感傷
グッさんの言葉を聞いて青ざめた俺とペン太は、迂回する事に賛成した。
あの広い東の平原をなんとか迂回し、今、また東へ移動中だ。
東の平原からしか出られない訳ではなく、ただそこを通るのが最も安全だっただけだ。スケルトンもこんな東まで回って来ることは無いらしく、デモンナイトと出会ってもなんとかなりそうだ。
後は比較的低級のアンデット系モンスターしか出ない。
しかし、油断はするなよ。とグッさんに釘を刺された。
グッさんももぐゾンさんもさっきの事はあんまり気にしてないようだ。
あぁいうのを、相棒っていうんだろうな。
俺とペン太はまだあんな関係とはほど遠いが、このアンデット領を出ていくつもの死線を乗り越えれば、あんな風に信頼しあえるのだろうな。
グッさんは俺達を不安にさせたくなかったのだろう。
なぜ俺がこんな回想を始めたかのかというと、直感的にもうすぐアンデット領を抜ける事が分かって来たからだ。
もうすぐだ。もうすぐなのだ。
それはアンデット領を出て、異世界を見ることの出来る喜びと師匠でもあり仲間でもあるグッさんやもぐゾンさんと別れる悲しみの入り交じった気持ちだった。
アンデット領はこの世界において故郷のようなものだ。
ここから出ていくのは上京の時の気持ちより重いもので、寂しい。
しかし、出ていくと決めたのは俺だ。
この世界を冒険して、地球に戻るという目標がある。
そのためには仕方のない事。それにまた戻ってくることも出来る。
スケルトンは勘弁だけどな!
スケルトンといえば、さっきのドッペルゲンガー。
具体的にどういうものなのか、グッさんに聞いてみた。
まとめると、こうだ。
曰く、ドッペルゲンガーは見た者の存在を奪う事が出来るらしい。
初めて聞いた時は俺も、ん?ってなった。
分かりやすく整理すると
魔術師A・格闘家B・僧侶Cがいたとしてドッペルゲンガーと戦うことになったとする。
ドッペルゲンガーの戦い方は、まずその内の中の誰か、仮にAとしよう。Aを見て、その姿に成り代わる。
変化後はその変化した存在。つまりこの場合Aの能力を全て持ち、Aのスキル等を全て使う事が出来る。
反対にAはドッペルゲンガーに存在を奪われた事で、世界から認識されなくなり、だんだん体が透けてくるという。
その後、Aが完全に消滅した瞬間、残りのB・Cはドッペルゲンガーに関する記憶を失い、Aに扮したドッペルゲンガーをAとして認識してしまう。
逆にドッペルゲンガーはAの記憶を全て引き継ぐ。
まさに、存在を奪うモンスターというわけだ。
格上の魔王でも、一対一なら恐らく勝つのでは無いかと思うくらい強い。本体はそんなに強くないそうだが、一撃で仕留めない事には存在を奪われる可能性があるため、危険だそうだ。
ザッザッザッっと草を踏みしめ歩く音が心を落ち着かせる。
アンデット領はこの世界では、恐らく最も危険な領だ。
あんな化け物、たくさんいるだろう。臆してはダメだ。
俺はまだ弱い。ペン太もだ。
グッさんがいなければ、スケルトンに喧嘩を売ろうとしていた所で死んでいただろう。もぐゾンさんがいなければ、スケルトンを倒せなかっただろう。
これから先はグッさんももぐゾンさんもいない。
誰の助けも借りられない。
二人で王都に着くまでどんな困難があるか分からないというのに。
しかし、弱気になってはいけない。
俺には目標があり、意志があり、好奇心がある。
絶対にこの世界で生き残るのだ。
それにまだヒロインも出てきて無いからな。グヘヘ。
皆、無言で歩き続ける。
もう、アンデット領を抜けることは皆薄々感づいているだろう。
ペン太は知らないが。
ペン太はどう思っているのだろうか?
ペン太はアンデット領でタマゴから孵った。
つまり、アンデット領が故郷、とみなしていいんじゃないか?
ペン太はアンデット領に残ったほうがいいんじゃないかと思ってしまう。ぶっちゃけ、俺はペン太を生んだわけでは無いし、ペン太は実際どう考えているのか知らない。聞いてみたいと思った事もあったが、聞いてはいない。実際、ペン太は生まれてすぐ飛んで、喋った。結構成長した感じで生まれたのだ。だから、過去に触れるようなことはあんまりしてない。
戦さんに無理やりタマゴに幽閉された可能性もあるし。
まー、とにかくなんだ。
アンデット領を出たらちゃんと自立しなきゃいけないってことだ。俺はもう社会人なんだから大丈夫!
でもここ異世界だからなぁ。
とにかく今後は、まず王都に行く。
そして、ギルドに入って異世界を満喫する!
ヒロインも見つける!
そういや、この世界には俺以外にも転生者がいるんだよな。
だったら、他の転生者を見つけるのも手だな。
皆で地球に戻る方法を探すぞ!
やっぱり、異世界は怖いけど楽しいな。
一度スケルトンとかいう化け物を倒したら、なんか自分が無敵になったような気分だ。レベルなんて無いんだけどな!
ペン太とは相棒だし、ゆっくり王都で仲良くなろう。
いつかグッさんやもぐゾンさんにも会いにアンデット領に帰ってくる!
成長した姿を見せてやる!
俺を先頭に、ペン太が俺の真横。もぐゾンさんとグッさんが俺の後ろという形で、歩く。
折れた枯れ枝を踏みしめる音。
草むらを踏みつける音。
靴と地面が擦れて音を出す。
王都に着いたらどんな食べ物があるかな~、なんて考えながら歩いていた。まるでこの時間がいつまでも続くように感じた。
遠くから聞こえる何かの鳴き声。
湿度は高いが異様に寒い風。
微かな死臭。
鼻を突く刺激臭。
しかし、当たり前だがそんなことはなかった。
ふいに、後ろで足音が止まった。
振り向いてみると、グッさんともぐゾンさんが足を止めていた。
どうしたんだ?と口を開こうとする。
しかし、グッさんが言った。
「すまねえ、ヒラタ。」
続けて、もぐゾンさんが言う。
「ここから先ハ、アンデット領外ダ。」
「オレ達はこれ以上は進めない。」




