疑心暗鬼と絶望の舞台
――シャドー視点――
南都市で負った深い傷もようやく癒え、僕は急ぎ主の部屋へと向かっていた。
主の偉大なる計画は、ここ最近、ことごとくあの目障りな冒険者たちに邪魔されている。一体どれほど失望されていることか……。
冷や汗を流しながら重い扉を開く。
「シャドー。負傷はすっかり良くなったようだな」
椅子に腰掛ける主の声は、ひどく静かで、ひんやりと冷たかった。
「はい! すぐにでも任務に取り掛かれます!」
僕は自分の存在価値を示すように、床に片膝をついて力強く答えた。
「任務、か……」
主はどこか遠くを見つめるように視線を漂わせ、低く呟く。
「どうやら、冒険者というものを少し甘く見すぎていたようだ。ここまで私の作品たちがやられるとはな……」
その言葉に、僕は悔しさでギリッと唇を噛んだ。
僕たちの不甲斐なさが、絶対であるはずの主を失望させてしまっているのだ。
「もう小細工はなしだ。シャドー、貴様に純粋な戦闘兵として温存していた変異種の群れを任せる。指揮官として率い、一気に攻め落とすのだ」
「お任せください。狙うのはやはり、あの忌々しい狂犬がいる東都市ですか?」
主へ標的の確認をする。
最大の障害となっている、あの女剣士をなんとかしなくては、計画はこれ以上進まないはずだ。
「いや……。狙うは『北都市』だ」
主の意外すぎる言葉に、僕は思わず虚を突かれた。
「北都市、ですか? あそこは巨大な闘技場を中心に、血の気の多い戦士たちが集う防衛の要所。なにより、四都市最強と噂されるAランク冒険者『ルシード』がいますが……」
僕の得意とする精神汚染がハマるような隙のある相手ならいいのだが、屈強な戦士の集団となると少し厄介だ。
「北都市については、前々から少し面白い噂を聞いていてな。確証は得ていないが……こちらも手駒に余裕がなくなってきた以上、勝負に出なければなるまい。北都市さえ落とせれば、滞っている作戦もあそこを拠点にして強引に動かせる」
そうして主は、僕に北都市にまつわる噂を語りかけてきた。
「なるほど……。その噂が本当なら、僕の能力にとってこれ以上ないほど有利な舞台になりますね」
高みを目指す闘技者たちが集う北都市。
その誇り高き場所が、疑心暗鬼と絶望に染まる最悪の舞台に変わることを想像し、僕は恍惚とした笑みを浮かべるのであった。




