戦略的撤退
少しくすんだような白色の骨。それはここに来てすぐに見たあのスケルトンだった。Sランクモンスターだ。勝てない。
「お前ら、こういう時の為に考えておいた作戦がある。」
今はそのグッさんの作戦だけが頼みの綱だ。
俺たちは前方のスケルトンを注意深く睨みながらその作戦を聞いた。
「まず、ヒラタの炎球とペン太のフリーズンで目眩ましをする。そうしたら皆散り散りに逃げるんだ......オレも草魔法でなんとかしてみるがあまり期待するなよ。」
となれば後は待ち合わせる場所だな。
今さら引き返すわけにはいかないし。
「待ち合わせ場所はここダ。」
もぐゾンさんが地図を出して指(正確には骨)を指す。
「よし、準備はいいな。」
「行けるぞ。」
「大丈夫ポサ。」
「なら合図をしたら撃つんだ。」
「了解ポサ。」
グッさんの言葉を聞きながら俺はもう一度スケルトンを正面から見る。
「......。」
恐ろしいほどの威圧感。
やつの腕が一振りされるだけで俺達は命を奪われてしまうだろう。
「......。」
俺は右手に魔力を込める。緊張した雰囲気が伝わる。
暗くじめじめとした......暑いこの森が。
「......。」
まるで森自体が止まったかのような感覚。
しかしそれはもうコンマ数秒ほどで破られる静寂だった。
「今だ!」
「炎球!」
俺の手から放たれた火炎球は見事スケルトンに当たり黒い煙を放つ。
破裂音とつかの間の空白。
音がするような速さでスケルトンが飛び出してくる。
もちろん無傷で。
それと同時に俺も走り出す。
しかしスケルトンの方が断然速い。
追い付かれる!
「フリーズン! ポサ!」
ペン太がそのスキルを放つ。
空気を凍らせるような音がした。
「走れ走れ! ヒラタ!」
小さな吹雪がスケルトンの体を凍えさせる。
しかしそれもSランクモンスターであるスケルトンにとっては障害にもならない。
スケルトンは走り続ける。
俺も、みんなも走り続ける。
後ろから木々がなぎ倒される音が聞こえる。
遠ざかるペン太、グッさん、もぐゾンさん。
四つに別れた俺達を見て、スケルトンが追ったのは―――。
「俺かよ!」
スケルトンは行く手を阻むように生える大木を殴った。
木の悲鳴のような倒れる音。
狙いを定めたかのように俺の真横に落ちてきた大木を見て青ざめる。
やつはスピードこそ無いものの、このパワーは驚異的!
追い付かれる事は死に直結する。
何よりやつは骨で俺は人間。
俺はニートの割には体力のある方だと思っている。それにグッさんともぐゾンさんの訓練も受けた。しかし二百メートルも走ると流石に疲れてくる。しかし止まってはダメだ! 減速すら許されない!
やつは俺とほとんど同じようなスピードで走っている。
このままでは追い付かれる!
そう考えた俺は。
「炎球!」
右手に溜めた魔力を放つ。
上手くスケルトンに命中するも無傷。
しかしそんな事は端から問題では無い!
倒れた木を踏み台にして高く飛び上がった俺は、さらに魔法を放つ。
「炎球!」
踏み台にした木を目掛けてファイヤボールを放ったのだ。
命中し、その木は燃えた。
そしてそれが瞬時に周りの木々に燃え移る。
「よっこらしょ。」
着地した俺は後ろを振り返る。
よし、木が良い感じに燃えてスモークの役割を果たしている。
先ほど放った炎球で数秒スケルトンの視界を奪い、スモークを展開すればやつは周りを煙に包まれ、俺が見えないはずだ。
その隙に、俺は待ち合わせ場所へ向かい走ったのだった。
後ろでパチパチ、パチパチと木が燃えている。
■□■□
「ふぅ、疲れた。」
うまく振り切れたな。しかし、次も上手く行くとは限らないし、もうスケルトンとは会いたくない。さて、みんなは無事かな?
しかし待ち合わせの場所に着いても誰もいないように見える。
辺りを見渡していると、ガサガサッという音と共に草むらからグッさんが現れた。
「よう。うまく逃げ切れたようだな。」
「グッさんこそ!他のみんなは?」
「あぁ、みんなならもうすぐ来ると思うぞ。」
グッさんが言った直後、モコモコッという音と共に地面からもぐゾンさんが現れた。
「もぐゾンさん!無事だったか!」
「フッ、オレはゾンビだゾ。死ぬわけねぇヨ。」
良かった良かった。後はペン太だけか。
しかしあいつはマヌケだからなぁ。迷ってなければいいんだけど。
「ポサー。着いたポサー。」
そう考えてるとペン太の声がした。
「ペン太ぁ!これで全員揃ったぜ!」
いやぁ、みんな無事で結構結構。スケルトンが来ないうちに、東の草原に出発!
「ここから東の草原まではすぐそこだ。さぁ行こ......。」
突然黙るグッさん。
どうしたんだ?
「おい、気配を感じないか?」
突然そう言った。
気配? 全く感じねぇ。
「あぁ、微かだが強者の気配ダ。」
強者の気配!?
マジで全く感じねぇぞ!?
ペン太の方を見ると、とぼけた顔で困惑している。
ちょっと面白い。
「グッさん、なんの気配なんだ?スケルトンじゃないよな?」
「......スケルトンよりは小さい......これはAランクか? だとしたら......。」
Aランク? 俺の知ってるAランクは一種類しかいない。
「デモン......。」
「デモンナイトだナ。」
「いやちょっ、セリフ取らないでよ。」
とにかくデモンナイトなのは間違いなさそうだ。
もし出くわしたらヤバいな。スケルトンよりは幾分かマシだが、勝てるか分からん! ていうか多分負ける!
「何ポサ? デモンナイトって?」
そうかそうか。ペン太は知らないんだな。
フッ、これだからペン太は。
「デモンナイトってのはAランクの騎士だ。まぁまず勝てないと思うぞ。」
「ペンー! じゃあヤバいじゃないかペンー!」
「ばっか! 大声だすな!」
あーあ、ペン太が隠密行動なの忘れて怒られてやんのー。
突然、鎧の音が響いた。
「あ。」
「ヤバいナ。」
「くっそ来たぞ!」
「ペン?」
ガシャンガシャンと音は近付いてくる。
「来るぞ!」
「各自迎撃体制!」
「参ったナ。」
「もしかしてヤバいポサ!?」
一際大きな音と同時に、森の奥の人影が動いた。
デモンナイトが姿を現した。




