策
「ペンンンン!ていうか、その肉に釣られて来てるんだから早く捨てろっペン!」
はっ!そうか。その手があったか。
くそ~もったいないけど、命には代えられん。
さらば焼けたハウンドの燻製肉。
肉をハウンドの大群の方向へポーンと投げる。
すると面白いことにハウンドの群れは肉の方へ猛ダッシュ。
ふっ、これで少しは大丈夫............なはず。
とりあえず止まる。
「ペン!?なぜ止まるペン!今のうちに早く逃げるペン!」
ふっ、まだまだだなペン太よ。
「せっかくハウンドからやってきてくれたんだ。ここはチャンスだ!倒そうぜ!ここで一網打尽にしようぜ!」
「おぉ!ペン。いちもーだじん?がなにかよく分からないペンけど、とにかくなにか策があるってことペンね?」
策か...............ないな!
う~んしかし............なぁ。
ハウンドが肉に夢中になっている間にどうにかして倒さないといけないけど、俺の炎球や居合じゃ、一匹ずつしか倒せないんだよな。
「ペン太。フリーズンって広範囲にできないか?」
するとペン太はペペぺぺぺーンと首を捻った。
「広範囲には............出来ない事はないペンけど、それじゃあただの寒い風になっちゃうペン。あのハウンドの量なら完全に凍らせることは出来ないペン。」
くそぅ。仕方ないか。
やっぱりあれだな。範囲攻撃って大事。
いや、しかし。
ムムムムムム。
よし!これで行こう。
多分、大丈夫なはず。
「ペン太。俺が炎球を打つからそれに向けてフリーズンを打ち続けてくれ!」
この世界には、太陽モドキがある。
呼吸ができるから、酸素もある。
いやこの体は元は俺のじゃないから、酸素で呼吸をしているのかは分からないが。
とにかく、頼むぞペン太。
「ペペペン!仕方ないペンね!」
そう言ってペン太は空高くまで飛んでいった。
正確な場所は............ペン太なら合わせてくれるだろう。
俺はハウンドが群がる場所のちょうど真上になるように腕の角度をつける。
「いくぞ!合わせろペン太!炎球!」
俺の右手から、球体の炎が飛んでいく。
すると、空を飛んでいたペン太がちゃんと炎球に合わせて位置を取った。
「ええい!こうなったら、もうどうにでもなれっペン!フリーズン!」
ペン太の口から万物を凍らせる吹雪が飛び出し、俺の炎球を包み込む。
「いけー!そのままフリーズンを維持!炎球を凍らせる勢いで吹き付けろー!」
ペン太にはフリーズンを維持するレベルの技術がある。
俺の炎球はどうやら魔力を流し込むことで、浮かせることはできるようだ。
つまり、止めたり、方向を変えたりは出来ないが、一度衝撃を与えればその場で止まり、魔力を流し込む事で維持する事が出来るということだ。
今まで、投げて攻撃するだけだったが、どうやら工夫して使う事で面白い事ができそうだな。
まーとにかくだ。
今は俺の炎球がペン太のフリーズンに閉じ込められ、ハウンドの群の真上で停滞している。
俺もペン太も魔力を相当使っている。
グッさんの所で訓練していた時は魔力切れなんて無かったのに、なんか魔力が流れ出ていて、魔力切れが起こりそうな香りがプンプンするぞ。
こうしている間にも、ペン太のフリーズンによって、俺の炎球をコアに、凍った炎の球は大きくなっている。
凍った炎を見たのは初めてだが、じっくりと観察している暇はないな。
今は魔力を流してスキルを維持するので精一杯だ。
これがなかなか伝えづらいんだけど、体全体でポンプのように魔力を流す。そんな感じだ。
さらにもう一つ、気にかけている事がある。
ハウンドだ。
ハウンドだって生物だ。
いつまでも一つの肉に集ってるようなやつらじゃない。
もしハウンドがこっちに攻撃してきたりしたら、だ。
ん?
そこのハウンド君、なぜ俺を見ているのかな?
俺よりもお肉の方が美味しいよ?
俺が見守っててあげるから、お食べなさい。
いやいやちょっと、こっちこないでハウンド君。
いや一匹でやってきたのは良いけどさ。
殺意剥き出しのモンスターは一匹でもつらいよ。
しかも今、魔力流してて、あんまり動けないんですけどぉぉ!
いやぁぁぁぁぁぁぁ!
走ってくんな!
あっちいけあっち!
「ガルルルル。」
戦えと?
この状態で?
お前が剣を抜くのを待っていると?
面白い!!!
ハウンドのくせに俺とタイマンを張ろうなんて度胸あるじゃねぇか。
その勝負............受けて立つ!
ん?なぜ言葉が分かるのかって?
いや、なんとなくだよなんとなく。
「ウルルル。」
ふっ、そう慌てるな。
右手は使えないが、左手なら使える。
利き手じゃ無いが、許すのだ~。
左手で木刀を握る。
さて、行くぞ!
「覚悟!」
たまにはこっちから仕掛けてみる。
ハウンドに向かっていき、まずは縦一閃。大上段。
「ガウ!」
む。なかなか理性的な奴。
左手だから慣れてないとはいえ、避けるか。
しかし、甘いのだよ。
俺の剣を避け、すぐさま反撃に移ろうとするハウンドの顔面に、左足の蹴りを入れる。
俺の蹴りをハウンドは避ける事ができず、鈍い音と共に、足がハウンドの顔にのめり込む。
ふっ。俺は剣士では無いのだよ。
故に!故に蹴りも行う!素手でも殴る!
プライド?んなぁもんはねぇべよ。
さて、ハウンドは俺の蹴りを受けて、少し後退りするも、すぐにこちらを睨み付けてきた。俺は教えの通り、しっかりハウンドから距離を取る。
睨むハウンド。構える俺。
そして、今の俺は炎球が使えない。上空の巨大な氷に包まれた炎球に魔力を注いでいるためだ。
さらに、今の俺は左手で木刀を構える。
当然、扱いは右手より難しくなる。
互角。
恐らく、今のこの状態の俺はあのハウンドと実力がほとんど互角なのではないかと思う。ハウンドはなかなか、冷静でこちらの隙を伺っている。
下手に動けば、逆に致命傷を負うだろう。
だがな、ハウンドよ。
もし来世があるなら覚えておくとよい。
半端な観察力と知能を持つと、逆に苦労するとな!
右足を大きく踏み込んで、右に移動しようとする動作を見せる。
ダン!と、大きな音がなる。
ハウンドは俺に集中している。
俺が動いた瞬間、ハウンドは俺に飛びかかってきた。
大きな口を開き、喉仏を噛みきらんとして。
だがな。
フェイントだよ!
すぐさま、体を引いて、ハウンドの噛みつきを回避する。
ハウンドの牙は空を切る。
そして、ハウンドはちょうど俺の前を通りすぎる形になっている。
俺の前には無防備な首が。
俺の――――
「勝ちだ!」
木刀をハウンドの首に思いっきり叩きつける。
バキッという、明らかに折れた音がした。
だがな。同情はしねぇぜ。
この世は弱肉強食。
知恵と力と技術を持つ者が生き残るんだ。
まったく、非情なものだねぇ。
俺の足元にあるハウンドの死体を見下す。
もはや確認するまでもない。
そんなことより、そろそろなのだ。
上空の巨大な氷の塊を見る。
俺の炎球を核に浮かせているのだが、実はだんだん重さに耐えられなくなっている。ペン太のフリーズンで氷が厚くなってきているからだ。
これ以上は時間もかかり、危険だな。
そろそろだ。
「ペン太ぁ!フリーズン、やめぇ!」
すると、上空のペン太は口から出している吹雪を止めた。
よし、いいぞ。
後は俺がやる。
炎球に一気に魔力を流す。
こうする事でより熱く燃えるのだ。
先ほどまでは、氷が溶けてもペン太のフリーズンですぐにまた凍らせていた。
しかし、今はペン太のフリーズンはない。
よって、氷は溶ける。
溶け続ける。
さて、問題だ。
氷は溶けると何になるかな?
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチーン!
そう!考えるまでもなく水だ!
そう。巨氷を俺の炎球が中から溶かし、水にしてハウンドの群れに落とす。
これこそ、俺の策!
名付けて............いや名付けなくていいや。
ふっ。そろそろだぞ。
すでに、表面に変化が見られる。
さぁ!一気に溶かしてしまえ‼
俺の全魔力を喰らえ、炎球!
「うおおおおおおお!」
溶けた!
完全に!
それを確認し、炎球を消す。
すると制御できなくなった水は重力に従い、ハウンドの群れに落ちた。
しかし、これで直接ダメージが与えられる訳では無い。
強いて言えば、ハウンドが俺たちに気付いただけだ。
それと、全てのハウンドがびしょ濡れになっただけ。
そう。ハウンドをびしょ濡れにすることが目的だったのだよ。
「いけぇ!ペン太。広範囲フリーズン!」
「ぜぇ、ぜぇ。ペン使いが荒いっペン。フリーズン!」
ペン太のフリーズンが通常とは違い、広範囲に広がるように吹き出る。
その分、威力は弱くなるそうだが。
それを補う為の水だ!
びしょ濡れのハウンド達はいつもより凍りやすい!
「いいぞ、そのまま凍死させてしまえ!」
ペン太のフリーズンがハウンドに降り注ぎ、その身を凍らせる。
ハウンド達は既に吠える事すら出来ず、されどフリーズンの範囲からでようと動く。しかし、果たして動けるハウンドが何体いるかな?
地面すら水を被って、凍り始めている。
足元から凍り、吹雪で体力を奪わる。
一匹、また一匹と倒れていく。
俺は何をするでもなく、それを眺めるだけ。
まぁ、頭を使ったのだから、これくらいの楽は許されるだろう。
と、おや?
ハウンドが倒れるペースが意外と早いぞ。
一匹。あ、また一匹。
もう、既に残り五匹だ。
あ、二匹倒れた。
あ、また一匹。また一匹。
とうとう、最後の一匹。
それも、すぐにフラフラっとして............倒れた。
「ペン太。もう大丈夫だ。」
ふっ。十匹どころでは無いが、とにかく指定された数以上は倒したぞ。
さぁて、後は帰るだけだなぁ!
■□■□
ヒラタがハウンド達を葬った時、それを観ていた者がいた。
「フフ。素晴らしいね。」
「さよう。これだけの実力、且つ指定された数以上を狩る徳。悪行の虞はあるまいて。」
そうだね。と呟き、顎に手を当てる。
「じゃあ、彼を僕の部屋に呼んできてくれるかな?村長さん。」




