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東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第6章】 ただいまと言える場所
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答え合わせは、あの世で

   ――ツバキ視点――

「落ち着くまで、少しだけお話をしましょうか。ツバキちゃんと私の共通の話題というと……ふふっ、やっぱり兄さんのことかしらね!」

 一人にしてほしい。あまり話をする気分でもない。

 ……けれど、トビーにこれ以上心配をかけたくないという気持ちもある。それに、トビーの話には少しだけ興味があった。

「兄さんが、どうして才能もないのに冒険者を目指したのか……そのキッカケとかがいいかしら?」

 トビーの妹は、「よくある、ありきたりな話なんだけどね」と前置きして、ゆっくりと語り始めた。

「昔、この村に本物の冒険者の人たちが来たことがあってね。まぁ、ただの荷物運びの仕事で寄ってくれただけなんだけど。その姿が凄くカッコよく見えたみたいで、兄さんは仲の良かった友だちと一緒に『俺たちも冒険者になるんだ!』って急に言い始めたのよ」

 確かに、どこの田舎でもよく聞くような話だなと、アタシも思う。

「その友だちの男の子は、すごく運動神経が良くてね。チャンバラごっこをしても、兄さんはいつもボロ負けだったわ。だから、センスのない兄さんに冒険者は絶対に無理だって、両親も呆れて止めてたの」

 その辺のどんくささは、いかにも昔からトビーらしいなと思う。

「その友だちはね、『冒険者はすごく稼げるらしいから、俺がいっぱい稼いで、この貧しい村を豊かにするんだ』って、目をキラキラさせて息巻いてたわ。……でもね。その友だちが、夢を叶えることはなかった」

 トビーの妹は少しだけ目を伏せ、寂しそうに笑った。

「この村を出発する前に、重い流行病にかかって……そのまま、あっけなく死んじゃったの」

 突然の死別……。

 今のアタシには、それがどれほど辛く悲しい出来事なのか、少し分かる気がする。

「……そしたら、兄さんがね。『あいつの夢も一緒に連れて、俺が冒険者になる』って、急に言い出して。猛反対する両親を押し切って、本当に一人で旅立っちゃったのよ」

 才能が全くないと分かっていながら、死んだ人の夢を背負って、一人で。

「……おっさんは、よく分からないところでいつも頑固だな」

 アタシは思わず、呆れたような、でもどこか安堵したような感想を口に出してしまった。

「ふふっ。そうね。……でも、そこが兄さんのいいところだわ。人の為に頑張れる人だから」

 そう言って、トビーの妹は、静かにアタシの方へと顔を向けた。

「そしてね……たとえどれだけ辛くて悲しい別れがあっても、決して『出会わなければよかった』なんて……大切な人のせいにしない人だわ」

 アタシを見つめる彼女の真っ直ぐな瞳は、まるで、アタシの心の中の『後悔』をすべて見透かしているかのように、どこまでも澄んでいる。

 トビーの妹の、その真っ直ぐな言葉に、アタシは思わずたじろいだ。

「別に……アタシは、人のせいにしてる訳じゃないぞ……」

 自分でも情けないほど、言い訳のように呟いてしまう。

「そうなのね。でも『出会わなければよかった』なんて、そんな悲しいことを願わないで。きっと『よかったこと』も多くあったはずよ」

 よかったこと……。

 東都市での日々が、走馬灯のように頭を駆け巡る。

 アタシを心配してくれる人がいた。

 一緒に甘味を食べてくれる人がいた。

 いろいろと面倒を見てくれる人がいた。

 認め合える戦士がいた。

 アタシを頼ってくれる人がいた。

 アタシを姉と慕ってくれる……。

 ……でも。

「ニナの最期は……アタシへの恨み言だったぞ」

 アタシは、腕に付けたままの『お揃いのブレスレット』を擦りながら俯いた。

「それでも……その子と出会えたからよかったと、ツバキちゃんが思えることがきっとあるし、これからも増やしていけると思うわ。そうなったら、その子もきっと嬉しいんじゃないかしら」

「嬉しい? 冗談だろ。あいつは人を騙すモンスターだぞ」

 アタシは呆れたように鼻を鳴らす。

「分からないじゃない。本当はモンスターだって、誰かと温かい時間を過ごしたいって、心のどこかでは願っていたのかもしれないわ。……答え合わせは、あの世に行って本人に聞いてみてからでもいいんじゃない?」

 あまりにもぶっ飛んだ、けれどカラッとしたその言い方に、アタシは思わずあっけにとられてしまった。

 ニナもアタシと過ごす時間を願っていたかも……か。

 そうだったらいいな。自然とそう思えた。

「……ありがとう、ピノン。ちょっと、元気でた」

「あら!」

 トビーの妹――ピノンは、目を丸くしてパァッと顔を輝かせた。

「ふふっ! やっと私の名前を呼んでくれるようになったのね!」

 自分で呼んでおきながら、アタシ自身、なんだかおかしいなと頭を掻く。

「……アタシは、強い戦士の名前しか覚えないはずなんだけどな。最近は、なんか勝手に覚えちゃう奴もいるんだ」

「きっと、強い弱いだけじゃなくなってるんだわ。ツバキちゃんの、人を見る目がね」

 ピノンは優しい笑顔を向けると、「さ! そろそろ帰りましょう」と言って、立ち上がった。

 そして、冷え切ったアタシの手を、ぎゅっと握って歩き出す。

 じんわりと伝わってくるその体温に、不思議と……心の底にこびりついていた泥のように暗い気持ちが、少しだけ晴れていた。

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