脅威の予感
――レオンハード視点――
東都市に人型の変異種が現れた。
その報せを聞いた瞬間、私の足はすでにギルド長室へと向かっていた。
一連の変異種騒動は、決して偶発的な災害などではない。明確な悪意を持った何者かによる、作為的なものだ。
その確信を深める一方で、私の胸にはどうしても拭えない違和感がくすぶっていた。
その正体を確かめるためにも、私はどうしても東都市へ向かわねばならなかった。
ギルド長室の扉を叩き、直談判を申し出た私を、ガッティ・ギルド長は眼鏡の奥から射抜くような視線で見据えた。
「レオンハード、また急な申し出だな」
冷淡な声が室内に響く。
「東都市の変異種騒動なら、すでにツバキ君が対処済みだ。今から向かって何をするつもりだ?」
「私の予想が正しければ、敵は東都市へ続けて次の刺客を送り込んでくるはずです。現在、ツバキ殿は東都市を不在にしていると聞きます。彼女らのフォローに回らねばなりません」
「それは東都市のギルドが対処すべき問題だ。貴様は西都市の防衛だけを考えていればいい」
ぐうの音も出ない正論だった。本来なら、一介の冒険者が口を挟める領域ではない。
だが、私にはツバキ殿、そしてトビー殿に返さねばならない大きな借りがある。それに、変異種騒動は、いずれ全都市を巻き込む大災厄へと発展しかねない。ここで引き下がるわけにはいかないのだ。
私は深く息を吸い、ただ真っ直ぐにギルド長を睨み据えた。
綺麗事だと撥ね退けられるのなら、相手が呑まざるを得ない理屈をこじ開けてでも、私の意志を通してみせる。
「変異種討伐は、東都市だけの特権ではありません。西都市の冒険者がいかに優秀かを知らしめる絶好のチャンスを……このまま見逃すおつもりですか?」
ガッティ・ギルド長が、意外そうに片眉を動かす。
「貴様にしては、随分と強引なこじつけだな。……そこまでして己の主張を通したいか」
鋭い追及に、私は一切怯むことなく、決意のすべてを言葉に乗せて返答した。
「――理想を貫くためなら、なりふり構っていられませんから」
もう二度と簡単に理想を下ろしたりはしない。
「……そうか。いいだろう。ただし、成果なしは認めんぞ」
一瞬、凍てついたギルド長の唇が、わずかに弧を描いたように見えた。だが、すぐにいつもの無表情に戻り、冷淡にそう告げられる。
徹底した成果主義者である彼らしい許可の言葉。
私は深く一礼すると、熱くなる胸を抑えながら、すぐさま遠征の準備に取り掛かるために踵を返した。




