消えゆく異形
北都市ギルドの冒険者たちも、必死にモンスターの包囲網を押し返そうと抗っていた。
「おおっ! 北都市ギルドの皆様も、なかなかお強いですね!!」
俺の背中に隠れて走るエアリルが、感嘆の声を上げる。
都市内に巨大な闘技場を抱えるギルドの冒険者たちだ。Aランクには及ばずとも、Bランク相当の猛者がゴロゴロしているのだろう。現に、崩壊寸前とはいえギルド前の防衛ラインで敵の進行をギリギリ食い止めている。
中でも、最前線で指揮を執っている重戦士は頭一つ抜けて強かった。
「俺が引き付ける! 敵の背中を狙え!」
巨大なハルバードでモンスターの凶撃を捌きながら、周囲へ的確な指示を飛ばしている。
だが、他の冒険者たちの攻撃が、弱点である『五本目の腕』までなかなか届かない。かといって、あの重戦士が回り込んで背中を狙おうとすれば、正面からの苛烈な連撃を受け止められる盾役がいなくなってしまう。ジリ貧の状況だ。
「手数で張り合おうとするな! 一撃で弱点だけを狙え!」
周囲の冒険者たちへ声をかけながら、戦場を駆け抜けて次々とモンスターを沈めていくツバキ。
「俺の攻撃で怯んだ隙を突くんだ!」
モンスターの連撃を素手で捌き、豪快に殴り飛ばすマスク・ド・チキン。
やはり、各都市を代表するAランク冒険者というのは別格の存在だ。
二人の主力が加わったことで前線が安定し、北都市の冒険者たちも徐々に連携を取り戻し始めていた。これなら、この場はなんとかなりそうだ。
「……あれ?」
ふと、俺はある強烈な違和感を覚えた。
「トビーさん?? どうかされました?」
「いや……これだけの数のモンスターを倒しているのに、足元に『死体』が少なすぎる……」
普通なら、あれだけ巨体のモンスターが倒れれば足の踏み場もなくなり、連携の妨げになるはずなのだ。
注意深く観察していると、ツバキに倒されたモンスターの一体が、まるで泥のようにドロドロと地面に溶けて消えていくのを目撃した。
……どういうことだ?
五本目の腕が本体という特異性。それに加えて、死体が溶けて消える異常さ。このモンスターが抱える謎は、どうやらそれだけではないらしい。
◆◆◆
やがてモンスターの包囲網を完全に押し返し、どうにか一息つける状況となった。
「おっさん。斬った端から消えてたけど、あの死体はどうなったんだ?」
合流したツバキも異変に気がついていたようで、刀を納めながら問いかけてくる。
「地面に溶けるように消えていくのを見たよ……。ただ、距離があったからそれ以上のことは分からない」
「……気味が悪いな」
ツバキは周囲の地面を見回し、警戒を解かないままでいる。
そこへ、先ほど前線で指揮を執っていた重戦士が歩み寄ってきた。
「改めて、増援に感謝する。俺の名前はヴァルガス。北都市のBランク冒険者だ」
ヴァルガスは血と泥に塗れた姿のまま、俺たちへ深く頭を下げた。
「早速で申し訳ないが、現在の北都市の状況について共有させてほしい。ギルドの中へ来てくれるだろうか?」
そう誘われ、俺たちは事態の全貌を確認すべく、北都市ギルドの奥へと足を踏み入れるのであった。




