狙われた拠点
――シャドー視点――
北都市ギルドを攻め落とすはずだった軍勢が、食い止められている。
報告を受けて、僕は足を止めた。
「他の都市からの援軍が来たか……」
真っ先に思い浮かぶのは、我が主の計画を何度も邪魔してきた、東都市の狂犬の姿だ。僕は、ニヤリと笑う。
「まぁいい。今回は、狂犬への対策も済ませているからね」
あの狂犬は、攻めには無類の強さを誇るが、守るのは苦手だ。
ならば、守るものを増やしてやればいい。
それに、狂犬以外に警戒すべき高ランク冒険者は、もういない。
西のレオンハードは負傷中。南のゾランは、殺し損ねたが、心は折ってある。
北のルシードに至っては、最初から問題にならない。
これ以上、不確定要素が増えるのは好ましくない。ここは一気に仕上げに入ろう。
それにしても……。
「狙っていたものが、ギルドにあったとはね」
本命は各都市のシンボルだと踏んでいたが、思ったよりも単純な場所にあったものだ。
僕は、薄く笑みを深めた。
――トビー視点――
エアリルに頼まれた素材の調達を終えて、ギルドへ戻ると、入口ではヴァルガスさんが巨大なハルバードを手に、周囲を睨んでいた。その隣で、マスク・ド・チキンさんが、素手のまま身構えている。
「異常なし、だ。……が、静かすぎる」
ヴァルガスさんが低く言う。
ギルドの中に入るとエアリルが凄い勢いで何かを組み立てているのが目に入った。
「おっさん、無事に戻ったきたな」
先に素材を運び込んでいたツバキが、俺に気づいて声をかけてくる。
「気味が悪いくらい、敵に遭わなかったよ。……エアリルは、何を作ってるんだ?」
ツバキは首を横に振った。
「さぁな。作業を始めてから、何を聞いても答えないんだ」
見れば、さっきまで騒がしいほど元気だったエアリルが、無言で手を動かし続けている。
「凄い集中力だな……。ん?」
時折、困ったように手を止めて、何かを探す仕草をしている。
……あぁ、素材の置き方がバラバラで、探しにくいのか。
運び込まれた素材は、とりあえずといった具合に、床に積まれたままになっていた。
「ツバキ、素材を整理したいんだ。手伝ってくれないか?」
そう言って、似た種類のものを系統別に分け、エアリルの手が届く位置に並べていく。
「おっさんは、気づくとすぐこういうことを始めるな」
ツバキは呆れたように言いながらも、手際よく手を貸してくれた。
作業をしながら、ふと思う。
ここまでの道中、ギルドに近づくほど敵は増えたのに、離れると嘘のように静かだった。
まるで、ギルドだけが狙われているみたいだ……。
胸に引っかかる違和感を、いったん頭の隅にしまった。
◆◆◆
――数刻後。
「よし!! 出来た!!」
エアリルの元気な声が、ギルドに響いた。
「緊急用の臨時通信機です!! これは独立したエネルギーで動くので、都市の魔力供給が止まっていても、問題ありませんっ!!」
そこで、エアリルがきょろきょろと辺りを見渡した。
「素材の配置……。随分と丁寧ですね」
戸惑ったような声が、ポツリとこぼれる。
「探すのに手間取ってそうだったからな。作業しやすいように整理してみたんだが……よくなかったか?」
余計なことをしたかな、と少し不安になる。
エアリルは、じっと俺を見つめたあと、ふっと優しげに微笑んだ。
「……いえ。仕事を、ちゃんと見てくれる人なんですね」
……え?
「姐さんの変化は、きっとトビーさんに会ったからなんですね」
その意味を尋ねるより先に、エアリルはパッと表情を元に戻した。
「さぁ!! 北都市の状況を、姐さんに報告しましょう!!」




