頂点の一角
最近、東都市のはずれで妙な事件が起きているらしい。
冒険者が何者かに襲撃されるのだが、大きな外傷や金品の強奪といった被害は一切出ていない。ただ一方的に意識を刈り取られ、気が付くと東都市の大門前に転がされているのだという。
そのせいで周辺のクエスト処理に支障が出始めているらしく、ギルドから俺たちのパーティへ実態調査の依頼が舞い込んできた。
東都市の最高戦力であるツバキが選ばれるのは当然なのだが、万年Eランクの俺まで? と疑問に思っていると、ギデオンさんが説明してくれた。
「調査中に倒れている冒険者を見つけた場合、ツバキ一人では全員を連れて帰るのは難しいし、何より人質にされないよう防衛が出来る人間が必要なんだ」
つまり、俺の盾職としての働きを明確に期待しての指名というわけだ。
この世界、盾職を専門としている人間は本当に少ないんだなと改めて思う。戦闘が伴うクエストで、俺のようなお荷物が名指しで頼りにされることなんて滅多にないから、なんだか少しムズ痒い。
「おっさん。アタシが気兼ねなく暴れられるように、背中は頼んだぞ」
隣でギルドの依頼書を眺めていたツバキが、ニカッと好戦的な笑顔を向けてくる。
「あぁ、任せとけ」
相棒からの真っ直ぐな信頼。それに報いるためにも、俺は気を引き締めた。
◆◆◆
こうして、俺とツバキ、そしてギルドから同行を指示されたCランクパーティのガルムたちと共に、調査場所の森へと赴くこととなった。
「今のところ、特に異変はありませんね。もう少し周辺を広く探索してみましょう」
ガルムの提案通り、それぞれのパーティで少し距離を開けて周辺調査を行うことになった。
「それにしても、金品も奪わず無力化するだけって、犯人は一体なにがしたいんだろうな?」
周囲を警戒しながら、俺はツバキに何の気なしに問いかけてみた。
「強さ比べとかじゃないか? アタシも昔、道場破りみたいなことやってたしな」
いやいや、お前みたいな純度100%の戦闘狂が、そう何人もいてたまるかよ。
そう苦笑しながら心の中でツッコミを入れた途端――ツバキの足がピタリと止まり、その表情が刃のように鋭く研ぎ澄まされた。
「どうした? ツバキ?」
どうやら、ただ事ではないらしい。あのツバキが、露骨な警戒心を示している。
「……もの凄い強い戦士がいる。こっちだ!」
言うや否や、ツバキはガルムたちが向かった方向へ、弾かれたように駆け出した。
慌ててその後を追いかけ、木々を抜けた先。
そこで俺が見たのは、すでに抜刀して身構えるツバキと――目深に外套のフードを被り、身の丈ほどもある巨大な金棒を肩に担いだ巨躯の戦士が対峙している光景だった。
謎の戦士の足元には、先ほど別れたばかりのガルムたちのパーティが、手も足も出なかったのか全員気を失って転がっている。
「お前が噂の無差別襲撃犯だな? 目的は何だ」
刀を構えたまま、ツバキが低く唸るように問いかける。
「くくっ……ただ東都市の冒険者の強さを見てやってたのさ。それに、噂の狂犬にも会いたかったもんでね」
――女性の声?
その巨大な体躯に似合わない、どこか艶のある低い女の声に、俺は思わず目を見張った。
戦士がゆっくりとフードに手をかけ、頭からバサリと外す。
現れたのは、燃えるような長い髪に、獲物を狙う猛獣のような鋭い瞳。口元からのぞく白い牙と――額から天を衝くように生えた、二つの『角』。
どこか妖艶さすら感じさせる、端正で野性的な顔立ちだった。
「ま、まさか……」
圧倒的なプレッシャーに俺の息が詰まる中、謎の戦士は名を告げる。
「鬼の亜人、『エンジュ』。――Sランク冒険者の一人だ」
それは、この世界に三人しか存在しない、最高峰の称号を持つ者であった。




