Ep.10 アクロ・ジョーカー
「俊敏のアンクレット、剛力の腕輪……発動」
《俊敏のアンクレット》——装着者の運動能力を著しく向上させるアーティファクト。
《剛力の腕輪》——装着者の腕力を著しく向上させるアーティファクト。
「それでは遠慮なく……行きますわよ!」
——ダンッ!
弾丸のように飛び出したマリルに合わせて、カルラはクルリと杖を一回転。
マリルの身体に向けて詠唱を始める。
「光纏いし、結晶の獅子。
銀の晶拳、闇祓う蒼蹴。
七色の煌めき、その身に集え。
煌晶魔法——駆逐せし煌纏甲!」
光の粒がマリルの手足に収束し、四肢に装具が結晶化。
まばゆい輝きを放ちながら突進し、そのまま目にも止まらぬ速度で拳を放つ。
——ズドドドドドドドドッ!
爆発的な突進と狂気的な連撃を繰り出すマリル。
「うおっ……ちょっ……この……ぬおりゃ!!」
予想外の初速と手数に、わずかに目を見張る。打撃音が高密度に重なり、衝撃で視界が揺らぐ。
しかし、驚きは一瞬だった。
——ズガンッ!
小隊長は流れるような剣さばきで、嵐のような乱打を全て弾き返した。
「ふふ~ん、やりますわね~。流石は小隊長様」
「なんつー連撃……けど、反応できねーほどじゃあねーわな」
軽く首を鳴らし、フッと短く息を吐き出すエノ。
乱れた呼吸を一瞬で戻し、トントンと軽く地面を蹴る。
重心を落とし、木剣を肩越しに構え直したその佇まいには、先ほどまでの気安さが完全に消え失せていた。
「ふぅ、オウガ材でなきゃ今頃メタクソにやられてたかもしんねぇな」
《オウガ材》——主に棍棒や盾、建材などに使われる硬質な木材。衝撃を加えるほどに頑強になってゆく性質を持つ。そのため切り出してすぐに加工しなければならない。
「ずいぶんと余裕ですわね。わたくしの攻撃はそんな温かったですの?」
「あ~、確かにあの突進力と連撃はスゲーな。驚きだよ」
エノは一瞬、言葉を飲み込もうとした。だがスッとマリルの目を見て口を開いた。
「ただな……怖くはない。お前さんの攻撃は速いだけ……素直すぎるから読みやすいんだよ」
その言葉を聞いたマリルの表情が、一瞬で変わる。
そして、その表情をみたカルラが慌てて詠唱を始める。
「げっ!エノ様、ちょっと失礼いたしますわね……煌晶魔法——不落の煌剛殻」
光の粒がエノを包み、透き通った結晶が鎧を形づくってゆく。
「おっ、おっ、なんだ!?どうなってんだ!?」
困惑するエノを尻目に、マリルが腰のベルトを思いっきり引き絞る。
「武神のベルト……発動!」
《武神のベルト》——武術の心得がない者ですら、達人の領域へと導くアーティファクト。全ての攻撃を必中へと変換する。
——スンッ!
マリルの姿がその場から消えた……次の瞬間、エノの側面に現れる。
「せりゃ!」
空気を切り裂くような鋭い蹴りが正確無比に放たれる。
ガギィィィィンッ!
エノはかろうじて反応する……が、頭部を守るだけで精一杯であった。
「んなっ、なんとか防げたか……って言うか何だこの鎧!?」
間髪入れずマリルの右拳が引き絞られ、まるで音を置き去りにするかの如き速度で突き出される。
エノは木剣を捨て、両腕を交差させて防御の姿勢を取る。
ズガンッ!
マリルの拳が、まるで鉄塊でも叩きつけたかのような轟音を上げ、エノの防御に突き刺さる。
次の一撃を放とうと、マリルが拳を引き絞った次の瞬間。
「ストーップ!マリル、終わり。それ以上はダメ!」
2人の間にカルラが滑り込む。
だがマリルの拳はあまりの速度のため、もはや止めることが出来なかった。
ガイィィィン!
鈍い重低音を響かせながら、カルラの杖がその一撃を正面から受け止めていた。
「ふぅ……もうマリル!アナタ、や・り・す・ぎ!」
コンッ!
杖で頭を小突かれ、我に返るマリル。
「あだっ……あら、ごめん遊ばせ。少々本気を出してしまいましたわ」
クルリと振り向き、深く息を吐くマリル。
その所作はまるで武術の達人のそれであった。
「で、どうでしたのエノ様。わたくしたち、そのお眼鏡に適いまして?」
「叶うも何も、お前らみたいなのを落としたら団長にドヤされちまうよ」
——「そうだね、エノ。何やら騒がしいから出てきてみれば、君の負ける姿が拝めるとはね」
その場に居た3人が、声の方へ一斉に振り向く。
長く金色の髪、白銀の鎧、一見すると華奢な身体つき。
穏やかな表情で近づく、1人の男。
「だ、団長!どうしてここに……って言うか、まだ負けてませんし……勝負はこれからってところで……」
「フフ、まぁそう言う事にしとこうか。で、このお嬢様方は入隊希望って訳でも無さそうですが……ギルドの紹介ですか?」
流れるようなカーテシーを披露し、マリルが応える。
「初めまして、師団長様とお見受け致します。ギルドの依頼で参りました、マリル・マルリルと申します」
「これはこれはご丁寧に。こらエノ、こんな清楚なお嬢様に剣を向けるのは、小隊長としてどうかと思うぞ」
「ははは、清楚……ですか……」
——to be Next Story——




