上を目指す理由
――ツバキ視点――
なぜ、Sランク冒険者を目指すのか?
そう聞かれて、まったく答えが思いつかなかった自分自身に、アタシは少し驚いていた。
昔は、漠然とだけど欲しいものがあった。それを手に入れるために、アタシに唯一できる強さを示すことで、一番上まで登り詰めようとしていた。
でも――エンジュの問いを受けて、気づいてしまった。
アタシはもう、とっくに満たされていたんだな……。
トビーやクロエ、東都市の皆がいてくれて、帰る場所も出来た。
じゃあ、すっかり満たされてしまったアタシは、次は何を目指したらいいんだろう?
トビーや東都市の皆の手助けをしたいとは思っているけれど、それがSランクを目指す理由になるのかと言われると、どうも違う気がする。
「なぁ、エンジュはなんでSランクになろうと思ったんだ?」
答えの出ないアタシは、視線を横に向けてエンジュにそう聞いてみた。
「そりゃあ、思うままに生きたいからさ。誰にも私のやりたいことを邪魔させないようにな」
エンジュはさも当然というように、堂々と胸を張って答える。
「Sランク冒険者ともなると、クエストの受注形式などはどうなるんですか?」
トビーが興味深そうに横から尋ねた。確かに、Sランクって普段どんな依頼をこなしてるんだろう?
「あまり詳細は教えられないが、Sランクへの依頼方法はちょっと特殊でね」
エンジュは不敵な笑みを浮かべて続ける。
「まぁ、最終的にそれを受注するかどうかは、私達の気分次第だけどな」
よくわからないが、要するに偉い奴らからの指名依頼が増えるってことだろうか。別にそれだけなら、Sランクにこだわる理由にはならないな。
「他には? なんか特別なことあんのか?」
アタシはさらに質問を続ける。
「王都である『中央都市』への居住権を得られることだな。あそこは王族や高位貴族、あるいはその関係者に招待された者しか足を踏み入れることすらできない、選ばれた者たちの憧れの場所だろ?」
……うーん。それもまったくピンとこない。
アタシは別に、堅苦しい中央都市に住みたいなんて欠片も思っていないし。
いつの間にか、上を目指す目標を失っちまったな。
アタシは腕を組みながら、内心でそうひとりごちた。
「ツバキにはどれもお気に召さないらしいな。強いのにもったいないことだ」
アタシの気の抜けた反応を見て、エンジュは快活な笑い声を上げた。
Sランク冒険者、鬼の亜人エンジュ。
……コイツは、本当に妙なやつだ。
アタシがSランクを目指す気がないと分かった途端、コイツから発せられていたドス黒い敵意が、嘘のようにスッと薄まったのだ。
さっきまでは、アタシに向けた強烈な敵意が、コイツからダダ漏れになっていた。
相当な強さなのに、どこか虚勢を張っていると感じてしまうのは気のせいだろうか?
快活に笑って見せているけれど、こいつが腹の底で何を考えているのか――アタシにはよくわからなかった。




