Ep.1 ワンダー・ランド
「(ここは……たしか王家の谷……お父様に連れられて……)」
——そこは、渓谷の底に造られた王家の谷。かつてこの国を治めてきた王族の墓地。
彼女の名はマリル・マーリルリウス、12歳の王女であった。
「(そうだわ……凶星……お父様は……)」
長い眠りから覚めたばかりで、まだ意識がハッキリしないマリル。
ゆっくりと辺りを見回すと、傍らに白骨化した亡骸を見つける。
「(この王冠はお父様の……)」
亡骸の横には、見覚えのある王冠が転がっている。
「(お父様の最後の言葉……)」
マリルはゆっくりと思い出す。国王の最後の言葉を……。
『オマエは生きろ。何があっても生きてくれ……』
「(わたくしは……生きなければ……)」
国王が最後に残してくれたのは、魔法の力を秘めた数々のアーティファクト。
そのアーティファクトを手に、谷を後にするマリル。
*****
「外の世界はどうなっているのかしら……すでに滅亡して……」
不安を押し殺し、意を決して王家の谷を出ると、そこには原野が広がる。
「凶星の被害は……見て取れないような……」
マリルは小高い丘に登り、そこで周囲を見渡す。
そして、その視線の先。外壁に囲まれた大きな街を見つける。
「あそこは……王城のあった辺りかしら。とにかく、凶星衝突の後に何が起きたのか調べなければ」
歩き続け、日が高くなる頃には外壁にたどり着くマリル。
中に入る人たちの行列の先、門衛が一人ひとり身分証の確認を行っているようだ。
「う~ん、恐らく門前払いを受けるかしら……それなら」
不意にマリルは列から外れ、外壁沿いに歩き出す。
「あそこが正門なら……この辺りかしら」
マリルはスッと左手を前に突き出すと、そのまま壁に吸い込まれる。
「うん、上手く作動してるわね……壁抜けのブレスレット」
《壁抜けのブレスレット》——魔力を込めることで、身につけた者の身体が物質を透過する。
父が残してくれたアーティファクトのチカラを使い、壁の内側へと入り込むマリル。
壁を抜けた先は人気のない裏路地であった。
「思った通りの場所に出れたわ。それじゃ、あの後……凶星が落ちた後、どうなったのか調べなきゃ」
裏路地を突っ切り、中央広場へと出る。
すると、広場の中央には巨大な女性の石像が建っていた。
「もし、そこのお方。あの像は誰を祀った像ですの?」
「アンタ、姫巫女様を知らなんだか!? 200年ぐれー前に、その身を呈してこの国を救って下すった聖女、星降りの姫巫女マリル様の像だんべよ」
「200!?はぁ、200年前ですって!?——ご、ごほん。ゴメン遊ばせ。ご親切に有難うございました」
「(200年って、わたくし200年も眠りについていたって事なのかしら。それに国を救った聖女って……どういう事なの!?)」
突然の話に困惑するマリル。ふと通りの露天商に目をやると、驚きの光景が飛び込んでくる。
「元祖マリル饅頭、焼き立てだよ~」
「エヴァンス名物、姫巫女肉串いかがですか~、美味しいよ~」
「お嬢ちゃん、そんな立派なドレス着て出場者だんべか。ほらもう始まっちまうだよ」
さっきのオジさんから一枚の紙を手渡される。
その紙を見ると、そこに書かれた内容に、更に驚くマリル。
***『第156回 ミス星降り姫コンテスト開催!』***
「ミ、ミス!?コンテスト!?」
そして会場脇の仮設店舗、その看板に書かれた文字は——。
***『星降りの姫巫女マリル物語』新刊発売!***
「ちょ、ちょっと待って下さいまし……思考が、思考が追いつきませんことよ……」
頭を抱え、フラフラと通りをうろつくマリル。
そんなマリルの後を、怪しい影がコソコソと追いかける。
——次の瞬間。
頭上から被せられたズタ袋が、マリルの身体を足先まですっぽりと覆い隠す。
そのまま軽々と担ぎ上げられ、何処かへと連れ去られてしまう。
——to be Next Story——




