか。
「ペンの食べていた物にトカゲという生き物がいたペンけど、それを大きくした感じペンね。しかも群れだポサ。」
マジかよ。群れ。
しかも、トカゲのデカイ版。
砂漠ってあれか?巨大化の聖地か?
ん?今、ペン太、食べていた物にトカゲという生き物がいた、と言ったか?
ペン太にトカゲなんか食べさせた事無いぞ?
どういう事だ?
「奴らは知能が低い。とりあえず、ジャイアントサソリは放置して、馬車に籠ろう。姿が見えなくなれば去って行ったと勘違いする筈だ。」
このサソリ達、突然動き出したりとかしないよね?
「次の狙撃が来る前に、馬車に入りましょうか。」
爺やさんはそう言うとリザードスナイパーが居ると思われる方向を気にしながら、馬車の方へ誘導してくれた。
馬はそのままで良いのか?なんて疑問も覚えながら、そのまま馬車の方に入っていく。馬車は爺やさんとリヴァイアさん、俺とペン太が入ると少しだけ狭く感じるが、まぁ仕方ないだろう。
「少し狭くなったでしょう。すみません。」
「大丈夫だよ。爺や。ところでヒラタ君。」
リヴァイアさんは馬車に乗るなり、俺に話しかけてきた。
「突然起こしてしまって申し訳なかった。喉が渇いているだろう。」
そう言って、馬車の端に置いてあった袋から、水筒を取り出した。
「僕がいつも飲んでいるエルフ領産のハーブティーだよ。とりあえず、これでも飲んで朝になるまでのんびりしようじゃないか。」
おぉ!ハーブティー。
地球でもそんな贅沢な物はあんまり飲んだ事は無いぞ。
まさか異世界に来て飲む事ができるとは。
「頂きます。」
そう言って、リヴァイアさんからハーブティーの入った水筒を受け取り、蓋を開ける。鮮やかな色をした液体が見えた。
そのまま、水筒をぐいっと一思いに仰ぐと、口には爽やかな味が広がり、渇きも収まり、少しだけだが先ほどの戦闘の疲れも取れた気がした。
んぐっんぐっ。
「ぷはぁ、うまい!」
あ~、異世界に来てから魔石産の水しか飲んでなかったけど............いや普通にバラー村で水、貰ったか。
まぁとにかくうまかった。
王都にはもっとうまい物もあるんだろうな。
ん?ちょっと待て今、エルフ領って言った?
エルフ居るの?マジ?
「ペン!?ペンにも飲ませるポサ!」
俺は今エルフで忙しいんだ!
まぁエルフは後でいいや。
それにしても、しょうがないなぁペン太は。
「リヴァイアさん、ペン太にも飲ませて大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、大丈夫だとも。」
よかったなペン太。
リヴァイアさんに感謝するんだぞ。
「ほい、飲んで良いらしいぞペン太。」
そう言ってペン太に水筒を渡すと、器用に羽で水筒を持ち、嘴を飲み口に突っ込み、仰いだ。
ていうか、モンスターに水は必要なのか?
「さて、ヒラタ様。あなた様は王都へは冒険者になりに行かれるのですよね?」
爺やさんはそう聞いてくるが、別に冒険者になりに行くって訳ではない。
「そうですね。俺は転生者です。なので、この世界を冒険して、元の世界に戻る方法を探そうと思っています。やっぱり、故郷が恋しいですし。」
そこまで言って言葉を一旦区切る。
「その為に他の転生者とも会いたいと思っています。やっぱり、皆で帰りたいので。なのでこの世界の中心である王都に行こうと思っています。王都なら、他の転生者も居ると思いますので。」
納得したように爺やさんは頷く。
「この世界に残るという手もありますが?」
「爺や、あまりヒラタ君をいじめるんじゃあない。彼の考えを尊重しようじゃないか。」
「ふむ、そうですな。すみません、ヒラタ様。」
いえいえ。
「それにしても、この砂漠って物騒ですね。」
巨大化した生き物が襲ってくるなんて、怖すぎる。
ファンタジー代表のモンスター達は無駄に強化されてるし、異世界って怖いなぁ。
「まぁ、人間領ではあるが、物騒なのは否めないね。」
そう言って、付け加える。
「............僕はモンスターより人間の方が怖いけどね。」
悲しげな横顔が見える。
「この砂漠にいるんですか?人間。」
俺が見た限り、草木一本生えてない砂漠に人間が生きられるだろうか?
いや、オアシスくらいあるだろうから、オアシス付近でなら生きる事ができるか。
「ヒラタ君、転生者が元々いた世界は平和な世界だったと聞いているが。」
「え、はい。平和でしたよ。いや、まぁ人は死ぬことは死にますが、まぁこの世界よりは平和でした。」
突然どうしたんだろう。
俺がいた世界の事なんて聞いてきて。
「この世界は............平和じゃない。特に、人間同士の争いは絶えない物なんだ。心して聞いて欲しい。」
真剣な表情で言われ、圧されながらも頷く。
「砂漠には二つの都市がある。」
二つ。
砂漠に二つも。
つうか、王都以外にも都市あったんだな。
王都>都市>町>村
って感じかな?
町があるのかは知らないけど。
「一つは砂漠都市、シー。一つは湖上都市、オアシスだ。」
砂漠都市、シー。
湖上都市、オアシス。
なぜ砂漠なのに湖なんだ?
と思ったが、そうか。
オアシスを湖に例えているのか。
という事は湖上都市、オアシスというのは、でかいオアシスの上に立っている都市って事だな。
砂漠都市、シーは............よく分からない。
「ヒラタ君、これは僕、個人の主観が混じった物になるんだが、聞いて欲しい。」
はい。
「湖上都市、オアシスはその名の通り、オアシスの上に作られた都市だ。そして、これは――――」
ごくり。
「裏王都の支援を受けている。」
裏王都?
なにそれ?
「僕は、裏王都を許せない。」
リヴァイアさんの美しい顔がギリッと歪む。
それだけで、裏王都に相当な恨みを抱えている事が分かった。
「裏王都の支援を受けているオアシスは、武力でこの砂漠の水源を占領した。全てだ。全てだよ。」
全て?だったら砂漠都市、シーはどこから水を得ているんだよ。
「砂漠の水源を占領しているオアシスは繁栄した。王都や裏王都ほどではないがね。」
皮肉を込めた言い方だった。
「だから、シーは水を確保する術が無かった。王都から送られてくる水だけでは、民に十分な水を与えられなかった。」
リヴァイアさんと出会ってから、あまり時間は経っていない。
しかし、ここまで感情的な姿は初めて見た。
爺やさんは静かだ。
ペン太は呑気にハーブティーを飲んでいやがる。
「その結果、シーは砂漠の端まで都を移動させた。砂漠の外に出れば、オアシスを抑える事が出来なくなるが、砂漠の外へ水を取りに行くしか無くなったんだ。」
水を得るために、都を移動させたのか。
「これは最近の事だ。しかし、シーはそれでも満足に生活できる都市では無い。バラー村の方がよっぽど豊かだった。」
バラー村より、シーの方が貧しいのか。
「僕はねヒラタ君。オアシスも許せないが、裏王都も許せないんだ。必ず、裏王都は潰そうと思っている。」
か、過激。
「あの、裏王都ってなんですか?俺知らなくって。」
少し怖かったが、リヴァイアさんに聞いてみると、少し落ち着いたようだ。
「............裏王都は。」
ぽつぽつと話し出した。
「奴隷都市、犯罪都市とも呼ばれていて、王都では禁止されている商売や奴隷制度を取り入れた、この世界最大の都だよ。」
奴隷。
この世界最大の都?
王都よりも、でかいって事かよ。
「間違っても行きたいなんて思わない方がいい。裏王都でやっていけるのはほんの一握りさ。その一握りになるには犯罪を犯さなくてはならない。マトモに生きては行けないよ。」
ごくり
「裏王都で............やっていけなかった奴はどうなるんですか?」
リヴァイアさんは目を瞑って答えた。
「スラム街で果てるか、奴隷になるか、はたまた魔法の実験台になるか。」
「奴隷には、まだ幼い子供とかもいるんですよね。」
リヴァイアさんは目を瞑ったまま答えた。
「そうだよ。」
そして言葉を付け加える。
「極悪非道の最悪都市。それが裏王都だ。」
なんでそんな都市が野放しにされているんだ。
異世界だからで納得できないぞ。俺は善良な市民だからな。
「王都はどうしてそんな。」
言葉が詰まった。
「王都は.............王都と裏王都がぶつかればただでは済まない。大戦争だ。過去の大戦を繰り返す事になる。モンスターもいる。魔王もいる。戦争中に攻めてこられたら、共倒れだ。」
た、確かに。
モンスターは賢い。
ここは異世界だ。
やっぱりそれを考慮しなければならないのか。
「冒険者の質は王都の方が良い。ギルドマスターも王都側だ。金で裏王都側に付く冒険者の数もたかが知れているだろう。」
そ、そうなんですね。
「俺も裏王都は許せません。苦しんでいる人がいるなら。」
俺がそう言うとリヴァイアさんは苦笑した。
「君の世界でも苦しんでいる人はいるだろう。君は君の目で見た物を信じれば良い。」
そう言って、俺の頭をポンポンとした。
そういえば俺、身長縮んでるからなぁ。
髪の毛も赤いし。
「はは。リヴァイアさん、俺は中身はおっさんですよ?」
いやおっさんじゃねえ。
二十九だし、おっさんじゃないね。
まだ若い。若いったら若い。
「フフ、そうだったね。君は――――」
視界が反転した。
「一体、今度はなんだ!」
そう全身に衝撃を受けながら叫んだ。
もはや慣れたよ。突然何かが起こるのは。
「落ち着き下さいヒラタ様。馬車が横倒しになっただけです。」
あ~なるほど。馬車が横倒しに!
ってダメじゃねぇか!
「ペン!外になんかいるペン!」
またモンスターか。
夜は治安が悪い!
「ヒラタ君!手に捕まってくれ。」
上から手が伸びてきたのでそれに捕まる。
すると、人の力とは思えないほどの怪力で引き上げられる。
「さぁて、今度は一体どんなモンスターだ?」
「ヒラタ君、怪我は無いかい?無いね。あってもらっても困るから、無いって事で良いね。」
あ、はい。大丈夫です。
よく見ると、ペン太、リヴァイアさん、そして爺やさんは既に馬車から出ていたようだ。俺がビリかよ。
「どうやら、あちらのモンスターが攻撃してきたものかと。」




