脅威の予感
北都市ギルドの中は、負傷者のうめき声と、慌ただしく走り回る職員たちの足音で満ちていた。
壁際には簡易寝台が並び、包帯を巻いた冒険者たちが横たわっている。
ヴァルガスさんが空いた卓へ案内してくれ、現状を説明してくれたのだが、これといって新しい情報はなかった。
謎のモンスターの軍勢が突如現れ、ルシードの討伐を宣言した。そして闘技場を拠点に、ギルドへ攻め寄せてきている。分かっているのは、それだけだった。
「北都市のギルド長は、どちらに?」
姿の見えないギルド長のことを尋ねると、ヴァルガスさんは疲れの滲む顔で首を振った。
「この混乱で行方不明だ。ルシードの消息も、職員たちには把握できず、参っている」
ルシードが本当に討たれたのかどうかさえ、確かめようがないのか……。
重い空気が、ギルド内に漂う。
「はい! はい! とりあえず、通信設備の復旧から手掛けませんか!?」
その空気を割るように、エアリルが元気いっぱいに手を挙げた。
「繋がれば、各都市のギルド長に、ここの状況を直接伝えられますっ!!」
確かに、他の都市のギルド長たちの指示を仰げるなら心強い。
「そうだな……。しかし、復旧って何をしたらいいんだ?」
エアリルに同意しながら、方法を確認する。
「まず、原因を取り除けるか考えましょう!! 通信が使えない理由は、大きく二つ!! 通信に使う魔力の供給が止まっているか、魔力の受発信が何かに阻害されているかです!!」
ヴァルガスさんが腕を組み、考え込む。
「……言われてみれば、通信設備だけでなく、都市の魔道具が軒並み動いていない。供給の方に問題があるのかもしれん」
どうやら、魔力の供給そのものに問題がありそうだな。
「となれば、まずは別の供給路で通信を試してみましょう!! トビーさん!! 今から私が指示するものの調達と、ここまでの運搬をお願いできますか!?」
エアリルが物凄い勢いでメモに書き込み、俺へ突き出してきた。
受け取ると、魔石や導線、共鳴石の欠片など、見覚えのある素材が並んでいる。いくつかには、大きな丸印がついていた。
これなら、北都市の地図さえあれば、調達は難しくなさそうだ。
「ヴァルガスさん、北都市の地図をお借りできますか? 闘技場は敵の拠点なので避けて、職人街と、ギルドの備蓄庫を回るつもりです」
「あぁ、構わない。助かる」
地図を広げ、素材ごとに回る順番を頭の中で組み立てていく。こういう段取りなら、慣れたものだ。
「調達の優先順位はあるか?」
「優先度の高いものに丸印をつけてあります!! 印のついた素材から持ってきてもらえると助かりますっ!!」
エアリルとやり取りをしていると、ツバキが声をかけてきた。
「おっさん、アタシもなにか手伝うか?」
「ツバキは、俺の護衛をしながら、優先度の高い素材を先に運ぶのを手伝ってくれ。敵の目を避けて、最短で回りたい」
ツバキは満足そうに頷き、了承してくれた。
「チキンさんは、エアリルの護衛として、ここに残ってください」
「……ああ、任せてくれ」
チキンさんは、少し間を置いてから、そう答えた。
「しかし、魔力供給が滞るなんてことがあるんだな」
ふと、疑問が口をついて出る。
「そんなに不思議なことなのか?」
ツバキが、首を傾げた。
「まぁな。俺も仕組みには詳しくないが、供給が断たれたなんて話は、聞いたことがない」
魔力の供給が滞っているだけなのか。それとも、他のところへ流れてしまっているのか……。
ふと、泥のように地面へ溶けていったモンスターの死体が、脳裏をよぎった。
胸に引っかかる違和感をしまい込み、俺は地図を片手に、出発の準備を進めるのであった。




