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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第8章】北都市奪還戦
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東都市のスペシャリスト

 北都市が、陥落寸前!?

 あそこには巨大な闘技場があり、登録している有名戦士が数多く集まっている。その上、四都市最強と噂されるAランク冒険者ルシードがいる、最も戦力の高い防衛の要所のはずだぞ。

 ギデオンさんも信じられないといった様子で、クロエへ身を乗り出す。

「バカな……。ルシードはどうしたんだ!? まさか……」

「通信設備も壊滅的なのか、現地でなにが起きているのかまったく分からない状況です。ただ、北都市より緊急の救援要請だけが発信され続けていて……!」

 冷静なクロエも、かつてない事態に相当混乱している様子だ。

「本件は、緊急の『Aランククエスト』として発行されています」

 Aランククエスト……。ギルドが発行できる最高ランクの依頼で、めったなことでは発令されない。各都市の最高戦力の動員が必要となる、文字通りの災害級の状況ということか。

 だが、今は西のレオンハードさんがスケルトン変異種との戦いで負傷中であり、南のゾランさんは休養中となっている。

 つまり、現在このクエストを受けられるのは――。

「そのクエスト、受領してくれ。アタシがすぐ行く」

 ツバキがただならぬ事態を察知して、一切の迷いなく旅立つ姿勢をみせた。

「ツバキ……。しかし……」

 ギデオンさんは、詳細も敵の規模も分からぬ死地へツバキを送り出すことに、強い懸念を抱いているようだった。

 俺も同じ気持ちだ。だが、Aランククエストとなると、Eランクの俺はシステムとして同行することが出来ない。高ランク冒険者との同行特例を使っても、自分の2ランク上までが限界なのだ。

 一人で死地へ向かう相棒に、着いていくことすら出来ない己の不甲斐なさ。俺は唇を噛み、強く拳を握りしめた。

「おっさんは、東都市の留守番をよろしく頼むな!」

 ツバキは俺の悔しさを察したのか、気にするなと言いたげにポンと肩に手を置き気遣ってくれた。

 そんな陰鬱な無力感に苛まれていると、不意にギルド長専用の通信石が眩く明滅した。

『――ギデオン、聞こえるか? ルミオンだ』

 南都市のギルド長、ルミオンさんの声だ。

 ギルド長同士の専用回線を使った緊急会話。さすがに俺たちが同席して聞いてしまってはマズイだろう。

「ギデオンさん、俺達は席を外しますね」

 そう言って部屋を出ようとした、その時だった。

『その声は、トビー君かい? ちょうどいい。君へ緊急の指名クエストを依頼したい』

 こんな状況で、俺に指名クエスト? いったいどんな内容を?

『北都市の状況は聞いているかな? 変異種に強襲されて陥落寸前らしいんだが、いかんせん詳細の状況が分からず、各都市からどのように援軍を編成して送るべきか判断しかねている。そこでトビー君には、いち早く現地の情報が掴めるよう、通信設備の復旧作業を手伝ってほしいんだ』

「通信設備なんて……。俺、そんな専門的なことは出来ませんよ?」

 様々な雑用経験はあるが、魔法具の修理なんてやったことはなく、俺は不安気に尋ねた。

『そこは心配ない。専門の職人をこちらで手配して派遣する。君には、現場で実際の復旧作業をサポートするのに力を貸して欲しい。……どれだけ危険で混乱した状況下でも、最も正確な作業を任せられるのはトビー君しかいないと思っている』

 俺の力が、求められている。

 俺は強大な敵を斬り伏せるような戦力にはなれないかもしれない。だが、俺にしか出来ない俺なりの戦い方がある。

 どんな泥臭い現場でも回してみせる、俺は作業のスペシャリストなんだ。

「……分かりました。その指名クエスト、受けます」

「トビー! 無理をするな! ルミオンも、彼に無茶なことを言うんじゃない!」

 クエストを受領した俺に対し、ギデオンさんが顔色を変えて止めに入る。

『ギデオン、過保護すぎるぞ。君はトビー君のことを信用していないのか?』

「それとこれとは話が違う! 詳細不明の最前線に、一介のEランク冒険者を送り込むなんて無謀すぎる!」

『私は、戦闘力だけではないトビー君の価値を高く評価している。……どちらにせよ、受ける受けないは本人の意志に任せるべきだ』

 ギデオンさんが、本気で俺の命を心配してくれていることは痛いほど分かる。それでも、俺の力が必要とされる場所があるなら、俺は全力で応えたい。

「ギデオンさん。……俺を、行かせてください」

 俺が真っ直ぐに見つめ返すと、ギデオンさんはしばらく葛藤するように黙り込んだ後、説得を諦めたように深く息を吐いた。

「……トビー。お前もツバキも、無茶だけは絶対にするな。必ず、無事に帰ってくるんだぞ」

 その言葉に力強く頷き、俺は隣のツバキの方へと振り返った。

「悪いな。どうやら、大人しく留守番はしてられないらしい」

「それなら頼りにさせてもらうぞ!」

 ツバキは最高に嬉しそうにニッと笑って、そう応えるのだった。

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