Ep.2 マジック・ツール
——ドサッ!
「ンー!ン、ンー!」
「オラッ!大人しくこの部屋に入ってろ!」
バタンッ!
窓を塞がれた薄暗い部屋に放り込まれたマリル。
「(な、何なのですわ……人攫いって言う輩かしら)」
次の瞬間、マリルは右手をアイテムボックスの中に突っ込む。
そして、杖のようなものを取り出した次の瞬間。
ズリュゥー……
《爆縮の杖》——任意の物質を押しつぶし、高密度に収縮させる。
マリルが被せられたズタ袋が、収縮して黒く丸い塊になる。
「ふぅ、これで良し。それじゃ、出ましょうか……透明化の首飾り」
《透明化の首飾り》——魔力を込めると、装着者の身体が透明になるだけでなく、音や臭いも消してしまう。
マリルが首飾りに手を当てると、その姿が徐々に薄れていき、見えなくなってしまう。
「壁抜けのブレスレット……」
左手を壁に向け、そのまま壁に吸い込まれるマリル。
「——おい、どうすんだよ。どこの貴族の娘だよアレ」
「知らねーよ、そんなの。あんな立派な格好してんだ、良い身分に決まってんだろ!?」
「とりあえず城の裏のアジトまで行って、親方に聞いてこいよ」
「(あら、城の裏って事は……昔の保管庫の辺りかしら。とりあえずこのジジイ……殿方に着いて行きましょうか)」
アジトに向かう人攫いの後を、姿を消したまま着いていくマリル。
*****
暫く歩くと、木々に隠された扉の前に出る。
「はい、アナタはここでお役御免っと……捕縛の荒縄」
《捕縛の荒縄》——対象者を身動きが取れないように捕縛する。ただし、対象が離れすぎていたり、素早く動くものには効果がない。
シュルルルル……
「んあっ!?何だ……ムグッ!んー、んー!」
「やっーぱり保管庫でしたわね。では、わたくしはお先に失礼させて頂きますわよ」
壁抜けを使いアジトに入ってゆくマリル。
「とりあえず……騒がれたら面倒ですので。皆さんには眠って頂きましょうかね」
マリルはアイテムボックスから銀のランプを取り出すと、パカっと蓋を開ける。
《誘いのランプ》——蓋を開けている間、周囲の者を眠りに誘う。
「誘いのランプよ、ほ~れほれ。おやすみなさいまし」
——ドサドサドサ……
あちらこちらから人が倒れる音が聞こえてくる。
「さっ、これで一安心ですわね。では……お宝でも頂きましょうか。やはり先立つものがなければ生きて行けませんものね~」
人攫いのアジトを物色するマリル。
そこかしこで眠りにつく人攫いたちを見つける。
「この方々、野放しには出来ませんわね~。ちょっとこれで大人しくしてなさいな……捕縛の荒縄」
マリルの手から伸びた荒縄が、みるみる人攫いたちを縛り上げていく。
アジトのお宝を片っ端からアイテムボックスに詰め込んでゆくと、突き当りに牢を発見する。
「あら、この子たち……攫われた子たちでしょうか。まずは眠りをさまして……」
マリルは銀のランプの蓋を閉める。すると眠りについた子どもたちが目を覚ます。
「あっ、アナタは……助けてくれるの!?」
「助けて!私たち、攫われて……」
「ご安心なさいまし、ここから出して差し上げますわ……巧妙の指輪」
《巧妙の指輪》——錠前、罠、仕掛けなどを、またたく間に解除する。
マリルが右手で錠前を触ると、“ガチャッ”と音を立て鍵が開く。
「さっ、こんな所からはとっととズラかりましょう……って、やだアタシったら、はしたない言葉をつかって」
アジトを後にし、子どもたちを解放するマリル。
「では、わたくしはこれで……皆様も気をつけて帰るのですよ」
そう言い残し、マリルは子どもたちの前から姿を消す。
*****
——ガシャガシャガシャ!
鎧を着た兵士たちが子供たちに駆け寄る。
「君たちは行方不明の子どもたち……いったい何処から!?」
彼はこの国の衛兵を束ねる隊長であった。
「兵士様、私たちは人攫いにあって……でも、どこかのお嬢様が助けて下さったの」
「そうです、あの方はまるで御伽噺の姫巫女様のようなお方でした」
「なんと……そのお嬢さんの特徴とか……とにかく、お礼だけでは済まん。王のお耳にも入れねば……」
*****
——ここは街の雑貨店。
「んで、こちらの宝石……いくらで買い取って下さるのかしら?」
「ん~、それよりもお嬢さん。これだけのモノを買い取るとなると……身分証を見せてもらえんかのう」
「み、身分証!?えっ、え~っと。身分証は~……」
「……ちょっと、身分証を持っとらんのか?親御さんはどちらに?——(おい、衛兵を呼んでこい)」
店の主人の指示で、衛兵を呼んでくる下働きの少年。
しばらくして店へとやってくる衛兵たち。
「主人、失礼する。キミか……ちょっと聞きたいことが有るんだが、宜しいか?」
「えっ、ちょ、ちょっと、なんですわの!?わたくし、衛兵を呼ばれるような事なんて……」
「まずは名前を聞いて宜しいか?」
「な、名前……えーっと、マリル・マーリルリウスですわ」
「それは巫女姫様のお名前だろ!キミの本名を聞いてるんだ!」
「えーっと、マリルー、マー、マー……マルリル。そう、マリル・マルリルですわ」
「おい、どうだ?」
「いえ、そのような名の者は登録されておりません」
「身分証なし、身元を保証する者もなし……そのうえ登録にも該当者なし、か」
「子どもとはいえ、規則だ。仕方あるまい……」
こうして、国を追い出されてしまったマリル。
この先に待ち受ける運命やいかに……。
「んだ、あのヒゲじじい……あらヤダ、わたくしったらはしたない言葉を……オホホホ」
——to be Next Story——




