Ep.9 ベイビー・トラップ
——東エヴァンスの西方防衛の要、城塞都市ランスロット。
エルフ族との戦争が長引く中、ここは重要な軍事拠点となっていた。
慢性的な兵力不足を補うため、周辺の治安維持や安全確保は冒険者ギルドにゆだねられる。
そして、その仕事を求めて冒険者が集い、彼らを相手に商人も集まる。城塞都市でありながら、街には商業都市さながらの活気があった。
「さて、まずはランクアップとお金稼ぎを両立してゆきましょう」
「って、こ・と・は~。また激強い魔物をやっちゃいましょうよ~♪」
「そうね、マリルの意見に賛成よ。なので……次の獲物はコレなんてどう?」
「げっ、ま~た飛ぶヤツじゃん。他にないの~?」
「ちょっと待って。これ、報酬がバカ美味いわよ!」
「バカってアナタ……って、どれどれ?」
2人は依頼書を覗き込み、報酬額を確認した途端、勢いよく受付へ向かった。
——依頼の詳細を確認するのは、その後だった。
「受付のアナタ、この依頼を2人分お願いできるかしら」
「はい……ではこの依頼書を持ってランスロット西方駐屯地に行って下さい。そこで現地の方の指示に従ってくださいね」
*****
——ランスロット西方駐屯地、正門前。
「えーっと、冒険者の方……でしょうか……?」
2人を見るなり、言葉に詰まる正門前の若い兵士。
「そうよ、なにか文句ありまして?」
「(ちょっ、マリル。なんでそう喧嘩腰なのよ!)これは兵士様、当番ご苦労さまです。ギルドで依頼を受けまして、コチラへ来るように仰せつかりました」
「あ、あぁ、そうかそうか。ごめんごめん、可愛らしい子たちが来たから驚いてしまいました。では冒険者カードと依頼書を確認させてもらっても宜しいですか」
書類を持って詰め所へ引っ込む若い兵士。
程なくして、さっきの若い兵士が、別の兵士といっしょに戻ってくる。
「ではコチラはお返しします。それでは、この後は小隊長が案内いたしますね」
紹介された案内役の小隊長を見て、マリルはわずかに眉をひそめる。
——若い。
一見しただけなら、まだ新兵の詰め所にいてもおかしくないほどの若輩に見えた。
だが、その佇まいには隙が微塵もなかった。
地を踏む無駄のない足取り、こちらの力量を瞬時に測るような抜け目のない眼差し。
そんな圧迫感がじわりと伝わってくる。
「オレはエノ・バトルボーン。近衛師団で小隊長をやらせてもらっている元冒険者だ。気軽にエノって呼んでくれ」
物腰は少々荒っぽい所が見られるが、偉ぶった様子もなく、相手への敬意も感じられる。
「これはご丁寧に。ギルドより参りましたマリル・マルリルと申します」
そう言って流れるようにカーテシーを返すマリル。
「お初にお目にかかります、小隊長様。私はカルラ・スタンピードです。微力ながらお力添えに参りました。本日の案内、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言ってカルラも見事なカーテシーを披露する。
「おいおいおい、こりゃ参ったな。お二人とも、元貴族か何かか?ここではそんな畏まった挨拶は抜きにしてくれ」
呆れた様子で2人をいなすエノ。
だがその表情は困惑とは程遠い、むしろ2人に対して関心を抱くようであった。
「では2人とも、案内するから付いてきて……あ、いや。ご同行願いますでしょうか、お嬢様方」
片目をパチリとつぶり、したり顔のエノ。
その態度に、2人は思わず顔を見合わせて笑い出す。
そして釣られるようにエノもクスッと微笑む。
「——ふふ。小隊長様があなたのような方で良かったですわ。話しやすくて助かります」
「えぇ、もう畏まる必要はございませんわね。エノ様、改めましてよろしくお願い致します」
エノに案内され、駐屯地の奥へと進む2人。
領主居城の西翼に隣接するように設けられた駐屯地は、まさに堅牢な要塞そのものだった。
白砂が敷き詰められた広大な練兵場に通された2人に向かい、エノが唐突に申し出る。
「まぁ2人を疑う訳じゃないが、こちらも戦力を把握しておきたい。悪いが、少し実力を見せてもらえるか?」
そう言って、練兵場の片隅に置かれたオウガ材の武具棚の前へ立つエノ。
彼は並んだ木剣の中から、一際重く、実戦用の大剣と同等の重心を持つ一本を選ぶ。
「オレはコイツを使わせてもらう。マリルとカルラも獲物を選んでくれ」
顔を見合わせてから、エノの問いに応える2人。
「アタシは必要ないわ。素手で行かせていただきますわよ」
そう言って腕まくりをするマリル。
「私は自前の杖で宜しいでしょうか。白兵戦向きではありませんので」
次の瞬間、カルラの右手から杖が現れる。
「ご安心下さいませ。攻撃魔法は使いませんので」
肉食獣のように低い体勢で構えるマリル。
クルリと杖を一回転させ、正面に構えるカルラ。
エノの額から一滴の汗が滴り落ちる。
「(あれ、なんか妙に様になって……もしかしてコイツら本物の実力者……!?)」
正面に大剣を構え、エノが開始の合図をする。
「いつでも良いぞ、当てる気で来い」
エノのその声を聴き、マリルはチラッと横目でカルラを見る。
マリルの口角が少し上がる。
その顔を見てカルラも少し口角が上がる。
「それでは遠慮なく……行きますわよ!」
——ダンッ!
蹴り足が砂煙を上げ、まるで弾丸のように一直線に飛び出すマリル。
「なっ——!?」
——to be Next Story——




