現実を穿つ理想
ーーレオンハード視点ーー
悲鳴を上げるセリアの身体を、蠢く骨たちが容赦なく包み込んでいく。そればかりか、奴は地面に転がっていた大剣を彼女の細い腕で拾い上げさせ――そのまま、こちらへと斬りかかってきた!
ドンッ! と、凄まじい衝撃と共に地面に叩きつけられる大剣。
「ぐぅ、ぅぅぅぅ……っ!」
肉が裂け、骨が軋むような音に混じり、セリアの痛みに耐える呻きが聞こえた。
元より前衛の戦士ではない彼女の肉体が、あの忌々しい大剣の反動に耐えられるはずがない。このまま戦闘を強制されれば、彼女の身体は崩壊してしまう。
かと言って、身体にへばりついた骨だけを的確に斬り落とすなど、到底出来ない。
「レオン、お願い……私ごと斬って……! もう悩まないって、そう決めたんでしょ!?」
涙を流しながら、セリアが悲痛な叫びを上げる。
「ナカマゴト キレルカ?」
スケルトンがこちらを嘲笑うかのように挑発してくる。
「……その通りだ、セリア。私はもう、絶対に迷わない」
私は静かに、愛用の剣をその手から離した。
カラン、と無機質な音を立てて地面に転がる鉄塊。
「レオンっ!?」
「オロカナリ」
武器を捨てた私を好機と見たか、スケルトンはセリアの肉体を操り、大剣を容赦なく振り下ろしてくる。
迫る死線を前に、私は己の胸の内で、熱く猛る焔を爆発させた。
仲間を犠牲にして成し遂げるものなど、私の追う理想ではない。そんな妥協を選ぶくらいなら――世界の理不尽を、私の我が儘でねじ伏せてみせる!
「私はもう、何も諦めない! ――私は、理想を貫く戦士だ!!」
ありったけの魔力を右手に集中させ、一気に圧縮する。
迸る光。私の手の中に顕現したのは、実体のない『魔力の剣』だった。
斬るのは彼女の肉体ではない。セリアに寄生し、彼女を操っているスケルトンの“魔力の繋がり”そのものだ!
極光の刃が一閃する。
セリアの肉体を傷つけることなく、骨と魔力の結び目だけを両断されたスケルトンが、彼女の身体から剥がれ落ちた。
「ボウマン! 落ちた骨をすべて砕け!」
「任せてくださいッ!」
ボウマンの攻撃が、剥がれ落ちた骨を次々と叩き潰していく。
「バ……バカナ……」
拠り所となる魔力を絶たれ、一定の骨が粉砕されたところで、残りの骨も一気にセリアから剥がれ落ちた。カタカタと虚しく震えた後、今度こそ完全に動きを停止する。
「はぁ……はぁ……っ!」
それと同時に、私は凄まじい疲労感に襲われ、ガクッと膝をついた。
「レオンのバカっ! そんな無茶なことやって!」
すぐに駆け寄ってきたセリアが、涙ながらに私を強く抱きしめてくる。
無理もない。魔力剣は、体内の全魔力を強引に引き絞って刃にする、あまりにも無茶な大技だ。分かってはいたが、反動による魔力切れの苦痛は凄まじいな。
「……すまない。心配をかけた」
私は苦笑いを浮かべ、謝ることしか出来なかった。
◆◆◆
私もセリアも深く傷を負ってしまったため、私たちは東都市入りを断念し、ひとまず西都市へと引き返すこととした。
揺れる馬車の中で、私は今回の変異種について、頭の中でじっくりと戦況を整理していた。
まず第一に、敵には『組織性』が決定的に欠如している。
作為的な悪意を感じるものの、その作戦はあまりにも局所的すぎるのだ。巨大な組織が動いているなら、情報共有の遅さや、兵力の連動性のなさに説明がつかない。
そして第二に、変異種は『都市の内部から発生している』可能性が極めて高い。
私たちが遭遇したのは、大門へと続く、わざわざ大回りをするための迂回路だった。敵が大軍で外から攻めてきたなら、そんな非効率なルートにポツンと兵を割く意味がない。
まるで――本当は内側で生み出した変異種を、わざわざ迂回路から向かわせて、「外から東都市へ向かって攻めてきた」ように偽装し、発生源を隠蔽しようとしたかのように。
しかし、これほどのことを行える人間など、この世にどれほどいるというのか。
――否、存在する。
揺れる馬車の闇の中、私の脳裏を最悪の仮説が過る。
そんな途方もない芸当をやってのける者がいるとすれば、この世界の頂点――『最高ランク』と呼ばれる、あの三人の誰かをおいて他にはいないのだ。




