Sランクの品定め
ギルドへ向かって歩く道中、エンジュさんは先ほどの圧倒的な威圧感が嘘のように、ひどく気さくな態度で俺たちに接してきた。
「つまり、エンジュさんはツバキの噂を聞きつけて、わざわざ東都市まで様子を見に来たってことですか?」
「そういうことだ。ツバキの活躍は、閉鎖的な中央都市にまで轟いていてね。いったいどんな奴か、私が直接確かめに来たってわけさ」
あの中央都市にまで噂が回っているのか。ここ最近のツバキの異常な戦果を考えればありえる話だが、それにしても驚きだ。
エンジュさんが、ツバキの方へと顔を向けて笑いかける。
「すでに他都市のギルド長から、推薦状を二枚も貰ってるんだって? 飛ぶ鳥を落とす勢いじゃないか」
「西と南からは貰ったぞ。でも、ギデオンが『お前にはまだ社会性が身についとらん』とか言って渋っててな……」
ツバキが少し拗ねたように唇を尖らせて答える。
ここ最近のツバキの丸くなった様子を見ていると、ギデオンさんが推薦状を発行する日もそう遠くない気がするけどな。
「へぇ。ギデオンがねぇ……」
エンジュさんがスッと目を細めた。
ほんの一瞬、彼女の纏う空気が、先ほどの戦闘中とは違う『冷たくて静かなもの』に変わった気がした。
(……ん? 今、空気が……)
俺が背筋に薄ら寒いものを感じたのと同時、ツバキもその微かな変化を察知したのか、怪訝そうにエンジュさんを見つめる。
「ところでツバキ。お前はSランクへ昇格をして、何か成し遂げたい目標でもあるのか?」
「目標……?」
薄っすらと警戒しかけたツバキだったが、思いもよらない質問だったのか、すっかり虚を突かれたようにパチクリと瞬きをした。
「そういえば、俺も聞いたことがなかったな。腕試し以外に、何か目指してるものでもあるのか?」
俺も先ほどの微かな違和感を振り払うように、追随して問いかけてみる。
「え? いやー、その……。昔は、あったはあったんだけど……」
ツバキはポリポリと頬を掻きながら、ひどく歯切れの悪い受け答えをした。
答えにくい目標だったのだろうか?
「ははっ、随分と欲のない奴だな! Sランクの特権で大金を得たいとか、世界中に名声を轟かせたいとか、伝説の武具が欲しいとか、そういう野心はないのか?」
エンジュさんが、豪快に笑いながらそう言う。
「うーん。そういうのは、あんまりピンとこないな」
ツバキは腕を組みながら、そう呟いている。あいつらしい素直な気持ちなのだろう。
「……そうか、そうか。まぁ、無理して目指すようなもんでもないからな」
そう言って歩き出したエンジュさんは、なぜだかひどく機嫌がよくなったような顔をしているように見えた。




