アンデット領からの脱出
その言葉を聞いた瞬間、胸の中から何かが込み上げてきた。
別れの無い出会いは無いなんて、始めから分かりきっていた。
でも、いざその別れに直面するとどうしようもなくなる。
いつの間にか、涙が流れていた。恥ずかしい。
ペン太が肩に止まる。
ペン太はどう思っているのだろうか?
............涙と共に、一瞬にしてグッさんともぐゾンさんとの思い出が蘇ってきた。
初めて出会った時。
特に恐怖は無かった。運命とかいうやつを感じていたのかも知れない。
初めて食べた魔石の味。
うまかった。ただの宝石みたいな石がなんでこんなにうまいのか分からなかった。でも、異世界を感じた。
初めて魔法を使った時。
意外とすんなり使えた時は驚いたけど、グッさんの指導でコントロールも出来るようになって、嬉しかった。
初めて剣を学んだ時。
地球では絶対出来ないようなことをやれと言われた時は驚いたけど、出来た時はもっと驚いた。一ヶ月で............たった一ヶ月であんな剣技が使えるようになったなんて信じられなかったし、同時に尊敬もした。
初めてモンスターを倒した時。
意外と炎球が効かない時は焦ったけど、改めて、グッさんやもぐゾンさんの剣技の凄さを実感した。実践を通して、異世界の辛さや苦しさ、そして素晴らしさを見ることが出来た。グッさんたちと最初に会えて良かったとも思った。グッさんたちから戦い方を教えて貰わなければ、戦えなかった。
ペン太が生まれた時。
タマゴにヒビが入った時はガチでびびったし、ペン太が生まれた時は............なんか............親になった気分だった。でも、第一声が「ポサ~。やっぱり外はいいペンね~。」は全くかわいげが無い。今では相棒のようなものだが、ペン太についてはまだまだ謎が多い。もちろん、この異世界自体にも謎が多いのだが、特にペン太やグッさん、もぐゾンさんなんかは謎だ。ペン太も指導を受けて実力を上げていった。これからはペン太に頼っていくんだろうな。
スケルトンと戦った時。
デモンナイトの圧力に圧されていやいややったけど、今になると生死のやりとりをしていたんだなって分かる。ラノベではほとんど主人公は負けない。死なない。もちろん例外もある。しかし、俺はこの世界に来て死を考えたことが無かったのではないか?異世界に来たという事実に夢中になって、周りが見えていなかったのでは無いか?事実、戦さんの部屋の様子もあんまり覚えていない。スカルラビットにやられた時にも謎の余裕というやつがあった。しかし、スケルトンと戦って............目の前でもぐゾンさんが殺されて、異世界の厳しさを知った。人間はモンスターより本質的に悪い存在だとほとんどのラノベで言われている。王都に行くからにはそれなりの覚悟が必要だ。それをくれた。
肩に冷たいなにかが落ちてきた。
見ると、それはペン太の涙だった。
泣いていたのだ。
それは雀の涙というより梟の涙だ。
ペン太は普通に地球の鳥よりデカイ。
鶏のように丸い梟という感じだ。
まぁそれが肩に乗っているのだから、相当重いし邪魔なのだが。
ペン太は普段なにを考えているのか分からない。
でも、今は分かる。
ペン太はグッさんも、もぐゾンさんも、仲間............そして師として尊敬していたのだ。当たり前だろう。
ペン太も悲しい。俺も悲しい。
「グッさん、もぐゾンさん。ありがとう。今まで、仲間として、師として。俺を............ペン太を............鍛えてくれて、養ってくれて......感謝している。」
涙で言葉が濁る。
アンデット領の木々が風で揺れた。
「ペンはタマゴから生まれた時、全然戦えなかったペン。そんなペンを戦えるようにしてくれた事、感謝してるポサ。」
ペン太も涙をぼろぼろ流しながら、喋る。
人間と違って泣きながらでも、言葉が濁らないからかスラスラと喋っている。しかし、悲しみの涙を流す点は、同じなのだとわかった。
ペン太の涙に感化されて俺の涙の量も多くなる。
アンデット領の地面を濡らす人間の涙。
かつてあっただろうか?いや、あったに違いない。ここは血で血を洗うアンデット領なのだ。苦しみから涙が流れる者もいるだろう。
しかし、これは悲しみの涙。
アンデット領から出ることへの悲しみの涙。
アンデット領を恐れ、逃げたいと思う人間はいても、アンデット領を故郷と思い、行きたくないと願う人間はいないのではないか。
グッさん・もぐゾンさんに改めてしっかりと向き合う。
悲しさとか、感謝とか、そういう全てをひっくるめて、宣言する。
「俺は必ず戻ってくる。次はグッさんともぐゾンさんを俺が守る!だから!だから絶対、死なないでくれ。」
もう、これ以上の言葉は無い。
「楽しみに待ってるぜ。」
「成長しタ姿、見せにこいヨ。」
グッさんともぐゾンさんは笑いながら言った。
そうだよな。別れるときは、笑っていかなきゃな。
涙を裾で拭う。
アンデット領ですっかり汚くなってしまったこの服。
前までは全く気にして無かったけど、思い出だよな。これも。
「ペンも強くなってくるっポサ!」
ペン太が肩で、その翼を上げながら喋る。
頑張ろうな。
「それじゃ、行ってくるよ。」
ああ、気をつけて。
そんな声を耳に、背中を向ける。
さっき涙を拭ったにも、関わらず目の前が涙で全く見えない。
もう一度、拭うも無限に涙が溢れてくる。
涙と共に、寂しさが............拭ったはずの悲しさが溢れてきた。
一歩が踏み出せない。
アンデット領から出るには、後一歩という所でアンデット領から出れない。足が踏み出せない。
悲しさはいつの間にか最高潮だった。
「グッさん!もぐゾンさん!」
いつの間にか、無意識に、振り返って二人を抱き締めていた。
「ベエエエエン!ぶだりをべっばびばぶれないっベン!」
ペン太も、涙を流しながら二人を抱き締めている。
ありがとう。グっさん、もぐゾンさん。
「そんなに泣いてたら、いつまでも出れねぇぞ。」
いつものイケボが一層かっこよく聞こえる。
「頑張れヨ。応援してるからナ。」
二人を解放して、反対の方向を見る。
希望はあっちにある。行かなくてはならないんだ、俺は。
涙を再度拭って視界を確保する。
行かなきゃいけないんだ、俺は。
「ペン太。行くぞ。」
そういうと、ペン太は俺の肩に乗ってきた。
「ペンはもう泣かない、ペン!」
グッさんともぐゾンさんに背を向けて、歩き出す。
もう簡単に一歩が出た。
「行ってきます。」
そう振り返ることなく、言った。
「「行ってこい。」」
後ろから、二人の声が聞こえた。
アンデット領からの脱出 (終)




