噂の冒険者
北都市へは、まず俺とツバキのパーティが先行して向かうこととなった。
東都市より距離の離れている南都市の冒険者たちは、後から合流する予定となっている。
北都市へと続く街道を急いでいると、逃げてきた避難民であろう集団と遭遇した。
どうやら、東と西の都市へバラけて避難をしているらしい。
「いったい、北都市でなにが起こっているんだ?」
俺は足を止め、憔悴しきった避難民の一人に状況を尋ねた。
「それが、突然シャドーと名乗るモンスターが現れて……あのAランク冒険者の『ルシードを討ち取った』と言い出したんだ……それで、北都市を明け渡せと……」
あのシャドーが、すでにルシードを!?
「そのまま、ギルドから正式な見解発表もないまま……皆が動揺している隙に、モンスターの軍勢が大門を強行突破してきたんだ。冒険者や闘技場の戦士たちも抵抗はしていたようだけど、かなり劣勢だったよ」
しかもモンスターの軍勢が……。
避難民たちが知る状況としては、そこまでだった。
「なぁ、おっさん。さっきから皆ルシードとか言う戦士の話をするけど、そんなに強い奴なのか?」
歩みを再開してすぐ、ツバキに問いかけられる。
「あぁ。Aランクの最強候補にして、闘技場の絶対王者と呼ばれる戦士だ。Sランク昇格の噂もあったが、闘技場の戦士でいることを望んで断ったとか、逸話も沢山あるぞ」
そうツバキに説明するが、彼女はどうにも納得がいかない様子だ。
「……どんな戦士かイメージが湧かないぞ。代表的な戦果はなんなんだ?」
「具体的なものでいうと……闘技場での試合を100連勝して絶対王者になったらしいぞ。絶対王者となったルシードに挑むには、まず挑戦権を得る試合を……」
説明を続けていると、ツバキがひどく胡散臭いものを見るような目をしていることに気がつく。こいつ、俺の話を全然信じていないな。
「信じられないような話だけど、北都市のギルドが正式に発表している内容んだからな」
ギルドが、特定の冒険者を理由もなく持ち上げるわけがない。
「……そのルシードが最後に戦ったのは、いつなんだ?」
「え? いや……しばらくは誰も挑めなくて、挑戦者もいなかったと聞いてるからな。……どうだろう?」
俺は思わず首を傾げる。
改めて考えてみると、これほど有名なのに、分からないことばかりの冒険者だ。どんな戦い方をするのか、戦闘スタイルすら不明なのだ。
「ま、北都市で実際に確かめるしかないな。シャドーにやられたかも本当のことか分からないしな」
ツバキはあっけらかんとそう言って歩き出す。
ルシードの話には、もう興味がない様子だった。




