居場所を作る背中
エンジュさんをギルドまで案内し、ギデオンさんに引き渡すと、どうやら本当に事前連絡なしの来訪だったらしい。
ギデオンさんが、文字通り目をひん剥いて頭を抱えていた。
「Sランクともあろうお方が、突然そんなことされたら困りますよっ!」
「悪い、悪い」
エンジュさんは悪びれる様子もなく、カラカラと笑うだけだ。
これから色々と手続きやら確認やらが必要らしかったので、俺とツバキは邪魔をしないようにそこで別れることとした。
ギルドのロビーに戻ると、見知った若手の冒険者から弾んだ声で呼び止められた。
「あ! トビーさん!」
「ダガンか。これからクエストか?」
ダガンは、最近になって南都市からここ東都市へ活動拠点を移してきたEランク冒険者だ。
なかなか成果を出せず、冒険者としての進退を思い悩んでいた時に、「東都市にはEランクに手ほどきをしてくれる先輩がいる」という噂を聞きつけて、わざわざやってきたのだと言う。
「えぇ! これから使わなくなった武具の仕分け回収をやるところです! こういう地道な作業、俺の性に合ってるみたいで!」
武具の仕分け回収。それはこの前、俺が発案した入門武器のリサイクルが頓挫した代わりに生まれた、新しいクエストだった。
家庭用品への再利用を目的とした分別作業は、狙った効果とは違ったものの、不用品の処分に困っていたベテランたちから大好評だった。おまけに意外とギルドの利益も出るということで、正式に窓口での常設クエストとして採用されたのだ。
「それはよかった。怪我しないように頑張れよ!」
俺が手を振ると、ダガンは嬉しそうに頷いて仕事へと向かっていった。
最近、ダガンのような他都市からの希望者がじわじわと増え始めている。俺が地道にやってきたEランクの底上げが、少しずつ、でも確実に形になっていると思うと嬉しくなる。
「……おっさんは、他人が嬉しそうにしてると嬉しいのか?」
隣を歩いていたツバキから、不意にそんなことを問いかけられた。
顔がニヤけてしまっていたのだろうか。
「そりゃ嬉しいさ。自分のやってきたことが実を結んだ成果だと感じたら、尚更な」
「ふーん……」
生返事のような相槌を打つツバキだったが、なんだか聞きたいことがあるのか、ひどく気まずそうにこちらの様子を窺っている。
「なんだ? 聞きたいことでもあるのか?」
「その……本当に、嫌味とかじゃない純粋な質問なんだけど……おっさんは、なにを目指して冒険者を続けてるんだ?」
ツバキは、俺が怒っていないか確認するように、上目遣いでそっと聞いてきた。
随分と、他人の心を気遣うということを覚えたんだな……。
その不器用な優しさが伝わってきて、俺は少しだけ感慨深くなる。
「そのっ! ちょっとアタシ自身の目標が薄れててさ!」
感動して黙り込んでしまった俺を見て、気を損ねたと思ったのだろう。ツバキが慌てた様子で言い訳を補足してくる。
――『才能がないのになんで冒険者なんてやってるんだ?』
ツバキと初めて会った時にぶつけられた、あの容赦のない問いを思い出す。
あの時は、ただ漠然とした未練で冒険者を続けていたから動揺してしまったが、今は違う。俺の芯は、もうブレない。
「俺はきっと、一人だけだと幸せになれない性分なんだ。周りの皆が幸せそうじゃないとな」
ツバキの目を真っ直ぐに見つめ返し、言葉を続ける。
「だから俺は、自分の出来ることを少しずつ増やして、皆の役に立ちたい。その価値をちゃんと証明するために、冒険者を続けるんだ。――だから、俺の当面の目標は『昇格』だな!」
あの時とは違う。今の俺の、飾らない素直な気持ちをツバキにぶつけた。
「……だからおっさんは、誰かの『居場所』を作り続けられるんだな……」
ツバキはポツリと呟くと、柔らかい顔で微笑んだ。
「いいな、それ。……アタシも、そういうのがいいな」
ツバキは何か大切なことを考えるように、遠くの空を静かに見つめるのだった。




