Ep.5 レッド・デビル
ここは東エヴァンス、人族の領地。
一年を通して気候が安定しており、農作業に恵まれた土地。
そのため経済は比較的豊かで、人々は安心して暮らしていた。
ただ一つの懸念を除いて……。
——ブロォォォォォーー……
「ほん~とに快適ね~♪」
「でしょ~、アーティファクトを残してくれたお父様には感謝よね~♪」
《魔動車:白銀操駆》——魔動機関を用い、魔力を原動力に走行する二座客室式の馬なし馬車。開閉式の屋根と、ステルス機能も併せ持つ。
「ところでマリル、海を見たいって言ってたけど……それなら西海岸よりも東海岸方面が良かったんじゃない?」
「う~ん、目的はそれだけじゃなくってさ……やっぱ割れた大陸をこの眼で見てみたい……ってのもあるかな」
「そう……うん、マリルが見たいって言うんなら、私はどこまでも付き合うわ」
*****
しばらく走ると風が変わるのが分かった。そして、その風に乗って潮の香りがほのかに漂ってくる。
「はや~い、もう西海岸が見えてきたわよ♪ちょっともう、王都からここまで来るのに、馬車だと3日か4日はかかるって言うのに……反則ね、魔動車」
小高い丘に魔動車を止め、海を見てはしゃぐ2人。
だが次の瞬間、その顔から笑みが消える。
「わぁ~、すっごくキレイ……って、なにあの煙と……人だかり?えっ、魔法光!?」
——ヒュルルルルルル……ダァァァァァン!!
それは明らかに、戦火と魔法の光。
「ちょっとカルラ……あれって、なんで……いえ、誰と誰が戦ってるの!?」
「あれは……人国とエルフ国の戦争よ……エルフ国は200年前からあぁやって戦争を仕掛けているの……」
「それってまさか……凶星のせいで……?」
「えぇ、凶星衝突でエルフ国は半壊。さらに磁場が狂い気象異常が起こり……その賠償を人国に求めて戦争を起こしているの」
「なんで……もっと平和的に手を取り合うとか……あれじゃ略奪と一緒じゃない」
涙を浮かべながらマリルの問いに答えるカルラ。
「もう戻れないのよ……200年間、あぁやって奪う事で生き延びてきたのだから……いくら私が200年かけて許しを乞うても……無駄でしか無かったし……」
それを聞いたマリルの表情が、一瞬で変わる。
「ちょっとカルラ、魔動車をお願い」
「え、ちょっ、マリル、どこ行くのよ!私、運転なんて……」
マリルはアイテムボックスに手を突っ込むと、真っ赤な体躯の二輪の機械馬を取り出す。
「……ちょっと行ってくる」
《機巧輪:猟獣》——魔導機関を搭載し、魔力を消費して走る二輪の機械馬。右手側の駆動舵を引き絞ることで速度調整する。
——バルゥゥゥゥゥゥン。
マリルは猟獣の駆動舵を目一杯引き絞り、猛スピードで丘を下る。
そのまま戦場へと一直線に向かいながら、左手をアイテムボックスに突っ込み、一本の杖を取り出す。
それは銀色に鈍く輝き、先端には真っ赤なクリスタルを備えた金属製の杖だった。
《獄炎杖》——先端のファイアクリスタルから炎を呼び出す魔法の杖。その炎は地獄から呼び寄せているという。
「てめぇ~らが……200年もカルラを縛ってきたんかぁ~!カルラはなぁ~……カルラは……ちょっと間違えちゃっただけだろ~が!」
マリルは左手に魔力を込めると、先端のファイアクリスタルが輝きを増す。
「チェェェーン……エクスプロォォォォージョン!」
杖の先端から放たれた極大の炎の塊が、エルフ国の軍勢へと一直線に飛んで行く。
ズドドドドドドドド……
連爆、連爆、連爆。
一筋の爆炎が火種となり、敵陣を焼き尽くす無尽の誘爆を引き起こす。
「ギャーッ!マリル、アンタやり過ぎよ!やり過ぎ!」
——爆煙が引いてゆく。
そこには魔法防御壁を張ったエルフの魔術師たちの姿があった。
「何だ!?どこから攻撃を受けた!?」
「被害状況確認、急げ!」
「攻撃はあの……赤い……なんなんだあの娘は」
「撤退、撤退!」
まるで蜘蛛の子を散らしたように撤退してゆくエルフたち。
「ちぃっ!あんの耳長ども、防ぎやがったか……って、オホホホ。エルフの皆様、200年もカルラを縛った罪、その程度の炎でチャラになると思ったら大間違いですわよ……って、おい待てコラ!逃げるんじゃねえですわよ!」
マリルの叫びも虚しく、対岸へと逃げてゆくエルフたち。
そこへ人国の軍を率いていた将校が馬で近寄ってくる。
「キミは一体どこから……そしてさっきの魔法は……まさか人国にそれほどの魔力を持った人間が居ようとは、ぜひ領主様にお目通りして……」
「オホホホ、わたくし忙しいので……ゴメン遊ばせ~♪」
将校が言い終わるより早く、マリルは一言告げ、その場を逃げるように後にする。
*****
——エルフ国の駐屯地。
「あの真っ赤な……アレに乗った娘は何者だ!?」
「機械の……馬……だったのか?」
「あれほどの炎を一人で……」
「人国では魔術は廃れたのでは無かったのか!?」
「紅い悪魔……あれは紅い悪魔だ……」
——to be Next Story——




