立ち向かう時は一緒
ギルド長室を後にして歩きながら、俺はツバキがなぜエンジュさんへ宣戦布告するような真似をしたのか、ずっと不思議に考えていた。
そんな俺の内心を感じ取ったのか、ツバキが横からひょっこりと顔を覗き込んでくる。
「なんだ? アタシがエンジュにあんな態度に出たのが不思議だったか?」
「そりゃあ……な。何か考えがあってのことなのか?」
「エンジュは、アタシのことを明確に敵対視してる。理由はわからないけどな。……遅かれ早かれ戦うことになるなら、アタシのタイミングで勝負したいと思ったんだ」
エンジュさんから不穏な空気が流れているのは、俺も時々感じてはいたが……。
「Sランクに相応しいかどうかの、テストみたいなもんじゃなくてか?」
「違う。エンジュはアタシが邪魔でしょうがないんだ。さっきの握手で確信したよ」
ツバキが決意を固めたような強い目でそう言うのだから、きっと彼女の勘は正しいのだろう。
「また、とんでもない人に目をつけられたな……」
俺がそんなことを言うと、ツバキがニヤリと口角を上げた。
「おっさん、随分と他人事みたいに言ってるけど。あの宣戦布告はパーティとしてしたのと同義だぞ?」
……えっ!?
それって、俺もエンジュさんから敵対してると思われてるってことか!?
俺がギョッとして顔を向けると、ツバキはイタズラを成功させた子どものように、無邪気な笑顔を見せる。
「アタシのパーティメンバーだろ? 立ち向かう時も一緒じゃないとな」
ま、まじか。こいつ、俺を道連れにしたのか。
そのためにわざわざ「一緒にギルド長室へ来てくれ」なんて言ってたのかと、今更ながら合点がいった。
俺は額に手を当てて、思わず天を仰ぐ。
――でも、それこそが俺の選んだ道だ。彼女の隣で相棒を務めるという覚悟だ。
「はぁ……わかったよ。つまり、俺たち二人で超えなきゃいけない壁ってことだな」
俺なりの共同宣言を聞いて、ツバキは満足げに深く頷いた。
ツバキの相棒を務めるには、一息つくような楽はさせて貰えないらしい。
◆◆◆
「しかし、最強のバケモノを目指すなんて原点回帰だな。やっぱり、より強い奴と腕試しをしたいのか?」
並んで歩きながらそう聞くと、ツバキは少し照れくさそうに鼻の頭を掻いた。
「それもあるけど……一番の理由は、バケモノと呼ばれてる他の奴らに居場所を作る手伝いが出来ないかなと思ってな!」
ツバキの口から出た意外すぎる答えに、俺は思わず足を止めて驚いた。
「バケモノと呼ばれ続けたアタシにも、こうして居場所が出来たんだ。なら、アタシより弱いバケモノだって居場所があるんだって、安心させたいんだよ。……それに、もしそいたちが暴走しそうになっても、アタシがいれば止めてやれるしな!」
ただ自分の強さを誇示するだけじゃない。
その強さをどう活かすか。どうやって人を守り、責任を背負うのかを、今の彼女は真剣に考えている。
その精神的な成長に、俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
そうか。ツバキにとってこの東都市は、もう大切な居場所だと思ってくれるようになったんだな。
「……素敵な目標だな」
俺は、立派な一人の英雄になりつつある相棒へ、心からの敬意を込めて真っ直ぐにそう伝えるのであった。




