芽生えた答えの欠片
――ツバキ視点――
トビーと別れた後、アタシは街を歩きながら、改めて自分の今後の目標について考えていた。
トビーは、誰かの居場所を作って守るために、苦手な戦闘にも必死に取り組んでいる。
だったら、相棒であるアタシも、誰かの居場所をつくれるような……そんなことが出来ないだろうか。
ぼんやりとそんな考え事をしていると、いつの間にか、ニナの墓がある池のほとりまで歩いてきていた。
「……ついつい来ちゃうな」
ひっそりと佇む小さな石の前にしゃがみ込み、ニナが安らかに過ごしていることを願って、静かに手を合わせる。
『本当はモンスターだって、誰かと温かい時間を過ごしたいって、心のどこかでは願っていたのかもしれないわ』
ふとも、ピノンのそんな言葉が頭の中で反芻した。
ニナも、願っていたのだろうか? アタシたち人間と共に生きていくことを。
現実的に考えてみると、それはなかなか難しそうだなと思う。
周りの人間たちが、モンスターと生きることを簡単に許してはくれないだろう。いつその牙が自分に向くのか分からない存在を、人は本能で恐れるからだ。
アタシからしてみたら、ニナだって、そこらの冒険者だって、強さとしては大して変わらないから脅威になんて思わないんだけどな……。
「私も、いいかしら?」
不意に後ろから声をかけられ、振り返る。そこには、仕事帰りであろうクロエが立っていた。
「クロエも、ニナの墓参りに?」
アタシは驚きで、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
多くの冒険者は、ニナがモンスターだったと知っている。アタシのことは受け入れてくれた東都市の連中でも、わざわざモンスターの墓参りまでする奴はいないと思っていた。
「仲間の妹分のお墓なんだから、お参りくらいするわよ」
クロエは事もなげにそう言うと、アタシの隣に並び、静かに手を合わせた。
仲間。その言葉の響きにひどくむず痒さを覚えながら、アタシは隣の横顔に問いかける。
「なぁ……クロエ。もしもの話なんだけどさ。ニナが人を襲ったりせず、人間と一緒に生きたいと願ってたら……それは叶ったと思うか?」
クロエは少しだけ考える素振りを見せた後、静かに口を開いた。
「難しいんじゃない? それは」
身も蓋もない真っ直ぐな回答に、やっぱりそうかと肩を落とす。
そんなアタシの様子を見て、クロエはクスリと笑った。
「でも、あんたが一緒なら叶うかもね」
「え?」
アタシが不思議そうな顔をしていると、クロエは少し意地悪そうに目を細めた。
「あんただって最初は相当な暴れっぷりだったのに、今じゃすっかり東都市の一員じゃない」
「……アタシはモンスターと同等かよ」
アタシが拗ねたように唇を尖らせると、クロエは益々楽しそうに笑う。
昔はバケモノ扱いされると、無茶苦茶に腹が立った。でも、不思議と今はそんな気持ちにはならない。
クロエの言葉には、アタシという存在への確かな信頼と親愛が込められているのがわかるから。
そんな風に、温かい意味が込められたバケモノ扱いがあるなら――アタシは。
「ごめん、ごめん。晩御飯まだでしょ? 奢ってあげるから行きましょう」
ヒラヒラと手を振り、逃げるように先を歩いていくクロエ。
「あっ、おい待てよ!」
アタシは胸の奥に芽生えた小さな答えの欠片を握りしめながら、彼女の背中を慌てて追いかけるのだった。




